どんなに準備をしても、完璧ということは、ない。
どんな世界でもーー
本番でしか身につかないモノがあるんだ。何回リハーサルを重ねても、本番を経験しないと得られない感覚。
本番は、怖いよ。
当日が近づくと逃げ出したくなる。
でも、経験すると財産になる。本番の経験だけは、教えられない。やったモンにしか、わからない。何回経験しても緊張する。
でも、この緊張が成長させてくれるんだ。練習では身につかない「キャリア」を得られる。
「キャリア」とは、緊張とストレスを乗り越えて「本番で掴んだ経験値」のことだ。そういう本番を何度も乗り越えた人ほどキャリアがある。
本で読んだり聞きかじった知識を振り回し「自分は頭がいい。キャリアがある」と思い込んでいるのは勘違い野郎だ。
キャリアがあるかどうかは、その人の発する「言葉」でわかる。本番の緊張をあまり知らない人の言葉は軽いのだ。
緊張は、いいことだ。そのうち緊張を楽しめるようになってくる。一流の人は、みんな緊張を楽しむ。
どうやったら緊張を楽しめるか?
それは、本番までにどれだけ準備をしてきたか。トレーニングを重ねてきたか、だよ。
これだけやったから、後は楽しもう、そう思えた時、緊張が楽しみに変わる。
準備をちゃんとやれば楽しめる。
そして本番でいい結果を出せるんだ。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィール を見てね
SONG-29 はじめてのステージ
やっとメンバーが集まった。
アパートで結成式をしたんだ。ほか弁屋のカラアゲとビールで乾杯!
ボクとザキの他に、ローラースケート場の常連で、皆から「ウソつきコースケ」って呼ばれてた、水道屋のコースケ。 アフロで細身で、正露丸の匂いを漂わせてる。
いつも「使いっぱ」(使いっ走り)にされてる奴で、調子が悪くなると逃げる。 ふざけた奴だけど、どことなくコミカルなんだ。
ファンキーな「卑怯者」といった所かな。
それから、同じ「東京マリン」のバイトの後輩の増田。地味な奴だったけど、ハードロックが好きで真面目だし、人数足りないから仲間にした。
情報誌の「ぴあ」で応募してきた奴もいる。肉だんごみたいな女子高生。それと その友達。
あともう1人、ローラースケート場でスカウト? したメインの女の子。可愛かったけど、めっちゃくちゃ遊び人で、すぐ男とゴチャゴチャしてやめていった。
ど素人が7人集まって。とにもかくにもスタートしたんだ。
公民館を借りて、練習の1時間前に集まって ボクのアパートで、まずリーゼントのセットの仕方を教えたんだよ。雰囲気作り。フフ・・「グリース」も「スリム」も 皆リーゼントだったからね。憧れてるボクとしては、ここは どうしても そういうファッションに こだわりたい。
今のボクとは随分かけ離れた美意識だけど、あの頃は それがベストだと思っていたね。
ザキにもポマードをぬってやって。でもアイツ、ビッタ分けみたいになっちゃって皆で大笑いした。
脚本も演出も全部ボクの担当だ。
「ひまわり」で教えて貰ったこととか、「スリムの練習って、こんな風にやってるんじゃないか?」って想像しながら工夫した。
リー・ストラスバーグって人が主催する「アクターズスタジオ」の演技方法なんかの本を読んでね。
本当は分からないことばかりで心細い。だけど、ボクがそんな顔したら、すぐにでも吹き飛びそうなグループだ。あやうさは肌でビンビン感じていたからね。
弱音をこらえて、逆にガツンと演説をかました。
「いいか。オレは経験者だ。お前らシロウトとは違う。演技や、ステージの勉強だって ちゃんとしたんだからな」
ひまわりで。とは言わない。
「とにかく、オレを信じて ついてこいよ。そうすれば半年後、お前らはスターだ!」
「大きく出たね」と、自分で自分に つぶやいてみる。
でも、誰も疑わなかった。
「スゲー!そんな スゴい人と俺たちやるんだな」
ぐらいの暗示にかかっちゃって 目をキラキラ輝かせている。
演出をしようと思ったら、ハッタリも大事だよ。カリスマにならなけりゃ誰も言うことを聞かない。ボクは絶対的な存在になった。
体をほぐし、スポーツ選手のような肉体練習と発声で汗をながした後、いよいよ練習がはじまった。
ところが・・
セリフとかしゃべらせても、皆全然ダメ。カチンコチンになっちゃって、すげえ臭い芝居をはじめちゃったり。右手と右足が同時に出て歩いたり、とかね。
しょうがないから 50メートル ダッシュ!
ダーッて走らせて、「ハァ ハァ」息がまだ上がってる時に大声でセリフを言わせて、
「どう? セリフを言うことだけに集中すれば、こんなにナチュラルだろ? もう芝居なんてしなくていいから。とにかく大声を出して行こうぜ」って。
以来、体育会系の練習が定着したんだ。
「アレ? お前そのセリフ、作ってない? よーし、100メートル ダッシュ!」
みたいな。
相手にセリフを言うときも、ダーッと走ってきて 体にぶつかりそうな所で止まって大声で言う。
「ウワーッ」とか「ギャーッ」って叫ぶだけの 芝居ごっこ。
でも発声も出来ない、恥ずかしがってセリフも言えない連中には、効果があったんだ。みんな 大声を出すことに抵抗がなくなったし、体を大きく使う演技をするようになったもの。
やってみたら「演出」っていうのは ボクに合ってた。
自分自身、 あんまり先生に恵まれてなかったから「オレだったら人のこういう所見てやるのに」とか。
「こういう いいとこあるのに、なぜ気付いてくれないんだ?」という不満があったからね。
頭の先まで詰まってた、満たされない思い。
だから人と逢うと、「あっ、この人は こういう面もあるんだ。へー個性的」とか、自然自然とね。人を観察するクセがついてた。
それに子供の頃から、心理学の専門書なんかを読みあさっていたから。その人の持ち味を引き出す
演出っていうのは 得意だったかもね。
ザキは吸収するのが早かったし、肉だんごみたいな女子高生も芝居をしている時は、かわいく見えるようになってきた。
コースケは追いつめれば追いつめるほど、コミカルさが際立ってきたし。なんとなく、みんなサマになってきたんだな。
「よし、ここらで 客を入れた ”公開練習”でもしてみるか?」
みんなの友達を呼んで。公民館のちょっとしたステージのある部屋を借りて、軽いドラマを見せたんだ。ザキが主役で、ボクは悪役。
例によって「ワーッ」と出てきて。漫才のような 小芝居のような。
はじめての経験。
ボクも皆がちゃんと出来るか気にしながらステージに居たら、セリフ忘れちゃったり。
でも、それをコースケがうまく笑いに転嫁したりね。
チームワーク バッチリ。
まぁ、そうは言っても、客席はとまどってるって感じだったな。
自分の知り合いの、つたない演技を ハラハラしながら見てるっていう。
ボクらとしちゃあ、一生懸命やる以外に何のテクもないからさ。汗をかきながら動き回ってセリフを言ってたの。
そしたらね。ギーッ、とドアが開いて
「あのさ。お宅たち、ちょっとウルさいから もう少し静かにして」
管理人のオヤジが扉の隙間から 顔をのぞかせて、苦情言いに来たんだ。芝居の最中だよ。客席の連中も皆、振り向いた。
振り向いて、ボクらの方をまた見て。「どうすんだろ」って顔してる。
ボクが、
「あっ、わかりましたー」
って、芝居の流れのセリフみたいにして その場は切り抜けたんだ。
でも5分ぐらいして、再び。
「あのさ。静かにしてって言ったでしょう? ボリューム下げられないの?」
って管理人のオヤジ。
今度はドアを開けて、トコトコ こっちに向かって歩いてくる。
「うわっ、やめてくれ」って感じ。ワカル?
こっちへ来ないでくれって。
「お願いだから あっち行って」って逃げ出したい気分。
ところが そのオヤジ。ホウキを持って、ステージの上に上がって来たの。
スゴい奴だと思いません?
いくら照明も何もついてないステージの上でも、一応芝居の最中だぜ? 全然気にしてないの。
「オタクら、これね これ。この使用申込書に書いてあるでしょ?騒音は駄目だって」
紙キレをピラピラさせて。完全に芝居が止まっちゃった。コースケが何とかこの場取り繕おうとして、管理人のホウキにまたがって、 「魔女」とかって、おどけてみせたらよけい怒られた。
はじめてのステージ。
そう、これがボクのはじめてのステージだったんだ。
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