夢を見る。歩き始める。自分の道をゆく。
その時、人は孤独だ。
誰も助けてくれない。だって「それをやることを誰も頼んでないから」
好きなことやるんだろ?勝手にどうぞ、ってなもんだ。
いや、実際はもっとひどい場合が多い。
「そんなことやって。うまくいくわけない」やめとけ!
足を引っ張る、邪魔する。良かれと思って不要なアドバイスをしたがる人間のなんと多いことか。人が自分の道を見つけて歩き始める時、最初の壁になるのが これらの「お節介」な壁だ。
自分の味方だと思っていた人ほど邪魔をする。「自分の知らない世界にあなたが行くのを嫌がる」
これに阻まれて止めるようなら、あなたの夢はその程度のものだったのだ。
覚悟がないなら辞めておいた方がいい。
ただ・・
やり抜いて成功した時、真っ先に寄ってくるのも「反対した人たち」だ。
しかも彼らは反対したことすら忘れている。
「やると思っていたよ。ずっと昔から応援していた」
と言う。
彼らは嘘をついているわけではない。本当にそう思っている。途中で情報が書き変わってしまうのだ。悪気はなく。
だから、本当に」やりたいことなら周りに左右されることなく、信念を持ってやりぬけ、と言いたい。
そういう人が、いつか賞賛を浴びる。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-52 ギャラ30万
思えば、あの日のクロコダイルから、ボクたちの快進撃は始まったんだ。
初めて 原宿のライブハウス「クロコダイル」の「昼の部」に出演が決まったものの。その日に台風が直撃して。ものの見事に観客0。お客さんが、どこにもいない。後ろの方に少しいる、と喜んだら店のスタッフで。正真正銘、客席0。で落ち込んで、そこから原宿のストリート ライブをやるようになった。
そして、再び クロコダイルに戻ってきた────
確か、台風直撃から 5ヶ月経った
12月の寒い日だった。
リハーサル終わって、上機嫌で汗を拭きながら外に出たら ストリートの常連のおじさんに怒られたんだ。
「カズ、もうオレたち 30分も待たされてるよ。体が冷えきっちまった。早く店に入れてくれ!」
見ると後ろの方まで長蛇の列ができて。
店の周りをグルーーっとファンが 囲んでるんだよ。
「やっばいなー、これ」
店側も困惑してて、お客さんを店に入れないの。
「とりあえず お客さん 外で寒がってるんで 入れてもらえませんか」
クロコのスタッフにお願いするんだけど、
「いや無理でしょ。あんなに入れたら死ぬよ。うち、最高に入って250人だぞ。そん時も酸欠になって大変だったんだから」
「マジすか。500人以上 いるなぁ。多分・・・」
愛想笑いして「そこをなんとかして欲しい」という目を向けても、
「そんなに店に入らないし、注文も取りに行けないじゃん」
と少し棘のある返事が返ってきた。
「ですよねぇ。困った」
お客さんは寒くて怒ってるし、店は入りきらないから入場 渋ってるし・・・
「申し訳ないよなぁ、せっかく来てくれたお客さん」
心底困ったボクを可哀想に思ったのか、少し語気が優しくなったクロコのスタッフが、
「入れ替え制にすれば? 一部と二部にして、半分ずつ入れるの。お前ら 演奏2回やって大変だろうけど」
「いや、ホコ天では 3ステージやってるんで。それは大丈夫ですけど・・ じゃぁ、そうしますか」
提案してくれた、この解決策以外に方法はなさそうだった。
話し合って、ライブを2回やることにしたんだ。入れ替えの二部制にして。
お客さんを2つに分けたら やっと入れた。それでもギュウギュウで。
早く並んだ人から先に入ってもらって、列の真ん中から後ろは 1時間後ぐらいに再び来てもらう。それまでどこかで時間を潰してもらって。
2回目になった客は、さすがに帰るだろうと心配したら、1時間後に ほぼ全員が戻ってきてくれたもんね。
嬉しかった。
あの夏の日、観客 0 だったのに、今日はひしめき合ってる。
クロコはレストラン形式のライブハウスだから、酒も食事もめちゃくちゃ売れてね。ストリートで屋台のビールを差し入れしてくれる常連客は、この日も楽屋まで 酒を差し入れてくれて。
そういう人が何人もいたから、狭いクロコダイルの楽屋が酒瓶だらけになって。
ギャラ20万円ぐらいもらった。
普通 プロでもそんなにもらえないから。破格だったんじゃない? まさに凱旋ライブだったんだ。
嬉しくなって、楽屋の壁に「ロックンロール・ジーニアス」参上!ってサインした。
ハリウッドのグローマンズ・チャイニーズ・シアターに、スター達が手形やサインを残すみたいな雰囲気だよ。気分的にはハリウッド・スターになったみたいに盛り上がった。
歴代の有名バンドの中に自分たちのサインがある。「やっと、ここまできた。あのメンバー探しに苦労した日々から、ここまで来れた」と思ったら、ジーンとしたんだ。
そこからは快進撃。
店長の西さんが、ボクたちを育てようとしてくれて。
店のイチ押しバンドとしてマスコミに紹介してくれたり、大阪のバーボンハウスとか、名古屋の有名な・・どこだったかにツアーに行かしてくれたり。つながりのある地方のライブハウスの店長に話しつけてくれて。ライブ旅行だイベントだ何だのと、いろいろ協力してくれてたんだ。
毎月、「ジーニアス デー」というのを作って、1月1日、2月2日、3月3日・・ という感じで ゾロ目の日に、クロコに出演してたなぁ。なつかしい思い出だ。
とにかく クロコダイルは原宿のホコ天に近いから 客が入りすぎる。
お客が 0 でも困るけど、今回みたいに来すぎても店に入れなくて迷惑かけてしまう。
だから、それからはチケット予約制にして お客さんがあんまり来ないようにしたけど、それでも毎回 客で溢れてたなぁ。1晩で10万ぐらいのギャラはコンスタントに貰ってたから、ライブバンドとしては大成功したんじゃない?
もっとも ロックンロール ・ジーニアスは 大所帯だから皆で分けると微々たる金になっちゃう。軽い食事をして後は全部バンドの口座に貯金したよ。
ファンからスタッフになる奴もいて。
最初、例のゴミ拾いからはじまって、知識のある奴は、スタッフと一緒になってシールド巻きとかを手伝う。
「アレ? 8の字巻き、出来るんだぁ?」
マコト・クレイジーが可愛い女の子のマイク・コードの巻き方の手際良さに驚くと
「ええ、PAのバイトしてたんで」
そういう特殊なワザを披露したりして、スタッフに食い込んでくる。気がついた時には、荷物の積み上げ、積み下ろしにも参加するようになってるね。
ホコ天が終わると、高円寺のスタジオまで来てくれて。4階まで重い機材を一緒に運んでくれる連中が何人もいたから、ホント助かった。
ファン同士の「会合」なんてのも開いてるらしくて。
ロックンロール・ジーニアスの応援の仕方なんてのを話し合ってたらしいね。
ジョニーっていうお調子者の 自称「親衛隊のリーダー」とか。機転の効く女の子たちのファンのグループとか。学校のサークルみたいにジーニアスファンのグループがいくつも出来てた。
ボク達のバンドを通じて友達になり、仲間が出来て クラブ活動みたいな仲間の集まりになって。時に恋人になり。結婚までしたりとか。コミュニティーが出来てたんだよ。
そんなある日、スタッフが、フランス人の男を連れて来た。
「カズさん、何か フランス人のパーティーで演奏して貰えないかって、名刺もらったんですけど・・・よく解らないんで、話してもらえますか?」
名刺を渡されて、
「ケンゾー・パリ・・・ですか?」
ファッション関係の有名なとこ、あるじゃない? そこの日本支部のパーティーなんだって。
恵比寿の・・ホラ、今「ガーデンプレイス」とかいうオシャレなエリアになってるとこ。あそこに 当時 サッポロビールの大きな劇場が あってさ、そこで「ケンゾー・パリ」のパーティーライブをやってくれ、ってことになって。
当日。
ケータリングの フランス料理かなんかのシェフが入って、いい匂いしてる。
「うわぁ、いい匂い」
ってうちのメンバーもテンション上がったんだけど・・
フランス人は、いい物食って満足そうに笑ってる。でもバンドは盛り上げ係に過ぎない。客じゃないから・・
ボク達の楽屋には、そういうの来ないのよ。
トモコ・チビ太が、
「腹減ったー」
って大声を出す。
マコト・クレイジーが
「それを言うなよ。さっきから腹が鳴ってんだからさぁ」
って言うと レイ・ギャングが
「貰ったギャラで、なんか美味しいものでも食べに行きます?」
その提案に 真面目な 速弾きヒカル が、
「もうすぐ始まるだろ。まずいよ」
とみんなをたしなめる。
すると トモコ・チビ太は
「あーあ、唐揚げ弁当でも買ってこよっと!」
と小銭入れを取り出し、その声に全員が
「こっちのも買ってきてー!!」
と絶叫する。
かくして。華やかなパーティー会場の裏側で、バンドマンは ひっそり唐揚げ弁当を食べるのであった。
住宅街の中の会場だから 苦情が凄かったらしいけど、フランス大使館から日本の警察の方に圧力をかけて、黙らせちゃったみたいだよ。セレブの世界だからさ。
「気にせず、ガンガンやっちゃっていいから」
って フランス人に言われて、ワーッとシャウトすると、ドレス着た女の人も乗っちゃって。カップルで踊りまくってたね。
ギャラ、30万ぐらい貰った。
不思議なことに、それからイベントの仕事が結構入るようになってきた。
フランス人が口コミしてくれたのかなぁ・・・
しかも申し合わせたように、ギャラは30万なの。なんで?
ボクらの相場が30万だったみたいだね、どうも。
高いのか安いのかわからないけど、ボクらの価値は 1ステージ 30万。
ステージが終わった後、たまには そのまま飲みに行くことがあった。そこにファンもついて来るようになって。
渋谷の焼き鳥屋の、2階だったかな。結構広い店だったけど。
その二階の席が、ボクらのバンドとファンで一杯に埋めつくされた時、
「ああ、オレたち 人気あるんだなぁ」
ビールを飲みながら、しみじみそう思ったんだ。
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