キャラを立てる とは?
人は、パッと見の印象に左右される。最初に見た雰囲気が大事なのだ。特に「この判断が顕著なのが女性」だ。女性の男性を見る目はシビアだ。女性は 優秀な遺伝子を残そうとするため、優秀な遺伝子を持つオスを一瞬で判断する。「自分より 上か、下か」
下と見られたら「対象外になるだけでなく、軽く見られる。精神的には家来とお姫様のような関係性が出来上がる」それは、自然界の掟だから仕方がない。
中身を見て欲しくても、最初の印象が悪かったり薄かったりすれば そもそも興味を持ってもらえない。興味のない人の中身など誰も知りたいとは思わない。
つまり入り口で「つまずく」とその後、長きに渡って損な評価を受けるのだ。これは 良い悪い ではない。事実だ。
ましてや「人前に出る職業」なら尚更 最初の印象は重要だ。
だから、キャラを立て、自分の見せ方にはこだわった方がいい。
キャラは、自分の個性を強調したモノであること
いくら見せ方が大事だ、と言っても 自分に無いキャラを立たせるのは考えものだ。
自分の持ち味を強調し、魅力的に見せる。「作ったもの」ではなくて「元から自分が持っている魅力の強調」を心がけるべし。
自分が理想とする姿、好きな表現、得意なことで個性を作り、際立たせよう。
最初は恐る恐るでも、「意識してやっていると」徐々に魅力が際立ってくる。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィール を見てね
SONG-42 キャラを立てろ
グループ名が決まった。
「ロックンロール・ジーニアス」
オレたちは ロックンロール の天才になるんだ! そんな話をしたらみんなの顔が輝き出した。
よし、メンバーにも何かイメージをふくらませる名前をつけよう、と思ったんだ。
ギターのトモコは小っちゃくて活発に動きまわる。リスみたいな バンドのマスコット。
「お前は、チビだから チビ太。トモコ・チビ太って名乗れ」
「えー。なんでですか? 嫌ですよ。チビ太なんて」
「イヤならクビだぞ」
ボクの言葉に トモコはビクッと飛び上がった。
「あ・・あたし女なのに・・なんで チビ太・・男じゃん、チビ太って・・」
泣きそうな震える小さな声で トモコ は病人のようにぶつぶつつぶやいていた。
精神に異常をきたすほど、おどしが効きすぎたので ボクは諭すように優しく、トモコに。そしてみんなに説明した。
「いいか、オレ達のようなテクのないバンドは、キャラクターで勝負するんだ。キャラを立てるんだよ! 実力がつくまで待ってる訳にいかない。ヘタなうちから客を納得させるためには、強力なイメージがなけりゃ駄目なんだ」
「なるほど」
レイが感心したように頷いた。
トモコの表情も少し和らいだので、ボクは畳み掛ける。
「キャラを立てる、っていうのは中途半端じゃいけない。人間なんて自分のことしか興味ないんだから、自分の魅力をアホなぐらい強調しないと気がついてもらえないんだ。一回見たら、聞いたら。忘れられない存在になる。それが、キャラを立てる、ってことだ」
これは本当のことで、音楽の世界には「ダイナミクス」って表現方法がある。
曲中において強弱をつけることだが。
小さな音は、とても小さく。聞こえるか聞こえないかまで落とし、ここぞってところでドカンと強調した大音量にしたりする。音の振り幅、大きいところと小さい音が極端であればあるほどコントラストが際立つ。中途半端じゃダメなんだ。
「ついでに言うと、うちはリードギターもいる。リフがカッコ良く弾ける リズムギターもいる。だから トモコには”イメージ”ギターになってもらう」
「イメージギター?」
全員が首をかしげた。
「そう。ギターアンプのボリュームはしぼり気味にするから、ミストーンを気にせず 目一杯動け。サウンドは他のうまいギタリストに任せて、お前は今までのギタリストのイメージが変わっちゃうようなパフォーマンスに徹するんだ。飛び跳ねたり、走ったり。地面をゴロゴロ転がりながらギター弾いちゃうような」
そう言うと、芝居出身の連中の顔がパァッ、と輝いた。まこと も ワクワクした表情をして、
「それ面白いね。ハードロックの世界だと、そういう派手なプレイヤー多いけど、日本人はまだ地味だからなぁ。ちまちまテクニックばかり追求する奴が多くて。俺もそういうバンド探してたんだよ」
「だろ? これは革命だよ。思いっきり動いて今までに無い 派手なパフォーマンスバンド やろう!」
まことは、ボクの目を見て深く頷いた。なんか、心が通じ合った気がした。
「やっとわかった」と トモコも得心が入ったように明るい表情で「うんうん」と何度も頷いた。
初期メンバーのギターとドラムは 嫌そうな表情を浮かべたが、もうバンドマンにパフォーマンスのことは言わない。芝居出身の奴らがやればいいんだ。それに新しく入ったギターのまことが後押ししてくれたから嬉しくなった。
ベースは「レイコ」って名前だった。顔の作りが派手で切れ長の目と、スティーヴン・タイラーやミック・ジャガーのように大きな口を持っていた。うまく化ければ美人系のロッカーになれる。
「お前はルックスは派手だし、クールにしてりゃあカッコいいのに、どうしても”熱血君”になっちゃうとこがあるな。クールなイメージで ”レイ・ギャング”でどうだ。肩にかけるキーボードが売ってるから、それを買えよ。その方がベーシストっぽいぜ」
で、レイはリモートキーボードを肩からしょって弾くようになったんだ。
「よし、”レイ・ギャング”」
ボクは、自分がつけた キャラクター・ネーム が気に入って。さらに彼女にイメージ付けしたくなった。
「サングラスしてギャングっぽくしてみろよ。あ、そうだ。お前とチビ太はリーゼントにしてみ。キャロルみたいにさ。女でリーゼントは珍しいからクールじゃん」
トモコ・チビ太 は露骨に嫌がり、
「えー、なんであたしもリーゼント。トバッチリじゃん」
と言ったので、ボクは睨んだ。チビ太 は黙った。
「あたし、やりますよ。とも子、一緒にリーゼントやろう」
と、レイ・ギャング はボクの奇抜な提案を受け入れた。
「よし。それから、もう とも子とか呼ぶな。お前は レイ・ギャング。あいつはトモコ・チビ太 。呼びにくかったら チビ太でいい」
えー、とまた不満を言いそうな チビ太を ボクは睨みながら、
「いいか みんな。こういうことは徹底的にやらないと。普段からお互いをステージネームで呼ばないと、ファンの前で思わず とも子、とか口走っちゃう。それじゃダメだ。キャラ を立てろ! 個性を際立たせ、強烈なイメージをつけるんだ」
何人かが納得してうなずいた。納得しな
キーボードのヤスコは、素直だけどプライドが高く「お嬢様キャラ」
我がままだからクイーン。
「お前は今日から、ヤスコ・クイーンな」
「やったあ。あたし、やっぱり”クイーン”って感じですよね。お姫様」
「ちがうよ。メンバーの中で一番我がままを押し通して、皆に気を使わせる。つまり女王様級の我がまま娘ってことだよ」
「そんなことないです。もう」
「ホラ、また ふくれる。それがクイーンの証だよ」
パーカッション(ティンバレス)の久美子は、昔バレーボールやってただけあって、「ノリ」が体育会系だし、アネゴ肌で女の子のリーダーって感じだから、何か強そうな名前がいいな。
「うーん。”ツッパリ” ツッパリ・久美子にしよう。ちょっとイメージ違うけど。今なめ猫ブームだし」
女暴走族って感じでって。
あと男のサックスの奴が、会長。 これは”ひねり”が無いの。この間やった芝居の役柄が「会長」だったから。そのまま、会長。
「お前さ、バク宙出来るだろ?」
「うん」
「それ、やれ。サックスを吹きながら、突然バク宙するの。うん、ウケるぜ これ」
だんだんボクのイメージする エンターテイメント バンドになって来た。
他の連中は、とりたててイメージづけする必要も無いか、と思っていたら、マコトが
「オレさ。自分のギターに花火つけようかと思うんだ。前から試してみたかったの」
テッド ニージェントってギタリストがいて、ギターヘッドから火花が飛び散るアルバムジャケットがあるらしい。
それ、花火で表現してみようかって。マコト は、バリバリのハードロッカーだったから、そういう演奏パフォーマンスにも興味がある。そこら辺は、ミュージシャンと言えど 演劇出身の女の子たちと ノリがあった。
「おお、やれやれ。じゃあ マコトは音もデカいし、そんな派手なこともやるクレイジーなギターってことで。 ”マコト・クレイジー”に決定だ!」
パチ パチ パチって皆が手を叩いた。
さて、困ったのはもう一人のギタリスト、ヒカルとドラマーのトミノスケだ。
彼らは パフォーマンスには関心が薄く 地味だったし、これといった特長もなかった。
「トミノスケは、そのまま トミノスケでいいだろう。充分個性的な名前だし。ヒカルは”早弾きヒカル”な」
早弾きって言うほど早弾きでもなかったけど、イメージを つけたかった。
「カズさんは どうすんの?」
「オレはカズのままさ。Mr.ロックンロール!オレの存在自体が 充分、ブランドイメージなんだ」
「ずるーい」
実はこの「キャラを立てた」ことが、このバンドの一番の成功要因になったと思ってる。これは大変な「ブランド戦略」だ。あの頃の自分を褒めてやりたい。ビジネスの観点から言っても、マーケテイングとして非常に優れている。ファンを作るための強力な個性づけ。他との差別化ーー
名前を聞いただけで興味を惹く。イメージも名前と一致する。だから一度見たら忘れない。これでファンが一気に増えた。その後、このバンドが あそこまで上り詰めるのも、ブランド戦略が成功したおかげだと思う。
ま、もっとも それは後の話。最初は、ひどいもんだった。
新メンバーになってから最初のステージは、法政大学の学園祭だった。
高校の時の友達で法政に行ったヤツ。前に、バンドメンバーが見つからず「一緒にバンドやろうとしたけど、結局やらなかった大学生の菊地」(詳しくは、こちら) がね、呼んでくれたんだよ。
アンプも足りなくてミキシングもぐちゃぐちゃ。 もっともそんな細かいこと、言える技術もないし。 バンドなのにMC(曲と曲の間のしゃべり)の代わりにコントみたいな芝居を入れたり・・大変だったけど、とり合えず初 LIVE が終わって。
「なんかさぁ、芝居じゃないよね。これ」
トモコが言った。
「あたり前だろ。バンドだもん」
ボクが答えた。
「あたしたち、バンドより芝居がやりたいのに」
誰かが言った。
「・・・・」
その考え、その後も何ヶ月か 女のメンバー達は持っていた。
「オレはバンドがやりたいんだ。オレとやるならバンド。芝居をやりたい奴は、そっちの道に進めよ」
代々木の駅かなんかで。練習帰りかな?メンバーにボクが言った。
ボクはバンドの連中には「芝居がかったことなんかさせちゃって悪いね」って謝ってたし、一方 芝居出身者たちには 早く音楽の世界 に来てもらいたかった。
その時のボクの気持ちとしては 新しいもの、新しいスタイルの音楽がやりたい。でも、その設計図を持っているのはボクだけだったし、青写真のような話をしても 心底解ってはもらえない。ボクの前に道はない。後ろに出来た道を見れば、いかに斬新で凄いことをやってるかわかる。だから、つべこべ言わさず実践で見せていくしかない。
だからバンドにも、芝居にも あたりさわりのない、というか耳障りのいい話をしてお茶を濁していたんだ。
でもいよいよ核心にせまられて。
「わかったよ、もう。芝居やりたいヤツ、そっち行けよ」
って言ったんだ。
女のメンバー、黙っちゃって。
「・・・」
でも連中、結局ボクとやる方を取った。芝居への情熱は、徐々にバンドへの情熱へと変化したし、結果としては 良かったと思ってる。
ただ、「ツッパリ久美子」にね、アイツ酒ぐせ悪いから。酔った時に首を絞められたんだ。
久美子、ボクの首を絞めながら、
「おどりゃー! おのれが悪いんじゃ―。芝居からバンドなんかに変えやがってー!」
冗談半分、本気半分だったんじゃない?
皆 笑ってたけど、ボク アイツの寂しさがちょっとだけ解った。
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