どんな世界でも、頭角を露わそうと思ったら 競争に勝たなければいけない。
好むと好まざるとに関わらず、「人から評価されなければ あなたの価値を認めてもらえないのだ。その壁を突破する良い解決策の1つが オーディション に受かるということ。
ボクはいくつものコンテストに出場した経験がある。そして、大きなコンテストで優勝したこともある。今回はそれほど大きくない「メジャーではない」コンテストでの出来事。とはいえ、オーディションに勝ち抜くというのはハードな作業だ。
今後、「オーディションで勝ち抜くための秘訣」ノウハウも公開していくので楽しみにして欲しいが、今回のお話は 初めてオーディションの一次審査通過通知が届いた ところから始まる。
さて。そこからどうなるか?
ディープな世界へ旅してみよう。事実は小説より奇なり。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-53 オーディション
はじめてのオーディション合格通知が届いた。
それまでにもいろんなコンテストに応募してはいたけれど、どれも一次審査で落とされていたんだ。音楽経験者が半分、ど素人のパフォーマンス担当である芝居出身のプレイヤーが半分いるバンドでは、どうしても ヘタクソバンド になってしまう。グループとは、一番実力のないプレイヤーの評価が反映する。
デモテープだけではね、やはりレベルの低さを隠すことは出来なかったみたい。
ところが、だんだん世の中がビジュアル面にも注目しだすようになって。アレ、MTVとか向こうのプロモビデオとかの影響だろうな、きっと。 マイケル・ジャクソンがスリラーなんかを発表していた頃だ。
デモテープ以外にも、バンドのステージのビデオなんかを受けつけるコンテストが増えてきたんだ。音楽技術は低くても、パフォーマンス込みなら評価が違ってくる。
で、ストリートで暴れているビデオを送ったら、一発で合格通知が届いたの。
『多くの応募の中から、あなたのバンドが一次審査を通過致しました。おめでとうございます。つきましては、二次のライプ審査を 銀座 山野楽器にてとり行いますので・・・・』
みんな
「ヤッター!」
って皆で手を取り合って喜んだ。
何度もいろんなコンテストに応募して、やっと掴んだ「一次審査合格」
でも────
ここから先は未知なの。まだ経験したことがない。
「どうなっちゃうんだろうねぇ、これから」
期待と不安とちょっぴりの自信が入り混じった顔でお互いを見つめ合った。
1ヵ月後ぐらいに、二次オーディションがあったのかな? 行ったよ、楽器をかついで。
「うわあ、ここが山野楽器? 1階はレコード屋さんになってるんだねぇ」
吹き抜けのビル。高い天井に トモコ・チビ太 は 圧倒されながらも、未来に期待の混じった顔で言った。
「でっかいなぁ」
速弾きヒカル は いくつかの音楽コンテストに出て受賞歴もあるが、少し緊張しているようだった。
「オーディション会場は?」
「えーと・・・4Fって書いてあるよ」
レイ・ギャングの質問にヤスコ・クイーンが答える。
レコード売り場の上の方の階に、軽いライプが出来るホールがあって。そこが審査会場だったの。すでにたくさんのバンドが集まって、廊下でタバコ喫ったりして話してるんだ。
ひとくせも ふたくせもあるような連中。それなりに雰囲気があって、自信あり気にポーズってる────バンドマン。
「カッコいい。やっぱり一次を通過してくるような人たちは違うね。個性的で・・・うまそうだよ」
「冗談言うな。負けねぇよ! オレたちが一番だ」
雰囲気に呑まれそうになるメンバーに ボクがハッパをかけた。
不利なのは解っている。でもそれを認めちゃったら、どこかに消し飛ばされて行っちゃいそうで。
他のメンバーをにらみつけて、ウソでも自信あり気な顔していろってね。虚勢を張った。勝負はもうはじまっている。
30組ぐらいのバンドが狭い会場に押しこまれて。
審査員とかスポンサーの紹介があったんだ。
「えーっ、優勝すると車が貰えるんだって!?」
マコト・クレイジー が驚きと喜びの混じった声を上げた。
車会社がスポンサーになってて。副賞が車。
「よし、あれがあれば地方のツアーに行ける。狙うぞ」
ボクはみんなに「車ぐらいいただいて当然」という顔をしてふてぶてしく強がった。本当はボク自身が一番緊張して 心の奥で震えてたんだけどね、そんなことはおくびにも出さなかったんだ。
物欲と名誉欲をごちゃまぜにした空気の中で、オーディションがはじまった。
セッティングして演奏して、審査員の講評を受ける。
朝から夜まで、各バンドがセッティングして演奏して、次のバンド。そのくり返しが延々続く。待ち時間が長くて退屈した。
やっと発表があった時には、腹が減って疲れて、もうどうでもいいから早くしてくれって感じ。
「今回は、どのバンドもレベルが高く 誰が優勝してもおかしくないです」
「本当かよ。いつもそう言ってバンドをおだててんじゃねーの?」審査員長の受賞前コメントにと嘘くささを感じながらも、「もしかして、オレたち優勝すんじゃねーの?」と、思ったらドキドキしてきた。
8組ぐらいが最終オーディションに残って、その中に ボクたち ロックンロール・ジーニアスもいた。
嬉しくて帰りに、銀座の「シェーキーズ」に寄ってね。ピザをつまみに乾杯した。メンバーの表情も自信に満ちていた。技術的には まだまだだけどね。バンドが栄光の階段を登り始めていることは、みんな感じていたんだと思う。
三次の最終審査は、湘南のビーチに作られた 特設ステージで行なわれたんだ。
材木座海岸。木製の大きくて立派な特設ステージ。
ヤグラの下を打ち寄せる波が洗い、砂浜にビーチパラソル。サングラス、寝そべる水着の美女たち・・
夏の湘南、海とライブ。
さわやかだぜ。加山雄三かサザンオールスターズか、はたまたチューブかよってなもんさ。
メンバーは、もう海水浴気分でね。トモコ・チビ太のヤツ、黄色いビキニなんか着ちゃったもんだから、浜辺で寝そべって、ビール飲んでたメンバーのつまみになっちゃうの。
「ギャー、チビ太。何だよ お前、その水着」
マコト・クレイジーが悲鳴に近い声を出した。
「サイズが合ってねぇよ。おしりんとこ、オムツしてるみたいにブカブカじゃねぇかよ」
「えっ? そうですかあ? セクシーだとおもったんですけどォ」
チビ太が短い足でポーズをとったら、
「ヒヨコだ」
真面目な顔で 速弾きヒカル が ボソッと呟くと、
「あっ、ホントだ。黄色いヒヨコ」
レイ・ギャングが叫ぶと、
みんな クスクス 心から楽しそうに笑いながら、
「ヒヨコ ヒヨコ」
ってふざけて、オフ気分を満喫していた。
夏の太陽と潮風が、心を解放してくれてね。コンテストの緊張を吹き飛ばしてくれた。
そうやって遊んでいるうちに、ステージ上のサウンドチェックも終わり、次々にパンドの演奏が進んでいく。
ボクたちの番が来て。
「ドッカーン」と派手なパフォーマンスが爆発した。
毎週ストリートで 行きすぎる人々の足を止めてきたステージングは、海水浴客たちにも充分アピールするものだった。
「ピーピー。いいぞー、もっとやれー!!」
浜辺の客は 指笛をならしたり、歓声を上げて楽しんでる。
「オイ。受けてるよ、どうする?」
ボクが歌いながら マコト・クレイジー に ボソッと言うと、
「車、いただきだな」
と言いながら派手なギタープレイを披露した。
客席がどよめく。
自信がわいてきた。
でも、結果発表があって、
「審査員特別賞・・・・ロックンロール ジーニアス!」
司会者に 呼ばれて。ガクッと来た。「なぁんだ、優勝じゃねーのかよ」ガクっ。
ガクッと来たけど・・ まぁ 一応賞はもらったし。
無視されなくて良かったよ、なんてメンバー同士 結構満足してたんだ。はじめてのコンテストにしちゃあ上出来だ、ってね。
「やっぱり優勝は、あのバンドかねぇ?」
レイ・ギャングが呟いた。
いいな、と思うバンドが2つぐらいいて。テクニックもあるし、バンドのルーツもしっかり見える。長い年月をかけて、自分のサウンドをつくり上げてきた。そんな自信と新鮮さにみなぎる演奏を聞かせていた。
「優勝は・・・・!」
アレッ?
司会者の上げた名前は、まったく意外だった。
会場にどよめきが起こる。優勝と目されていた2つのバンドのうちの1つは、準優勝を取ったけれど、もう1つの方は・・・全くの選外に終わった。
準優勝のバンドがインタビューされて、
「ま、こんなもんでしょう」
しらけて吐き捨てるような態度・・・明らかに納得していないコメントに、司会者もドギマギと言葉を濁した。
]
「チッ。やられたな」
裏の控室みたいなあたりに、いくつかのバンドが集まって ひそひそと話をしていた。
「ヤラセだよ。ヤラセ。完全な出来レース」
苦々しく対バンのドラマーが みんなに聞こえるように大声で怒っている。
えっ? って耳を疑った。
「このコンテスト 去年も出たけど、同じパターンだよ。バンドで盛り上げといて、優勝すんのは ソロのシンガー」
「・・・・・!?」
そういうデビューのさせ方があるらしい。
自分のところの新人をデビューさせるためのイベント。同じ金をかけるなら、コンテストを催して、そこで優勝させる。ハクもつくし、いい宣伝にもなる。
そういえば、ストリートも猿芝居が横行していた。
あの時期、ずい分 歩行天バンドがメジャーデビューした。
でも、そういうのは 全部ウソだからね。
2~3週しかストリートに出てないバンドが、事務所のスタッフとかヤラセのファンとかに囲まれて写真を取る。
しばらくすると、
「俺たちこそ、歩行天のスターだ!」
とかいう大見出し付きで音楽雑誌に載り、デビューしていく。
「カズさん、こんな奴らが雑誌に載ってたよ。こんな事、言わしといていいの? サンダーロードのスターはジーニアスじゃん」
ファンがそういう雑誌を見せに、よくボクの所に来た。
そういう「でっち上げ」ってけっこう多いよ。
さすが芸能界だ。恐いね。
つまり、物事には表と裏があるってことさ、フン・・
「○○ブーム」って言ったって、そのほとんどは 誰かが仕組んだ物の中で、皆が踊ってるだけのこと。それぐらい人間は操られ易いし、にせ物が通用するってことだよ。マスコミは誰の味方? 答えは簡単、権力者の味方さ。
ズーーっと そういう理不尽さを見せられ続けてきた。
あの時代から、ホント そうだった。テレビを中心としたマスコミがミーハー達を簡単に洗脳して、やりたい放題。売りたいものを売る────
しかも ミーハーや「何も考えずマスコミや世論に誘導されまくりの人」が思ってた以上に多いという悲劇。テレビばっかり見て「新聞」「テレビ」「ラジオ」の言うことを丸々信じ、疑うこともしない。
「マスコミが勧める政治家が選挙で当選」し「権力者に都合のいい法案が通る」
おかしなことばかり起こって、日本だけ経済が発展しないのに選挙にもいかず「関係ないねー。めんどくさい」と諦めている。
だからボクは、心のどっかで 「真実」なんて無いと思ってた。「この世はギャグだ」と思ったもんね。
「ああ、どうせまた ヤラセだろ?」 そんなシラけた気分を、いつも抱えてた。
「本物」なんて少ないし、本物が出ようと思っても、なかなか出れるもんじゃない。そういうシステムなんだ。金をかけたフェイク(にせ者)が、「本物」の居場所を占領してるからね。
権力者がマスコミとつるんで庶民を洗脳し、やりたい放題。
それからは、色んなコンテストの最終オーディションまで残るようになって。
毎回、見ている客には大ウケだった。
「やったぜ。オレたちが一番ウケてるよ。よし、よし」
ワクワクして審査結果を待ってると、「特別賞」
他のコンテストでも「特別賞」。
いつでも「特別賞」どこでも「特別賞」。
「うわりゃー。いいかげんにしろ!」
っていうぐらい「特別賞」の山が出来た。
つまりはさ、音楽の選考からは はずれるけど観客にはウケてるから。
じゃあ、特別賞でもやっとくか。
そういう位置。多分 あの頃、その世界じゃ有名になってたんじゃないかな?
「にぎやかしの 派手なバンドがうちのコンテストに来てさぁ」
「あっ、うちも うちも。アイツら馬鹿だよねぇ。単なる”客寄せパンダ”に使われてるとも知らないで」
コンテスト主催者たちの間で、そんな会話が交わされていたと容易に想像できる。
実際に、ある音楽関係者に言われたことがある。
「ロックンロール ・ジーニアスなんて、あんなの単なる”おまつり”バンドじゃん」
こっちの耳に入ってくるように「聞こえるように」言われたよ。頭にきたけど、我慢した。
音楽マニアの評価は辛口だよ。
まぁ・・当時のボクたちは 音の完成度が低かったからね、言われてもしょうがない。
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