SONG-56【バンドに起こる人間関係を知ろう】テキ屋の親分

バンドは人間修行の場

「究極の人間関係モデル」

バンドは「究極の人間関係モデル」だと思う。お互いの利用価値が薄くなった時点で疎遠になることが多いからだ。

バンドに限った話ではないとはいえ「色々なグループやコミュニティの中でも、特に人間関係を保つのが超難関」なのが バンドだ。

テクニックの差、力関係、方向性など、衝突の原因はいくつもある。
お互い、相手に対して「魅力を感じているうちはうまくいく」

そのバランスが崩れだすと、争いが起こり始める。

そして、各パートが分かれているため、その守備範囲で認められないと存在価値がなくなる。サウンドそっちのけの「仲良しバンド」ならバンドが無くなり「友人関係が優先されてゆく」し、バンドの成長を優先するなら「レベルに達しない個人は、やがて切られて別のメンバーに変わってゆく」

厳しい世界だけれど、ある意味 わかりやすく「潔い真っ当な人間関係」とも言える。


具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。

ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜

ボクについては プロフィールを見てね

relationships
目次

SONG-56 テキ屋の親分

テキ屋の親分

原宿の屋台は、「日本堂」っていう会社組織になってるの。

屋台のおじさん、色々 気を使ってくれてた。

「今度、正月のイベントに出演してもらうからさぁ。三が日、飲み食いしながら演奏するだけで、ギャラいっぱい貰えるぞ」

「ヘー、ギャラ付きですかぁ。いいっスね」

「だろ? 去年まではスモウ部屋から力士呼んで、もちつき大会やったんだけどな、お前らの方がよっぽど人集められそうだ。社長に話、通すからな」

土俵上の力士のイラスト切手。

社長っていうのは 日本堂の社長のことで、あそこらへん一帯の屋台をしきる テキ屋の親方のこと。

「今、おやじ別荘の方に行ってるから、帰ってきたらな」

「あっ、別荘持ってるんですかあ。いいなぁ」

って言ったらね。

「バカ。別荘って言ったら おめえ、塀の中のことだよ」

「えっ!」

・・・そう言うことですか・・

日本では服用できないおクスリか何かをどうとかして、司法と揉めて、しばらく静かなところで暮らしてたんだって。ヤバイ。ヤバイ。

high fence

で、その社長 「別荘」から帰ってきて、ウワサを聞いてボクらを見に来た。

ステージを見て。一発で気に入ってくれてさ、

「リーダー。いいバンドやってんなぁ。これ、飲んで」

爽やか。

親分って言われなきゃ、なんかのスポーツやってる選手に見える。

ビール4ケースも差し入れしてくれたんだ。ちょっとしゃがれた声で、漢気のある お祭り好きの元気な体育教師、って感じの人だった。

幹部の人を紹介されて、その年の正月のイベントの打ち合わせをした。

幹部の人、のどの所に深い刺し傷があんの。
ぐーっと何かを喉に突きつけられて、グイーって強引に押しこまれたような傷。

アレ 見ただけで恐いよ。どんな修羅場くぐってんだろうってね。

wild gentleman

黒づくめのヤクザ風の3人組の画像。

正月、そのライブをやってたら、関西の方から「ソレ」もんの人たちが いっぱいアイサツに来てた。名前を言えば 皆知ってる、有名な大組織の「あばれん坊」さんたちだね。

レイ・ギャングのことを気に入ったらしくて、「関西に連れて帰ろうかな」なんて話してるのを、日本堂の社長が止めてくれたりさ。

ちょっと危険と隣り合わせの部分もあるんだけど。

テント小屋のこたつに入りながら、日本堂の社長がボクに持ちかけるわけ。蜜柑(みかん) 食べながら。

「リーダー、気に入った。今度の夏、葉山の方に“海の家”出すから、その前で演奏しろよ。売り上げの何%か出すからさぁ」

って。

屋台のおじさんたちは、うらやましそうに、「やれ やれ」って言うの。テキ屋のおじさん

「経営は俺たちに任せて、リーダーはバンドの事だけ考えてりゃいいから」

って。

「それで、一夏 300万円はカタいぞ。そのぐらいのギャラは払えるぞ」

ってね。

Money&Music

何だかスゴくデカい話で、ちょっと気が引けた。

他のメンバーとかも、コタツの中でボクの足をつついて「NO!」「NO!」って目くばせするの。失敗したら、どんな責任取らされるか解らないからって。

最初、ウヤムヤな返事をしていたんだけど、ああいう人たちの目って鋭いね。胎が座ってる。

じっと強い光を放った目で、こっちの目の中をのぞいてくる。心の中をそのままのぞかれてる感じでさ。

「腹割って話してんだから、嘘や誤魔化し言わず ちゃんと返事しろよな」

って無言の圧力が空気を重くする。

適当にお茶を濁したりは出来ないと思った。

覚悟を決めて、相手の目を見て 素直に、

「やりたいけど、怖いから出来ません」

って謝ったんだ。

そうしたらニコッと笑って、「わかった」って納得してくれた。ふぅ・・

man with strong eyes

ご近所恋愛

その頃、ファンとメンバーとの間が ちょっとギクシャクしだしたんだ。

理由? そう、たとえば こういうの。

ボクはファンとは、必要以上には親しくしない主義で。

ある程度の一線を守らなければ、ファンとミュージシャンの関係は保てなくなると思ってる。秘密のベールに包まれた部分を残さなければ、カリスマにはなれない。

でも そういうこと、わかってる奴が何人いたか。

ファンなのか、彼女なのか?

一緒くたになるのは「ご近所恋愛」と言う。

なんでも ごちゃごちゃになると、なんか気持ち悪い。居心地が悪くなるよね。一般社会でもありがちじゃん。昨日まで「アイツの彼女だと思っていたら」今日は「お前の彼女になったの?」なんてね。ビックリ!


「線引き」ぐらいはしといてよ。グラデーションの期間もなく、いきなり「中国雑技団」の早変わりみたいにカップルが入れ変わると驚くんだわ。

ファンの子と仲良くなる。

いいぜ、別に。恋愛は自由だ。

A woman who was promoted to girlfriend by a fan

でも、そうなった子は もうファンじゃない。

向こうだって「特別」になったと思って見にくるじゃんか? すると別の「特別」とカチ合うワケで・・ ワカル?

「何 アンタ」

「アンタこそ何?私は誰々の・・・・」

てな話でモメるだろ?

A man who enjoys romance with multiple women

そういう話はファンの間をすさまじいスピードで駆けめぐるからね。

「私、遊ばれた」

とか、

「何だ、ジーニアスもやっぱりそういうグループなんだ」

って話になっちゃう。

そうならないように。グループのメンツが保てるように。こっちは影で調整しなきゃならない。大変だよ。

でも、そんなことより。ボクが一番頭に来るのは、他のメンバーをけなす奴がいるってことなんだ。

A woman who investigates cheating from behind the scenes

「このグループは俺でもってるんだ」

ってフロシキ広げてるうちは、まだいいんだけどさ。

「あのメンバー、ヘタでさ」

とか始まる。

「あいつのフォローするの大変なんだよ。音楽も知らねぇくせに、カッコばっかはいっちょまえで」

なんて話、ファンの前でする。

ファンは素直だからね。ピュアというか・・

うのみにしちゃうじゃない?

「そうなんだあ。あの人が足引っぱってるのか」

だんだん、バンドのファンっていうよりも個人のファン。「バンド内派閥」みたいなものが出来てきちゃってね。バンドのイメージを維持するのに苦労した。

A woman who is spoken ill of behind her back

ボクの努力とは裏腹に、グループを駄目にしていく奴がいるからさ。チグハグしだしたんだよ。

わからないのかな?

グループが駄目になったら、自分の評価だって下がるってこと。

わからなかったんだよな、きっと。

あの頃、TVの取材を受けて。スタジオの練習風景を撮ったビデオがあるけど、ボク 疲れた顔してるもんね。

もう病気みたいだよ、表情が・・

それからしばらくして、「トミノスケ」と「ツッパリ・クミコ」がやめたんだ。

あの2人、バンドがはじまって すぐつき合いだしたの。

そうしたら、ツッパリ・クミコの言動がおかしくなってきた。

トミノスケ の代弁者みたいになっちゃって。どんどん遠く離れていった。精神的に違う人間になっていった。

「おい、ツッパリ・クミコ。どこへいっちゃうんだ」

と思っていたら・・・・

Encounter and farewell

寂しかった。ずっと一緒に苦労しながら積み上げて来て。根性もあるし、才能的にも、いいもん一杯持ってるのにさ・・・

しょうがない。女の子は、1つのことに真面目に突き進んで。形にしていく能力はすごいけど、男でくずれたら早いね。残念だ。

残念と言えば、会長。

あいつは、もうとっくにやめていた。

あまり派手な場所を好まない奴でさ。プロになる気も無いって言ってたから。いい奴だったけど、もう ずっと前に辞めた。

ボク、別の道を歩こうとする奴を引き止めたりはしない。どんなに寂しくてもね。 追いかけたって戻って来ないことは、今までの経験でイヤッてほど思い知らされてるから。

トミノスケ が 「やめたい」って言って来た時も、「あっそ、わかった」って それで終わり。後でアイツ、言ってたよ。

「全然引き止めて貰えなくて、寂しかった」

って。

でも、そういう駆け引き 嫌いだな。

「やめる」って言ったらやめる。「やる」って言ったら、やる。うじうじした、「引きとめごっこ」なんてボクは大っ嫌いなんだよ!くだらねぇ。

farewell

トミノスケ の様子は、もう大分前からおかしかった。

ドラム叩くって言うよりも、不満を殴りつけるような、荒れたドラムになっていたからね。練習中に、あまりにもひどいから、

「どうした? 何か気に入らないことでもあるの?」

って聞いても

「別に。何でもないよ」

って。ただ答えるだけ。

多分、バンドの音楽性がね、最初はじめた頃と違って行ったのが理由かな。マコト・クレイジーが加入したあたりから彼の態度がおかしくなってきたからね。ジャンル的に「派手なギターの音色を前に押し出すハードロック」に変わった。

そういうバンドがやりたかったから ボクは大喜びだったんだけど。トミノスケ は違ったんだ。

つまり、ボクたちはロックバンドを目指しはじめ、トミノスケ は もっと巷で流行っているような・・ TVに出てくる J ROCK がやりたい訳だから。

イライラは、つのる一方だったみたい。

Breaking the limit
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