人が何かを思いつく→やってみる→うまくいかない
最初から大成功することは少なくて、大抵の場合失敗する。思い描いてたのと違う。こんなはずじゃなかった・・
人生あるあるだね。
反対に、ギャンブルなどでは「ビギナーズ・ラック」というのがあって、最初に大勝ちすることもある。でも、大抵その後に負けて負けて大負けして「最初に勝ったことを後悔する結果に終わる」
ビギナーズ・ラックも怖いけれど、最初の事業で大当たりするのも なかなかに怖い。
この世の中は、山あり谷あり。いいことばかりも続かないし、悪いままで状態をほったらかしていれば そのままだけど、改善すれば成功を掴めるものだ。
だから「最初はうまくいかなくて当たり前だ」と思っていた方がいい。
うまくいかなくても「プランが良ければ」改善して必ず思い描いた状況を実現できるからだ。改善しても一向に良くならないのなら、元々のプランがダメなのだ。
今回、ボクは「原宿 歩行者天国をライブハウスにしちゃおう」というプランを立てた。
そのプラン自体には自信があった。絶対にうまくいくと思った。
ところが、実際に歩行者天国で演奏すると、全くウケない。お客が集まらない。
一瞬混乱したが、プランには自信があったので、「なぜうまくいかないのか」分析し、改善し、段々理想に近い、思い描いていた状況を作り出すことに成功した。
その方法を今回からのストーリーで解説したい。
人が何かを思いつく→やってみる→うまくいかない を、うまくいく! に改善する様子は、きっとあなたのヒントにもなるはずだ。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィール を見てね
SONG-47 こぶし少年
結局、初日は惨敗だった。
打ちのめされて、スタジオに帰ってから大ミーティング大会を開いた。
「やっぱりさ、皆バラバラに勝手なこと演奏してるって感じだからさ。もっとリズム合わせていこうよ」
「そうだねぇ。まずリズムだよ。リズム」
トミノスケのタイコは、どんどん早くなってっちゃうし。全員それにつられて、ワーッと走っていっちゃう。
なぜ早くなるかというと、それはヘタだからだよ。
ヘタは「音のスキマ」を楽しめない。その「空間」が恐い。
だから、スキ間が出来ると、すぐ誰かがそこを埋める。それにテンポを早くしていけば、スキ間はできづらいからね。どうしても 走った演奏になっていっちゃうんだ。
てことは、うるさいってことさ。スゴく耳障り。全員でガチャガチャ、音をかき鳴らしてるだけだから、音楽でも何でもない。
歌なんか聞こえやしない。おかげて声は強くなったけどね。
当たり前だ。あの大音量と戦ってたらさ。イヤでもロックボーカリストが出来上がる。
次の週は———雨で、歩行天中止だったのかな?
うん。ここぞとばかり、徹底的にリズム合わせの練習をした。
ドラムとベース、ギターとキーボードっていうふうに。2人づつがまず合わせて、徐々に全員が参加していく。
リズムの「表」と「裏」を取る練習とかね、やる事にはこと欠かないよ。
素人さんたちだから。
あと、客寄せ用の「オープニングテーマ」を作ったんだ。
「いきなり演奏するより、まず人の気を引いて立ち止まらせようよ」ってね。
「ジャーン」って白玉でコードを伸ばして、音と同時に全員がパッと散らばるの。ダーッ、と駆け出す。
あるいは「ティン、コン、ティン、コン」 オルタネイトピッキングで、客がよってくるまでずっときざんだりして。
そういう練習を動き付きでやった。公園で。
ラジカセに練習テープを吹き込み、それを鳴らしながら「ウォリャー」とかキメのポーズを作る。フォーメーションで、この音の時、誰々はどこに移動する、みたいにね。
公園にいる人には笑われたけど、カンケーないさ。そんなこと。
「スコーピオンズ」っていうバンドのビデオを見ながら、皆で「うわぁ、スゴいね。誰かのヒザの上に乗って弾いたりするんだあ」
ちょうど、運動会の人間ピラミッドみたいにね。人の上にのぼって弾く。
「マコトはさぁ、ギターとか回してみたら?」
ストラップごと回すのが、海外でハヤっていたし。
実際やってみたら「ガシャーン!」
ストラップ・ピンが抜けて レスポールが飛んでった。 砂利の上を自慢の「タバコ・レスポール」がガリガリガリ・・
サーフィンみたいになったから、擦り傷がついたけどボディーは助かったけどね、マコトの顔は真っ青になってた。
「太くて長いロック・ピンで ネジがぬけないようにしなきゃ駄目かぁ」
懲りないヤツ。さすが「マコト・クレイジー!」
・・・・そういう準備をして、再びストリートに出たんだ。
まあ。そう簡単には変わらなかったけど、それでも徐々にね。ポツ、ポツと立ち止まる人が出てきた。
「いいか。1人だけでいい。1人が1人、客をつかまえろ。1人だけに向かって演奏しろ。1人だけの目をずっと見つめて演奏するんだ」
ボクが言うと、女のメンバーは張り切った。
「よォーし。あたし、あのシマのシャツ着た男の子にするよ」
「じゃあ あたしは、あの坊主頭の少年担当!」
「自分の客を100%納得させるんだぞ。よっしゃ、行け。GO !」
ダーッと駈けてって、ヘタくそな割りに情熱のこもった目で、自分だけを見つめられると、何だか自分のためだけに演奏してくれているように思えてくる。悪い気はしない。
その姿を見た第三者の客も、思わず 「熱い2人の関係」を面白がって見たりして。
そんな所から、客は食いついてきた。
ボクは集まって来た客を少しでもつなぎ止めようとして、ヤマハの箱型スピーカーにのぼったの。
それを見ていたマコトが真似して反対側のスピーカーに飛び乗る。
「ウォーッ」という拍手がわき起こった。
よしよし、受けてるぞ。マコト・クレイジーに合図すると、あいつも笑った。
爆音とケンカするように、ボクはシャウトする。
情けないことに、すぐノドがつぶれて声が出なくなった。
発声法もへったくれもないから。ただバックの音に負けないようにシャウトするだけだから。
でもね。ボク、これで発声を覚えたんだ。
声がつぶれて。「どうしよう」と思ったけど、とり合えず歌うしかない。
他に歌ってくれる奴はいないし。
1人1人、自分のことで精一杯だから。持ち場を死守、みたいな。
無理して声を出そうとするんだけど、「ハー」ってかすれて、声にならないの。
しょうがない。ノドに負担をかけないように。ノドを広げて、炎症を起こした箇所に触れないように空気を出す。
実はこれが腹式呼吸の基礎なんだよ。長く息を吐く、発声の練習の意味がやっとわかった。
最初はハッキリした声にならないから、心もとないんだけどね。
それから毎週ストリートやって帰ってくるとさ、腹が痛い。
「どうしたんだろう?」
と思ってたんだけど、気づいた。
「アッ、ずっと歌ってたからだ。そうか、腹から声を出すってこういうことなのか!」
発見だよ。
人間の体って、まるで大きな袋。長いチューブ。腹の袋から、いっぱいに詰まった空気を長いチューブに向かってしぼり出すんだ。声を出すって、歌うって、そういうことなんだよ。
ねばりのある、太い声が出るようになってきた。
レパートリーは5曲しかなかったけど、1日3ステージ。曲の順番を変えながら、さも新曲のようなフリをして切り抜けてたの。冷汗ものだけどね。
「あっ、あの子、又来てるよ」
トモコ・チビ太が気づいたのかな? 気弱そうな少年が、次のステージも見に戻ってきてくれたんだ。
「あっ、また来てる」
「ほんとだァ。うれしいね」
何度も来る常連になってくれたの。常連第1号。
そのうち皆が気にして、その少年を捜すようになってきた。
「きてる。きてる。」
「ホントだ。また、こぶし 握ってるよ」
ボクがシャウトしながら、客に言ったんだよ。
「イェーイ。ノッてるかい? 恥ずかしかったら、別に無理しなくていいからさァ。でも 楽しいと思ったら、“心の中”だけでも そっと こぶしを振り上げてくれよなーッ!」
そしたらね、少年が反応してくれたんだ。大人しい子だよ。シャイな少年。でも彼、精一杯自分の心と戦ってくれた。
両方の手を“ぎゅっ”と握りしめて、その手を振り上げるんじゃなくて、下にね。突き下ろしてた。曲に合わせてずっと。
体が小刻みにゆれて、顔はぎゅっと口を結んで、紅潮している。表情は乏しいけど、充分楽しんでくれてるのが解るよ。
「こぶし少年」
ボク達は、彼に敬愛を込めてそう呼んでいた。
「ジーニアス」を認めてくれた、はじめてのファンだからね。うれしくて いつも彼の姿を捜していたんだ。
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