世の中「暗黙の了解」大人の事情
というものが存在していて。
「持たざる者」は振り回される。ただただ 翻弄される。
その現実の世界を、生身で歩いて傷だらけになってきたのが ボクだ。
だから この物語で真実を話しているんだ。今のボクにはわかっていることがたくさんある。今のボクがいれば、あの頃のバンドは 迷走せず、成功して栄光を掴んでいただろうね。敵が何を考え、どう立ち回るか よーく知っているから。
持たざる者は、振り回され 蹂躙される
恐ろしいんだよ、世の中は。
ファンを増やして、発言権を持たなければ成功できない世界なのだ、と今は わかっている。あの頃は分からなかった。だから血反吐を吐くほど悔しく、悲しい思いをした。
マーケティングの力が必要だ。そしていい出会いと、時の流れを味方につけること。全部わかってる。今のボクはね。
何をやるべきかを。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-90 エロ・タイアップ
三者会談
九州ツアーから帰ってきて。
ボクの弟の 耕次 と B・ミュージックの VIP-中島 社長 と ボクで 三者会談 を行なった。
ボクが強く望んで 弟に頼み、プロダクションの社長と会う機会を作ってもらったんだ。
聞きたい、確認したいことがあった。
レコードの発売日。つまり、ボクたちの デビューの日は いつなのか、だよ。
それを、ボクらの命運を握る B・ミュージックの VIP-中島 社長 の口から直接聞きたかった。言質(げんち)をとって外堀を完全に埋めたかったんだ。
「ボクらの CD の、発売っていつになります?」
「10月だよ」
ボクの質問に、中島社長が さらりと答えたので、少しホッとした。「なんだ、それは間違いないんだな。オレがナーバスになりすぎてるのか」
と、安心したものの。
「10月の、いつになります? 何日ですか?」
と重ねて質問すると VIP-中島 社長 は、
「10月の・・末だな」
と言うので
「10末・・・日にちは?」
続けざまの ボクの質問に、中島社長は露骨に 面倒臭そうな顔をした。
その表情が、とても 不誠実に見えて。ボクは不穏なものを感じとり、重ねてデビュー日を聞こうとすると 耕次が、
「8月20日が、2か月延期って話でしたから。10月20日ってことですよね? 社長」
と横から口を挟んだ。
「ああ、そう。10月20日」
中島社長の答えに、ボクは一気に不安が増した。「なにそれ? 取ってつけたみたいな答え」
ボクは VIP-中島 社長 の口から直接聞きたいんだよ。それを、弟に邪魔された。
助け舟を出して、約束を曖昧にしてどうすんだ。と思った。
そりゃあ 耕次 も、ボクが詰めすぎて雰囲気が悪くなるのを緩和したかったのかもしれない。でも、10月20日にデビューするとしても もう 2か月ちょっとしかないんだぜ?
いろんなところにお知らせとかしなくて良いの?
色々と準備、あるだろう?
プロダクション側のスタッフの動きが・・
8月デビューの時までは あんなに激しく活気があったのに、今は静かすぎる。
レコーディングやポスター撮影が終わったから、という見方もできるが。こんなもんなのか?
デビュー初めてだから、そこら辺の業界事情、わからない。
「とにかく 10月。10月には間違いなく君達の CDが 日本レコードから発売されるから。楽しみにしてて」
と一気にまくしたてた VIP-中島 社長 は、チラと時計に目をやると
「じゃ、次の会議があるから これで良いかな? うん、じゃ頑張ろう」
と会議を終わらせ席を立った。
耕次を見ると「良かったじゃん」と笑顔で、なんの不安もなさそうに笑ってる。
ボクだけ、違う世界に生きてる宇宙人の感覚だった。
ボクだけ、納得しきれないのはワガママだからか?
プロの洗礼
鹿児島を起点とした「九州ツアー」では 様々な洗礼を受けた。
自分たちを好意的に受け入れない人たちの存在も知った。それは、そんなに少ない数じゃない。プロになるということは、「自分のファンだけに囲まれて」拍手喝采のライブをやるだけじゃないんだ。
自分に好意的じゃない人にも「演奏、パフォーマンスの力によって」楽しませる。「もう1段階上の音楽」を披露することが要求される。
口先だけで「俺たちはプロだ」と言うことの無意味さ、醜さ、かっこ悪さも識った。
アマチュアは、時にプロ以上の演奏をする。条件が整って、ノリノリなら。120点のライブが出来る。
でも、プロはどんな条件の時でも「コンスタントに 70点以上の演奏を披露しなけりゃいけない。コケることは出来ないんだ。アウェイな場所でも。
それが安定感ある、プロの演奏ってことだ。
そういう意味で、九州ツアーは本当にボクらのバンドを成長させてくれた。不屈の闘志、精神を養ってくれた。一方、虚しさも募る。
地方のTVに出て、ラジオに出演して、有線を回って、CDは出てないけど、
「10月に出るから」っていうことで、DATのデモテープをかけてもらって。一生懸命キャンペーンした。
でもタイミング的には、ずれてるんだ。ここでCDがあれば、すごくセールスに結びつくことでも、デモテープじゃあ、単なる使い捨てのキャンペーン。
投資に見合う回収は望むべくもない。
ライブをやったり、イベントに出演してもね。
「10月にデビューします」
って連呼するだけじゃあ、具体性がないわけよ。
「フーン」
で終わっちゃう。これじゃあ、アマチュアの時と変わらない。
だから VIP-中島 社長 に キチンと確認したかったんだけど・・・
エロ・タイアップ
やがて ボクらの曲が、テレビから流れてくる日がやってきた。
番組で曲が流れる初日。例の、やらしい番組の中で。女のケツとか胸とかいっぱい出てきてさ、恥ずかしいし情けない気分。それでもーー
自分のバンドの演奏が、テレビ電波に乗って多くの人たちの耳に届くのは やはり嬉しかった。
テレビの前に 全員集合して。
番組を見て。ついにボクたちの曲がかかった時には、メンバー全員で拍手したもん。
もう現実に起こったことしか、信じられなくなってたからね。今度こそ、タイアップできた!
「でも、これ。エンディング テーマって言うけど、エンディングじゃないよねぇ」
誰かの言葉にみんなが頷いた。
確かに。エンディングに近い所ではあるけど、視聴者へのプレゼント コーナーみたいな所だった。商品の説明をしながら、バックに曲が流れる。
「単なるB・G・Mじゃねぇのか?」
ギリギリのサギに逢ってるような、すごく変な感じだ。
ま、それでも画面にジーニアス。カッコして日本レコードって出たから。とり合えず納得はしたけど・・・・
最初の1、2週はね、まともに曲が流れてたよ。でも・・・
発売日になっても CDが出ないんだ。
愕然としたよ、今度は CDが発売されない。あれほど約束したのに・・・
予定日が来ても販売されない。無視。
実は予感は あった。
キャンペーンして廻っちゃあ「10月にCDが出るジーニアスです、よろしく」って・・
馬鹿だなと思いながらも不安を振り払うように行動。キャンペーンして回ってた。
馬鹿だよ、馬鹿。ボク、ほんと自分で馬鹿だと思ったもん。
不確定なのに「10月にCDが出ます」って。周りだけじゃない、自分自身を説得するように断言して。
今 振り返りゃ涙が出るわ。
心配してくれる奴らもたくさんいてね。大手のレコード店に勤めてる知り合いなんか、
「おかしいよ、KAZちゃん。10月に発売されるCDのラインナップが各社出揃って ウチに送られて来たけどさあ、ジーニアスがどこ探しても載ってないんだ」
「えっ・・・」
耕次に聞いたらね、
「いや、アニキたちは シングルCDだし・・実験的に1枚出して売れるか様子を見る段階だから。売れるまでは そんなメインの扱いはしてくれないんだよ」
って、 B・ミュージックの VIP-中島 社長 の言葉を「言われたまま」そのまま信じて、伝えてくる。
そういう、つかみどころの無い説明を受けて。怪しい、怪しいと思いながらも 一縷の望みに賭けて 日々を消化していたワケ。クロコダイルのライブには2回、ビーイングのスタッフと中島社長が見に来た。
中島社長が客席に座ってるのが見えた時、あまりにも怒りが込み上げてきて
「業界ってのはさぁ、ほんっと約束破ってばかりで困るよ」
ってステージの上からお客さんに叫んだら、社長。椅子から転げ落ちそうになるぐらいズッコケてたもんね。
でも、それが精一杯。そのぐらいしか抗議できる場所もない。こっちは「持たざる弱き者」の立場だから。
だからさ、不安ではあるけど 細い糸をつかんで昇ろうと必死だったんだ。必死だったんだよ・・ どう? ボク、間違ってる?
で、ここに及んで 発売日になっても CDが出ない。
今度はタイアップに対する契約違反だよ。
「どうなってるの? 番組に曲が使われているのに、いつになったら発売されるんだよ」
タイアップに合わせたCD展開。その予定が、またもタイミングをはずされた。
そうしたらさ、どうなったと思う? あー、もう書くのもイヤだ!!
序々に番組から流れる音が小さくなって・・毎週ボリュームを絞られて・・・最後の方なんかは、もう出演者の声の方が大きくなって耳を澄まさなきゃ聞こえないんだ。
ひっでー話だぜ、何から何までさあ、実際。
普通こんな事やられたら事務所かレコード会社は黙っちゃいないけどね、ボクらは もうヤラれ放題。
よってたかって蹂躙されてるようなもんだよ、業界だかなんだか 得体のしれないモノにね。
発売、延期!延期!延期!
「また 2ヶ月 延期らしいですよ。今度は12月。年末発売だって」
スタッフの言葉は、まったく耳に入ってこなかったし 胸に響かなかった。嘘つきに振り回されて、もう感情が無くなったんだ。
★
ケーシーさん、何も言わないけど 状況が悪くなってることは肌で感じてわかるよ。
絶対におかしな方向へ進んでる。
それでもやっぱり、誰も「そのこと」には触れない。
もうすぐデビューだから。安心して。大丈夫だから。
ミーンな壊れたレコードのように、同じセリフをグルグル呟いて。
「CD発売 延期」また2か月延期。12月発売に変更、って・・・
もう、怒りの感情さえ湧いてこない。ボーッと「また やられたよ」って気持ち。これ以上、嘘つきの世界にはいたくない。まともな話が通じる、普通の世界で頑張りたい。
離脱しようと試みるんだけど、またみんなに
「もう あと少しだよ。2か月伸びただけじゃない」
と言われる。
なんで?
なんで みんな そんなに信じられるの? 落ち着いていられるの? ポジティブ・シンキングで大船に乗った気持ちでいられるのは ナゼなんだーーっ!!!
スタッフの「ポジティブ・シンキング」とは反対に、さすがに バンド・メンバーは不安に包まれた。どうなっちゃうの、これから? また元の職場に戻る?
口には出さなくてもわかるよ。目が語ってる。ボクへの接し方も雑になってきてる。
だから スタッフには「ヤバいよ」って話をするけど メンバーにはできない。出来る雰囲気じゃない。でも、明らかに態度が変わってきてるんだ。
トミノスケは、また反抗的になり バカにするような顔で ボクの意見を無視するようになった。出たよ、と思ったけど 状況が悪いことを わかりやすく教えてくれる「バロメーター」のようなものだ。そう思えば腹も立たない。
「ポジティブ・シンキング」のくそ明るいスタッフの雰囲気と 反抗的になってきたバンドの雰囲気。
それが今の状況と行く末を暗示しているように思えた。
ケーシーさんだけは、それでもこの事態を好転させようと ボクを 連れて いろんな業界人に会いに行ってくれた。ファー・イースト、つまり極東地区のアメリカの TV番組のプロデューサーにも会わされた。
いろいろ現状を話して「そっちで ジーニアスの番組作って盛り上げてくれないか?」って頼むけど、難しい顔をされたり。インターFMで、ラジオパーソナリティをしている黒人の友達がいるから、ってFM曲に連れて行かれて。ケーシーさんのお願いなら「ボクらの タイアップ曲を流してくれる」と思ったけど・・・
結局そういうのって「大人の事情」が絡む話でさ。今のボクたちの状況じゃ「誰も助けの手を差し伸べられない」
レコード会社も、プロダクションも本気じゃない。
業界側に、もう「やる気がない」ってことだよ。
孤独。いつもの孤独がやってきた。
うまくいかなくなると、いつもやってくる 孤独は「腐れ縁の友達」みたいなものだ。
スタッフからも、バンドからも距離を置いて 一人街を歩くことが多くなった。
彷徨うように街を歩く。
10月の「約束のデビューの日」は、もう とっくに過ぎちゃって、クリスマスの気配さえ近づいているのに。
街は浮かれてイルミネーションも綺麗だ。
でも、ボクは。
暗闇の中を歩いていたーー
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