「人が持てる量」には限りがある。
不要なもの、自分を堕落させるものに囲まれていると、「良いものが入り込む隙間がない。」だから断捨離。大掃除して全てを捨てるのだ。人脈も持っているものも、一旦綺麗に捨てる。
そう。コツとしては「全てを捨てる」と、まず決めること。
人は執着する。なかなか捨てられないのだ。だから、全てを捨てる、と決める。
すると、「どうしても、どうしてもどうしても」捨てられないものがあることに気づく。
これが無いと自分じゃなくなる、とか。これを捨てたら死んでしまう、というようなもの。なにはなくとも、これだけは死守したい、と思うもの。
それこそがあなたに本当に必要なものだ。
以前話した、人が劇的に変わる3つのT
逮捕、大病、倒産
これらは外部から「強制的に」状況を変えるということ。
一方、ボクのやり方は もう1つの T
他人ではなく自分でリセットする方法だ。
「渡米、渡欧、渡印・・・」
言い方を変えれば〔自分のことを誰も知らない場所へ引っ越し、一からやり直す〕自分で出来るのがいいところだが、このやり方は甘えが生じやすい。1人ぐらいは知り合いがいてもいいだろう。その方が安心だから、とか 今までの暮らしの足跡を残してしまう。
これは、カビ掃除をしていて カビの根っこを残すのと同じである。
表面上カビがなくなっても、残ったカビが繁殖してまた元の状態に戻る。
自分でリセットする難しさだ。だから自分でやるリセットも、人生で1回か2回しかできない。リセットする時には「今までの全てを失ってもいい」と思うぐらいの強い決意と覚悟が必要だからね。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィール を見てね
SONG-10 刑務所脱出
そうやって貯めた金を持って、ある日銀座に行った。「留学相談協会」の事務所に。
1年浪人? して再び大学受験の日がだいぶ近づいていたころだ。
「今日は渡航費用を持ってきましたよ。語学学校も決めたいんで手続き代行してもらえますか?」
というと、おおー、ついに留学なさるんですね。偉い偉い、と担当者は上機嫌になった。
「留学って・・旅行でしょ、単なる」
「いえいえ。これからはね、こういうお勉強のスタイルが流行るんです。立派な留学ですよ」
小ちゃいオフィスの中に、ドーンとアメリカとイギリスの地図が貼ってある。
「さて池松さん、どちらの大学へ行かれますか?」
いちいち大袈裟な担当者だ。どちらの大学、じゃなくて。その大学付属の語学学校だろと思ったが口に出さず、
「日本人の一人もいないところ。できれば海の近くがいいな」
ボクの言葉に担当者はクスリと笑って、
「今じゃ世界中、どこへ行っても日本人の方、いらっしゃいますよ。一人もいないところっていうのは難しいけど、フロリダなんかどうでしょうか?」
「フロリダ?」
「ええ、ここ。アメリカのずっと下の方。マイアミ大学」
差された地図を見てみると、南アメリカのすぐ近くだ。
「うーん。よくわからないけど、じゃそこでいいや。手続きしてください」
「わかりました。じゃ、I-20 の申請をしますのでこちらの用紙に記入を」
I-20 (アイ トゥエニ)と言うのは学生ビザと言われるもので、向こうの学校が入学を許可すると発行してもらえる。観光ビザは最長でも3ヶ月ほどで切れるが、I-20 があれば、その学校に通う限り半永久的にその国に滞在できる。
パスポートの申請はもっと後でいいらしいので、とりあえず「マイアミ大学の付属英語スクール」に願書を送った。うわー、やっちゃったなー。いよいよ動き出した。もう後戻りはできないぞ。
「しかしお客様のような方は珍しいですよ。普通、日本人がいる、ある程度安心なところを希望される方が多いのに」
「そうですか。ところでマイアミって、どういうところですか?」
「暑いところです」
ガクッときた。なんちゅう中身のない答えだ。この担当者はなんか薄っぺらい話をするなと軽く苛立って、
「いや、そりゃ何となくわかるけどさ、そうじゃなくて」
「とにかく行ってみましょうよ。実際に行かなきゃ詳しいことはわかりません」
「もしかしてボクが初めてですか? マイアミは」
「ええ、あっちの方は・・・ うちではお客様だけですねぇ」
大丈夫かな? とも思ったけれど、それ以上聞いても無駄だろう。
合否発表」の日にパスポートを取りにいく
再び大学入試の季節がやってきた。
受験生の中に混じって、ボクも大学近くまでは行くけれど、試験は受けないので中には入らず時間を潰して家に帰った。期待する親の顔を見ると、さすがに胸が痛むこともあるがボクはもうとっくに誰かが敷いたレールの上をはずれている。あとはレールのないジャングルをかきわけて進むだけだ。もう後戻りも後悔もしない。自分の未来は、自分で扉を開けてやる!
この年はわりと暖かく、横浜に雪は降らなかった。受験生にとってはありがたい話だろう。桜はまだ咲いていないが、ボクが受験した(ことになっている)大学の合格発表の日がやってきた。
その日、当然といえば当然だが、ボクは合格発表の会場には行かず、銀座の「留学相談協会」のオフィスに寄ってパスポートを受け取った。オープンチケットと言って、いつでも乗れる航空券も受け取った。バイトはまだ辞めてなかったから出発日は未定(結局、日本を離れる日はこの日から数ヶ月後だった)英語スクールの入学許可は5ヶ月後のコースから受講可能とのことだった。それらの書類を全部持って帰宅した。
待ち構えた母親は玄関先まで飛び出してきて、受験の合否はどうだったかと聞いてくる。それを制して
「大学は行かないよ。アメリカに行くんだ」
と言った時の母親の顔はいまだに覚えている。ボケてしまったのかと思うぐらい口をポカンと開けて事態がまるで飲み込めていない。
家に入って今までの経緯を説明した。悪魔の計画のすべてではないにしろ、オブラートに包みながらも全体像がわかるように話していく途中で、母親の顔がどんどん険しくなっていくのがわかった。最終的に大声でわめきながら物を投げつけてきた時の顔は般若そのものだった。
当たれば怪我するような、かなり危険な固形物もボクに向かって投げてきたので身の危険を感じボクはあわててサンダルを履き外へ逃げ出した。後ろから隣近所にも聞こえるような母親の怒声が聞こえたが、後ろは振り返らなかった。
ボクはとぼとぼと歩いていた。あてもなく、どこまでもずーっと歩きたかった。今までのことが思い出された。愛情表現のへたな親だと思う。けっして憎いわけではないこともわかる。でも自分勝手だ、子供を所有物だと思っている。いや、違うかな。まぁ、どうでもいいや。今回のことではボクもひどいことをしたし、おあいこだな。
歩道脇の国道を、長距離トラックがビュンビュン飛ばして走り去っていく。
「映画とかだったら、ここでヒッチハイクして車止めるんだけどな」
いろいろ考えながら歩くうち、体が冷えて寒くなってきた。あたりまえだ、足元はサンダルだしスースーするな。興奮して怒りながら歩いていて気づかなかったけど、あたりはすっかり暗くなって、それでも国道沿いをずーっと永遠に歩き続けている。寒い。
Telephone Box に入って体温の低下を防ごうとしても足元の隙間から冷気が入ってくる。たまらず、また歩く。どこかのマンションの玄関に入る。少し暖かい。住人に変な目で見られる。再び出ていく。歩く。Telephone Box 。歩く。マンション。歩く。その繰り返し・・・
やがて何度目かのマンションに入ったら朝刊の配達員がやってきた。もうそんな時間か。外に出ると少し夜が白み始めている。坂を登って、あれ? 一般道だと思ったら、いつの間にか高速道路の入り口に迷い込んでる。危ない、危ない。
一般道に戻ると電車が走ってる。小田急線の知らない名前の駅。くたびれた・・・
路線図を見て驚いた。「こんなに歩いたのか」ポケットを探るとジャラジャラ小銭があった。あわてて飛び出したから札はない。そこから切符を買って、とりあえず荷物を取りに家に戻ろう。出発の日まで、友達の家にでも居候させてもらおう。
泥棒のように、家のといを伝って二階の自分の部屋に忍び込んだ。音がしないように、そうっと窓を開けると。ボクのベッドに母親が座って泣いていた。
離陸
出発の一週間前になると、さすがにボクも胃が痛くなってきた。知ってる人は誰もいない、言葉も通じない。不安になってくる。
あれから家族と話し合って、お互いに納得して和解した。着服した金も返さなくていいって。さらに少なからず餞別までくれた。こんなことなら騙すんじゃなかったかな、とも思ったけれどもう遅い。結局、当初目標にしていた金額の2.5倍近い大金を持ってボクは旅立つことができた。
悪い錬金術もしたけれど、いっぱい働いたから溜まった金だ。大事に使おう。大半はトラベラーズチェックという旅行小切手に変えて、盗まれても大丈夫なようにした。キャッシュは洋服の内側に隠しポケットを作って縫い付けてもらった。
機内に乗り込む。
「バイバイ 灰色のオレ」
窓から見える空港のビルのどこかに、昨日までのボクがいて、追いかけてくるような気がした。早く手の届かない空まで昇っていきたかった。
ジャンボジェットは、ゆっくりと羽田を離陸した。
はじめは動いていた人も車もどんどん小さくなっていき、現実感がなくなってやがて「絵」のように動かなくなった。ボクの過去も固まって小さくなって・・・ 消えた。
このまま飛行機落ちたらどうしよう。一度もアメリカを見ずに死ぬのは嫌だな。だいたい言葉も通じない国でやっていけるのか?
長時間何もすることがない機内では、くだらない不安ばかりが湧いては消えた。一つの心配事を追い払うとまた別の不安が頭をもたげる。
「馬鹿じゃねぇの。そういうカッコ悪さは日本に捨ててきたんじゃなかったのか?」
思いっきり自分を笑ってやった。そういう自信のなさ、もうヘドが出るんだよ。
ハワイに着いて、入国手続きがあった。これが最初の関門だ。移民官がペラペラまくしたてる本物の英語。わかんない。パーパス? 入国目的聞いてんだろう。
スタディー イングリッシュ! アイルビー スチューデント! 自分でやったこともない大げさな身振り手振りで必死に叫ぶと、
「オーケー、ボーイ。テイクイット イージー。ハブ ア ナイス トリップ」
ハハッ、と笑いながら彼はポーンとパスポートに大きなハンコを押してくれた。
そして飛行機を乗り換えてロスの空港で降りると「ありゃりゃ外人ばっかりだなー」と驚いた。右も左も外人だらけ。と思ってよく考えてみりゃ、ボクが外人なんだ。ここでは。
───で、やっとアメリカ本土に着いたと思ったら、また飛行機の乗り換え。今度はプロペラのついた、あまり大きくない飛行機。もうケツが痛いよ。さらにロスから6時間ぐらい。途中で給油で待たされて、やっと。
フロリダ州のマイアミに着いた。
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次回、新章 突入!
第2章「アメリカ」
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