デモテープを作りたかったら、
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レコーディング・スタジオというところで制作する。
もっと簡単なのは「自宅で」パソコンとレコーディング・ソフトを使って録音する。一昔前は、スタジオ機材が高額で「ミキ卓」やエフェクター、ピアノやアンプなど 良いものを揃えれば軽く数億円を超えるので個人で録音スタジオを作るのはハードルが高すぎた。
それでもボクはバンド専用のレコーディング・スタジオを高円寺に持っていたから、やろうと思えば「それなりの設備」は作れたけどね。
近年、プロツールスなどの「プロの録音現場で使うレコーディングソフト」が安価になったことで、個人でも50万円から100万円ぐらい出せば、かなり高度でクリアなレコーディングも可能になった。プロ・ミュージシャンがメーカーと契約せず、自分でレーベルを作って自分の音楽を発売するのも、こうした流れの一環である。
どうやって作る?
今では、自宅である程度録音しておいて、外部のレコーディング・スタジオにそれを持ち込んで仕上げる、という方法もかなり主流になりつつある。
宅録が苦手だったり興味がなければ「レコーディング・スタジオ」で1から10まで作ることになるが、レコーディングにかかる料金も時間もピンキリだ。
安く上げるなら、6時間ぐらいの「録音パック」などをやっているスタジオで「1発録り」をしてチャチャっと「ミックスダウン」すれば6〜7万でもレコーディングできる。
プロが使うスタジオは、1時間あたり何万円もするので、それをベタ押さえで1ヶ月も確保したらアッという間に何千万、億というレコーディング費用になってしまう。
売れれば、そういうレコーディングも出来るから憧れるよな。
安いスタジオと高いスタジオ。何が違うかと言えば
「オペレーターの技術、センス」
「機材のクオリティ」
「アンビエンス」
だ。
オペレーターの技術、センス
と、プレイヤーのクオリティの高さが掛け算されるほど、いい曲に仕上がる。オペレーターを指名してレコーディング現場を決めるのはよくあることだ。ヘボがどんなに良い機材や一流のスタジオを使っても、そのクオリティを引き出せない。
反対に、ボロい機材の狭いスタジオでも、一流のオペレーターと高い技術のプレイヤーがいれば最高の曲に仕上がる。結局、一番大事なのは「人」だ。
機材のクオリティ
大事なのは人、と言った後で恐縮だが、一流のオペレーターが使うなら「機材のクオリティ」も高い方がいい。可能性が広がるからね。いろんなことができるし、やっぱり生音のいい楽器は変に加工しなくてもいい音に録音できる。
アンビエンス
アンビエンスとは、空間、雰囲気、臨場感。楽器が音を出して録音機材がその音を拾うまでの「空気の中を通過する音の時間」のことだ。
つまり、音は「音だけで存在していない」空気に中に潜むその国の雑音、ホコリ、振動などを含めて聴いているんだ。
日本人の録音は「綺麗に」録ろうとする。ゴミを取り除き、無菌室のようなところで楽器や声以外の余分なものを収録することを嫌う。だから綺麗な、天国のような天使が奏でる音が出来上がる。
魚の小骨をとって食べやすくした「懐石料理」のような感じだ。
ところがこれを嫌い、海外でレコーディングする国内ミュージシャンも多い。
どういうことかと言えば「目黒のさんま」である。
お殿様に出す庶民の魚「さんま」失礼があっちゃいけないと、一生懸命小骨まで取り除き、余分な油も捨てて「上品なお魚」に仕上げる。
もちろん、そういう美味しさの追求もあっていい。
でも海外のレコーディングでは、
「チリやホコリ、ゴミが混じったっていいじゃないか。その方が人間らしいし、この国の空気、今の時代の空気も詰め込んでレコーディングした方がワイルドだぜ。Yeah !」
というのが海外レコーディングの考え方。「さんまはシンプルに、そのまんま焼いて食った方がうまいだろ」というね。
その人間味あふれるアンビエンスを求めて海外レコーディングにこだわるミュージシャンは多い。
その他、アビーロードスタジオなど、ブランドや伝説になっているスタジオもある。
そういう場所で録音したい人もいるわけだ。いろんな付加価値。
音を録るだけ、と言ってもこれだけ方法や考え方に差があるってこと。
ボクが言えるのは「レコーディングは幸せな作業」ってことだけだ。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィール を見てね
SONG-31 デモテープ
「どうするよ ザキ? デモテープって言ったって、オレらバンドも無いんだぜ?」
店の外に出てボクが言うと、
「やっぱり おどしてでもバンドメンバーを引き入れましょうよ」
とザキが言った。
数日後、誰かの知り合いでオミと小沢っていうギタリストがいるらしい、という情報を得た。早速電話して、
「オレ達 今すごくカッコいいバンドやってるんだけどさ、メンバーが足りないんだ。明日練習があるから遊びに来てよ」
って誘った。
連中はてっきりバンドがスタジオで練習してると思って来たんだよ。ヒヒ・・・うまく騙された。音楽スタジオだと思って来てみたら、公民館の「稽古場」なもんだから、
「アレ? 何この人たち?」
オミも小沢も 訳わかんなくて、けげんな顔してたな。
「まぁまぁ、ちょっと ここに座ってて」
2人を座らせて、あとはいつもの練習。でも今日は、オミと小沢に向かって
「ウォー」とか 「ギャー」って叫んでんの。全員が。
顔の近くで怒鳴るから、ツバが びしゃっ とか飛んで。
小沢、イスから落っこちた。焦って。びびって。
「何? この人たち。恐い」
オミは、オレ達と目を会わさないようにして、固まってる。タチの悪い奴らにつかまったよ。可哀想にね。
ひとしきり終わって。
「よし。今日から2人ともメンバーだ。よろしく頼むぜ」
握手。2人とも何がなにやら。
「ハァ。どうも」
気がついたら メンバーにされてる。断われないな、あの雰囲気じゃ。何されるか解らない。
2人は同級生で、浪人してたんじゃなかったかな? でも大学受験よりも楽しいことを求めてた。
次の練習から オミと小沢も参加して、ギターを弾かせたんだ。うまくおだてて。
「おー、最高だよ。ノリノリで行こうぜ」
・・・何がノリノリなもんか! ひどい。 ギター持って立ってなきゃギタリストだとは思わない。チューニングもまともに合わせられない連中だったもの。
でもガマン、ガマン。1日も早くバンド作らなきゃ。
オミが知り合いのベースを連れてきたけど、ドラムがいない。どうしても見つからないんだ。
結局ザキが自分のバンドのドラマーを連れてきた。
よし。レコーディングだ。
今みたいに MTRが普及してない頃の話だからね。デモテープ作るのも、高いレコーディングスタジオでやらなきゃいけなかったんだ。
『弁当箱』って呼ばれてる、太い1インチテープを回して・・
レコーディングは、最初に
「ベーシック・トラック」と呼ばれるものを作っていく。これは4リズムと言われるもので。
ドラム、ベース、リズムギター、「鍵盤楽器のリズム部分だけ」を録音するんだ。
いろいろ、やり方はあるよ。
ドラムだけレコーディングして、そのあとベース、ギター・・って、一個いっこ録っていくパターンと、
ドラム、ベース、リズムギター、ピアノのリズム部分だけを「せーの」で一斉に録音していくパターン。
今回は、「せーの」で一気にレコーディングしていく。その方が、みんなのノリが合わせやすく、いい録音が出来るからね。
バンドは、このやり方をすることが多い。この時のボクらみたいな素人も、こういうレコーディングの方がやりやすい。なぜか?
メトロノームに合わせて楽器を演奏して見ればわかる。正確な機械に合わせるのって思ってるより大変だよ。
人間は走る〔早くなったり〕遅くなったりする。
バンドで、みんなの顔を見ながらノリを合わせれば、みんなで早くなったり遅くなったりするから、各自のリズム、音がズレないんだ。だから一見難しそうでも、みんなで顔を合わせて、ドラマーのカンカン、カンカンってリズムに合わせて「セーノ」で一気に録音する。
これを「一発録り」って言うんだ。
今のボクにとっては、なんちゃない作業だけど、当時のバンドは、もう大変!
一人ひとりのリズム、グルーヴ感がめちゃくちゃだし、テンポも変わってっちゃうから。山、谷、山、谷と大きくうねり、早くなったり遅くなったり。
ヘタなヤツが運転する車に乗ってるみたいに酔ってきちゃう。
「乗り物酔い」ならぬ「リズム酔い」だ。
今だったら1回。どんなに録り直しても3回演奏すれば、すごくノリのいいリズムトラックが出来上がるよ。
でもこの時は、
「はい、やり直し。みんな全然他の人とリズム合ってないから。もっとお互いの音を聞いて」
「小沢、ドラムのリズム無視するな。全然合ってねーぞ!」
「ドラマー、お前がリズム乱れてどうすんだよ。リズムキープしろ!」
もう全部がこんな調子。レコーディングする前の段階だ。リズムキープの練習、パート合わせのトレーニング。今だったら教えてやりたいことが山ほど。歯痒いけど、それが当時のボクを含めたグループの実力。
何度も録り直しをした。何度も。本来なら30分もかからない作業を。2時間も3時間も4時間も・・ありえない。だけどリズム合わないんだもん。
結局、レコーディングが終わらないってことで、かなりヘロヘロなリズム帯でも我慢して先に進んだ。
それ以外も筆舌に尽くしがたいレコーディング。思い出したくもない。
それを乗り越えたのか妥協したのか。とにかく8時間ぐらいかかってレコーディングは終了した。
本来ならね、各自の録音が終わって、それをまとめてバランスよく音の調整をする「ミックスダウン」っていう作業に一番時間をかける。だけどこの時は時間が無くて、1時間もかからないぐらいでちゃちゃっと「ミックスダウン」した。あり得ないよ、仮のバランスを作るだけでもその何倍もかかるのに。
でも「ミックスダウン」ウンヌンをとやかく言えるレベルじゃない。今回はこれで OK としよう、ってスタジオのオペレーターも苦笑い。
ところがそれを受け取ったボク達素人軍団は大喜びさ。聴くに耐えない代物だけど「初めてのレコーディング」に大満足。へたっぴ演奏のデモ・テープをカセットテープに落としてもらって、宝物のように大事にみんな持ち帰った。
CDが出るか出ないかの時代だから。音の記録はカセット・テープが主流だったんだ。今の人に言ってもわからないと思うけど。
ちょっとだけ良いことがあったとすれば、レコーディング後にバンドの実力がちょっとだけ上がったこと。
これは「レコーディングあるある」なんだけど、レコーディングスタジオのシビアな環境で「クリアに」自分の下手な演奏、他の人がどうやって弾いているかを何度も何度も繰り返し耳にし、それに合わせて演奏するから「自分のプレイにシビアになる」し「相手の演奏を聴く」ようになる。
だからど素人でも、いろんな本番を経験するとうまくなるんだよ。
ま、それでも ど素人には変わりないんだけど・・
何とかデモテープも出来て。
渋谷のラ・ママが まだ出来て間もない頃、それを持っていってブッキング成功。
なんかとってもウレしかった。
「ライブハウスに出るなんて、プロみたいじゃーん」
なんて みんなはしゃいでたなぁ。
LIVE当日。
リハの時間になっても、ドラマーが来ない。
「どうしたんだろ?」
時計を見て焦っていると、ザキがボソリと言ったんだ。
「アイツ、前科があるんですよ。前のライブの時にも、リハに来なかったんだよなぁ。いやね、・・・アイツ 今、新興宗教にはまっちゃってて。多分、会合に出てんじゃないかなぁ」
「ウソだろ・・・」
はじめてのライブだぜ? そんなのアリかよ?
「ドラム叩かなきゃ いけないのに、今ごろ木魚叩いてたりして・・なんちゃって。フシシシ」
ミソっ歯で笑いながら。コースケがくだらない冗談を言ったので、メンバーの怒りを買った。
ドラマーがやっと来たのは、全てのバンドがリハーサルを終わった時だった。その日は、4バンドぐらいが出演したんだ。ボク達は2番目だったのかな?
逆リハ と言って、出演の遅い順にサウンドチェックを行なう。そうすれば最後にリハをしたバンドが そのまま、セットを崩さずショウを始められるからね。
そう。ドラマーが来て。でも、もう リハーサルをしている時間はない。ラ・ママのスタッフが、
「とり合えず ドラムのバランスだけでも とっときましょうか?」
って言ってくれた。
「ああ。じゃあ・・・」
って そいつ。スタンバイしたんだけど、
「アレ?」
すっとんきょうな声出して。
「スイマせーん。このドラム、スネアが無いんですけどー」
って。
スネアっていうのは、小太鼓のこと。自分で持ってくるものなんだ。各ドラマーの常識。
今はスネアを貸してくれる小屋も増えたけど、当時はスネアだけは自分のを使う。
でも、うちのドラマーには常識 通じなかったみたいね。宗教忙しくて。そんな常識、知らんぜ。
「えー、自分で持ってくるんですか? そういうことは事前に言って貰わないと・・・」
他のバンドの奴ら、呆れて 「ケッ」っていう顔してる。ボクとザキも何も知らなかったから、
「そうだよな。そういう重要なことは、先に言って貰わないとー」
ってライブハウスを責めた。
結局、タイバンのドラマーが貸してくれたけど、こういう迷惑なバンドは、まだライブハウスなんかに出ちゃいけないよ。
「10年早い」ってことでしょう?
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