SONG-55【ライバルに負ける】もっと、でかいコンテストを

SONG-55main-visual-rival-2 タイトル 「SONG-55 もっと、でかいコンテストを」 マッチョ2人が腕相撲をしている画像。 テキストメッセージ:ライバル出現
ライバルに出会い、打ちのめされて実力を知る

ライバル出現!

どんな道でも、真剣に追求すると壁にぶち当たる。

大きな壁、乗り越えられそうもない壁を見上げてしばし呆然とする。

その壁は、金銭的なことだったり「自分の才能を疑うような出来事」だったり、体力、ルックス、頭脳、病気など様々な要因が「壁」という形をとる。

Climb the wall of limitations
Climb the wall of limitations

そんな壁の中で「ライバル」という困難が立ちはだかることがある。

自分と同じ道を目指す者で、明らかに自分より優れた存在。嫉妬と尊敬、憎しみの対象になるのが「ライバル」だ。

ライバルは、最初の出会いは必ず「自分より上。才能豊かで ああいうふうになりたい理想の姿。でも、負けを認めたくない。なんとかすれば勝てるような気がする。いや、勝てないかな? 冗談じゃない、次は勝つ。見ていろよ、近いうち追い落としてやる」

そう思えるのがライバルだ。

その思いが強ければ強いほど、「あれほど強大に見えた敵を打ち負かす日がやってくる」ざまぁみろ、やっと勝てた。追い抜いてやったぞ、と喜んだのも束の間。

すぐにまた追い抜かされ、打ちのめされて地団駄を踏む。体が燃えるほどの怒りに歯を食いしばって再び勝利! 今度こそ、俺の方が上だ、と思っていたのにまた負ける。

sprint rival

抜きつ抜かれつ。

そういうヒリヒリしたレースをする相手が「ライバル」だ。

ライバルはいた方がいい

心から憎み、恐れ。でも いつしか心の内で尊敬しどっかしら好きで、気になって気になって仕方ない存在。それがライバルである。

大っ嫌いで大好きな「ライバル」という存在が、道の途中で何人も現れる。

気づくと追い抜いている場合もあるし、ずっと先を行っていて追いかけ続けている場合もある。

ライバルはいた方がいい。どんな世界でもライバルがしのぎを削って、時に助け合い。お互いが高め合える。すると そこのジャンルは大きく発展し、質の良いものが生まれてジャンル、業界そのもののレベルアップがされるのだ。

Rivals who sometimes help each other

高い山に登る2人。先に登った方が、後に続く者の手を引っ張って助けているシルエット画像。2人の背後に眩しい太陽の光。

ライバルがいない世界は盛り上がっていない。


具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。

ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜

ボクについては プロフィールを見てね

目次

SONG-55 もっと、でかいコンテストを

ヤマハの有名な、2つのコンテスト

コンテスト荒らしと言ったって、実態はいいように使われているだけ。
これ以上特別賞なんて欲しくもない。

「プロ デビューを目指すんなら、もっとでかくて有名なコンテストに出なくちゃ駄目だよ」

Big band contest

話し合って、ヤマハのコンテストに出ることにしたんだ。

ヤマハには、有名な2つのコンテストがあった。
中島みゆきとかユーミンなんかが出た「ポプコン」
世良のいたツイスト、サザンとかシャネルズなんかが出た、ロック色の強い「イースト ウエスト」

でも、どちらも無くなってしまった。

で、新たに その2つのコンテストを合体させて ヤマハが打ち出してきたのが、

「バンド エクスプロージョン」

という超ドデカい大会だった。

BAND-EXPLOSION-advertising flyer

世界中のアマチュアバンドのナンバー1を決めようと、日本以外でもオーディションを行い、アメリカ、イギリス、ヨーロッパだけでなく、中東やアジア圏からも、各国の審査を通過した、その国の代表たちが日本へやってくる。日本でも、世界でも激しい選抜が行われ 選りすぐりの強豪バンドが集結する。

ファイナル コンペティション(決勝大会)は、あの武道館で行なわれるんだよ。

「こんなスゴいの、無理なんじゃないかなぁ」

あまりのスケールに尻ごみするメンバーもいる。

「何言ってんだよ。これを乗り越えないと、プロにはなれないんだぜ。・・・それに、最終的には武道館だけど、まずは小さな店の代表になればいいんだ」

ボク自身、自信が尻すぼみになりそうだ。 逃げ出したくなる気持ちを隠して自分とメンバーにハッパかけるように大声を出した。そうさ、こんなとこで怖気付くなんて 冗談じゃない。

Two dogs cowering in fear

ヤマハのコンテストは非常に特殊な方法で行なわれる。
全国に何百とあるヤマハを扱う楽器店。その店が主催する、店のコンテストで代表になることからスタートするんだ。

これにはヤマハの経営戦略が見えるね。


各店が毎年コンテストを開くことによって、地元のアマチュア ミュージシャンが活気づく。コンテスト優勝という明確な目標は、バンド活動を真剣なものにし、結果 高い楽器が売れ、楽器店も潤う。

ましてや自分の店から送り出した代表バンドが、大きな大会で優勝でもしようものなら、かなりの宣伝にもなるからね。
よく考えられたシステムだと思うよ。

ボク たちは神田にある、「M楽器」という楽器屋さんのコンテストにエントリーしたんだ。

なぜかと言えば、ウチのスタジオの機材、そこから買ったの。
言ってみればお得意様ってことでしょう? 少しは有利になるかなっていう甘い考えもあったし。

その店の上の方の階に小さなホールがあって。
そこが店大会の場所だった。

Step-by-step

牙をむくライバル

「あっ、オレここ来たことある!」

ボクは思わず叫んだ。

すっかり忘れてたんだけど、昔 「バンドメンバー探し」をしてた頃、「メンバー募集」の張り紙を貼らしてもらいに ここに来たんだ。あの頃、1人ぼっちで不安で切なかった日々・・

「でも、今はこのホールで ライブ オーディションを受けるまでになったぞ」

じ~~ん、と感慨深いものがあった。

なんだか運命を感じる。良いことありそうな気がした。

rehearsal

当日、20数組のバンドが出たのかな?

「ヨッ。今日は頑張ってね、自信ある?」

この楽器店の店長 H さんがアイサツに来て。ニヤニヤしながら言うから

「バッチリですよ。見ていてください」

って言った。

「実はさ、ウチのスタッフも今日のオーディションに出場するんだ」

楽器店 店長が不穏なことを言うものだから、

「へー、そうなんですか?」

と、平静を装って言ったけど、明らかに顔が引きつっていた。

A cat who cannot hide his surprise

予定が狂ったな? お得意様のオレ達と自分の店のスタッフ。どっちが有利だ? なんて計算を頭の中でしていたら、

「うちのスタッフのバンド、自信あるらしいよ」

って言うの。だから思わず、

「うちだって負けませんよ」

って対抗した。

そのスタッフ、何度かうちのスタジオに機材の修理に来てくれたりしていて、顔見知りだったんだ。だから廊下でそのスタッフに会った時、

「あっ、どうも」

ってアイサツしたら、プイッ とそっぽを向かれた。アレ? 気づいてないのかなと思って、もう一度、

「オレたち、高円寺のスタジオの、ジーニアス・・・」

っていうと、ことさらに無視してる。

A young man who ignores me with hostility

なんだ、そういうことか。
まぁ、真剣に上を狙ってる奴なら、気安く他のバンドと友達づき合いも出来ねぇもんな、「もう戦いは始まっているんだ」と理解した。

オーディションの順番、そのスタッフバンドの方が早かったんだ。ボクたちより。
だから、イスに座って見てた。奴らの演奏を。

メンバー全員で、腕を組んで。余裕だったんだけど・・・

Arms folded and an irreverent attitude

「ドコダーン、ダダダダ」

そのバンドのドラムが叩いたら、サッ と顔から血の気が失せた。ブッとんじゃったんだ。
ボクも、メンバーも、そこの会場にいた全員が。

スゲエよ。音の存在感。同じドラムセットを叩いてるのに、全く別の音がするんだ。

他のバンドは、パン パン パシャ―ン、トス トス・・・なんて音してんのに、そのドラマーが叩くと、

「ドカーン」「ドス ドス」「パーン」「ガシャーン」

22口径のショボイピストルが、突然 バズーカ砲になっちゃった。

音にシンがあって、コシがある。

別に でかい音を出そうと思って叩いてるわけじゃないんだ。
ショットが正確で、“タメ”を効かせて、全身ムチみたいにして叩く。ベスト ポイントに当たるから、「ドスン」とくるの。井上尚也のパンチ力が凄いのと似てる。なぜ、あんな人間離れのパワーが出るのか?

どんな楽器でもそうだけど、凄い奴が演奏するだけで、その場の空気が変わるんだ。そういうものだよ。音楽って。

そのオーディションで、「音」というものの凄さと素晴らしさを初体験させられた。

I was shocked by my rival's ability
I was shocked by my rival’s ability.

そうなると、バンドの奴らは もう余裕でね。
「ざまあ見ろ」って顔して演奏を楽しんじゃってる。
司会の女も 突然ファンになっちゃって、もうそのバンドびいきなの。もう司会でもなんでもない。思いっきりエコひいき。あの女、仕事忘れてやがる。

Astonishment

そいつらが終わって、メンバーを廊下に呼び出したんだ。

「どうするよ? スゲエもん見ちゃったな」

ボクがうめくように呟くと マコト・クレイジーが

「うん、あのドラムはスゴいや」

と言い、レイ・ギャングも

「カッコいいですよねぇ」

と同調した。ところが それを聞いてた トミノスケ がプイッとよそを見て、

「そんな大した事ないよ」

と、吐きすてた。

A man who can't admit the greatness of his opponent

「・・・・・・」

みんなが思わず 口を つぐんだ。

まぁ、わかるよ。同じドラマーの自分を差し置いて みんなが「敵のドラマー」を褒めちぎっているわけだからね。気持ちはわかる。でも・・

何と言ったらいいか―――

どうひいき目に見ても、トミノスケ じゃ足元にも及ばない。それぐらい差があるんだ。悲しい現実。

「トミノスケ はさぁ、広島でやってたバンドの中でもダントツにうまかったけん。負けてないよ」

早引き・ヒカル が助け舟を出した。

早引き・ヒカル は トミノスケ と同郷で、子供の頃から一緒のグループでバンドをやっていた。優しい男。だからフォローを入れたい気持ち、わかるけど・・

みんなは顔を見合わせ、もじもじ苦笑いした。苦笑いするしかなかったんだ。

みんなの本音は、

「もう、言うなよ それ以上・・」

って心の中で叫んでる。

どう見ても プレイヤーの格が違う。
あそこまで差があるなら認めるしかない。

殻に閉じこもってないで 冷静に分析して、吸収するべき所を吸収すれば、今よりもっと成長できるのに・・・ そういう姿勢に欠けていた。

people who sneer

トミノスケ の問題だけじゃないんだ。ドラマーほど凄くはなかったけど、ギターも ベースも、ボーカルだって・・悔しいけどボクたちより上だ。単純に言って技術力の差ってやつがあった。いつものように強気で「関係ねぇよ」って押し切ることも出来ないわけじゃない。
でも・・岐路に立たされていた。何かの道で成功しようと思うなら、ここ 大事だよ。

上に昇れば昇るほど、凄い奴は出てくるんだよ。
あまりの違いに打ちのめされる。でもそれは、同時に 自分をもう一段高い所に導くきっかけにもなるんだ。

凄いライバルが現れて打ちのめされる。完全に負ける。


その時、「一旦 敗北を受け入れて」今の自分たちを冷静に分析し、反省して。
今までのやり方を見直す。過去の悪い部分、恥ずかしい自分にスポットを当て、改善するために「自分と、負けた相手の違いを研究」するんだ。

一旦、敗北を受け入れる「勇気があるか」どうか。
この世の全ての道で、一流になれるか その他大勢の「評論家」で終わるかが、ここで決まる。

覚えといて。とっても重要だからしつこく言うね。

敗北は悔しい。涙が出る。でも、一旦「負けを認めて1からやり直す勇気を持て」それは、遠回りに見える。でも、一度通った道をもう一度丁寧に歩いて「適当にやってた部分を修正する」ことは大事だ。素人芸からプロの技に磨き上げろ。そのために「ライバルに打ちのめされる」経験が必要なんだよ。

負けた相手をお手本として、いい所を吸収して自分に取り入れるか、否定して無視するかで、成長の度合いがすごくかわってくる。もっと上に行けるかどうかが、そこで決まるんだ。

メンバーも、そろそろ気がつきはじめていたんだ。そこのところを、ね。

虚勢張るだけじゃ、これ以上 上には行けない。
ある意味、素直じゃない奴は伸びていかないんだよ。どんな分野でも、そうだ。

A frog in a well does not know the ocean

いよいよオレたちの番が来た。

でも何だか皆 浮き足立ってる。誰も言わないけど、さっきのショックで気負ってるのは明らかだ。

「チューニング、気をつけていこうぜ」

ボクが皆に言った。事前にチューニングを合わせて、完璧な状態でステージに昇りたい。

セッティングが終了して、皆が OK サインを出した。

「行くぜ、GO!」

とボクが言ったら 早引き・ヒカル が、

「あッ、ちょっと待って」

ってまたエフェクターをいじるから 皆ズッコケた。

早引き・ヒカル って、結構そういうことをやるんだ。早めにセティングして、OK になったら言ってねって言っても、必ず後からエフェクターをセットし直す。

ドカーン、とキメる所が腰を折られて ヘナヘナとしたスタートになった。
それでも力技で、派手にアクションを決めて。

「ん? ミストーンが出てる」

あれほど言ったのに、チューニングが狂ってるんだ。早引き・ヒカル とマコト・クレイジー。

「普段、チビ太には厳しいくせに、肝心の時には自分たちがヘロヘロじゃねぇか」

ボクは心の中で舌打ちした。

Trust is broken

焦りと孤独と、信頼関係がくずれたようなステージ。
あの時を表現すると、そんな感じだった。

マコトがソロを弾きながらバックしてきて ボクの足にひっかかり、バッターンって後ろに倒れた。頭を打ったんだ。

「なにやってんだよ」

「なんで、そんなとこに居るんだよ」

お互いが心の中で罵り合う。イライラする。

それでもなんとか最後まで演奏したけど・・・・・

「落ちたな・・・・・・」

嫌な予感に包まれ、身震いした。

Ah, no more

ヤラセ ?

「落ちたな・・・・・・」

みんなでガックリと肩を落とし、流れる汗をぬぐう気力もなく 廊下に集まっていると、

「ちょっと ちょっと、こっち来て」

店長のHさんが、スタッフルームにボクたちを招き入れた。

「・・・・・・」

「どうしちゃったの? 今日は。チューニング ボロボロだったねぇ」

H店長の言葉に

「ハァ・・・大失敗です。それにひきかえ うまかったですねぇ、Hさんとこのスタッフバンド」

lost the war

ボクが言うと、H店長は

「ああ、あのドラマー、半分プロなんだよ。有名なバンドのツアーに同行して叩いたりしててさぁ。・・・まぁ、アマチュアのコンテストにあんな奴が出るのは、反則なんだけどね」

「ああ、やっぱりプロ。うまい訳だあ」

トモコ・チビ太が納得したように呟くと

「なるほどねぇ」

と、マコト・クレイジー も頷く。

「プロなのかぁ」

レイ・ギャングがため息のように言うと、皆も口々に納得した言葉をつぶやく。

Band members who learned the truth

今年のコンテストもこれで終わりだな、と思っていると H店長が、

「通しといたから」

と、おもむろに言った。

「えっ?」

全員が意味をはかりかね お互いを見つめ合っていると、

「いや、君たちのバンドさ、店の大会を通過させて 店代表ってことで地区大会に駒を進めるんだよ」

唐突な H店長 の言葉に みんな すごく驚いて、

「えっ!? だって・・・オレたち」

きつねにつままれたように H店長 の顔を全員が見つめると、

adult circumstances

「うん、今日の演奏は納得出来ないんだろう? でも その失敗を補う迫力は充分にあったよ。審査員の人たちも ほめてたし」

「で、で、でも、あの うまいバンドはどうするんですか?」

焦ってボクは聞き返した。いくらなんでも、あの スタッフ・バンド よりウチらの方がいい、ってことはないだろう。たとえプロ・ドラマーがズルして混じっていることを差し引いても。

これで ロックンロール・ジーニアスが選ばれたら、逆にヤバい。他のバンドから「ヤラセ」って、ボクらが非難されるぞ。そんなのは・・

H店長は、そんなボクらの焦りを見透かしたように笑って、

「ああ。あいつらも合格。君らとあのバンドと 二つが今年のうちの店の代表だ。優勝したんだよ、うちのスタッフバンドもジーニアスも」

各店の規模によって送り出せる代表の数がちがう。
M楽器は、二つの枠を持っているそうだ。それにしても・・・

share secrets with friends

「じゃ。ここで言った事は内緒だぞ」

それだけ言うと、店長のHさんはホールに向かった。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

果たして。

審査発表があり、ボクたちとスタッフバンドが選ばれて。

店大会優勝の 小さな賞状を受けとった。

勿論、完全なヤラセではなかったろう。ボクたちも多くのステージをこなして、それなりのバンドにはなっていた。

しかし、誰の顔も浮かないもので。メンバー全員が

「これは、オレ達の実力で勝ち取ったものじゃない」

という後ろめたい思いが渦巻いていた。
自信満々に、いろんなバンドからの祝福を受けるスタッフバンドとは対象的にね。

A man who regrets going to prison

Hさんは、商売人だから ちょくちょく駆け引きをする。

例えば、うちの楽器が故障した時も。ボクが、

「Hさん、この修理代。高いっすね、もっと安くなりませんか?」

と言うと Hさんは

「無理だよ。修理したらこのぐらいかかる」

と交渉のテーブルにつこうともしない。

「これじゃあ、もう少し出せば新品 買えちゃいますヨォ」

とゴネると

「じゃあ配送料、うちが持とう。これはサービスでいいよ」

「配送料って、そんなかからないでしょ。ここからうちまで近いんだし。うちの階段、4階まで楽器上げてくれるって言うんなら助かりますけど」

「あ、いいよ。じゃ、それで。うちの若いスタッフが上げるから」

って言うから納得したら。

two men negotiating price


機材運んできたのは 店の若いスタッフが1人だけ。ふうふう言いながら大型スピーカーを階段で運んでんの。恨めしそうな顔して・・

 

「とっとと手伝えよ」

という素振り。無言の抗議をする楽器店スタッフの姿見たら・・・結局、こっちが手伝わなきゃならない。計画的だな。

Hさんは、ボクには「うちのスタッフに4階まで荷物上げさせるからいいよ」って言っといて、店のスタッフには「向こう行ったらジーニアスの連中が手伝ってくれるからさ」って言ってるに決まってるじゃん。それで手伝わなかったらーー

なかなか手伝わない意地悪な連中、って言う印象ついちゃうよね。

あ、そうか!
店のスタッフバンドが ボクたちに挨拶しなかったのも、そういう恨みからきてる部分もあるのかもね。

スタッフ1人しかよこさないんだもん。Hさんとの約束で最初は無視したとしても・・居心地悪くなってくる。1人で汗かいてたら手伝うしかない、という駆け引き。

今回のオーディションで、スタッフバンドとボクたちを通したのも

「お客であるジーニアスとの関係性も悪くしないように」

という配慮があった気がして素直になれなかった。
冷静に判断して、他の出場バンド見渡しても ボクたちが勝ち抜いたのはしごく真っ当なことだと思う。それぐらい場数踏んでいっぱしのバンドになってたからね。

それでも、モヤモヤした気分が晴れなかった・・・

A man who looks like a scammer

それから一カ月ほどして。
地区大会は、渋谷の「エピキュラス」というヤマハのホールで行なわれた。

その昔、力道山っていう有名なプロレスラーが個人所有していた プロレスのリングだったところを ヤマハが買い取って音楽ホールにしたらしいね。大きくて有名なホール。ミュージシャン憧れの場所だ。

「ヤマハのエピキュラスに立ちたい」っていうアマチュアミュージシャンは 当時多かったんじゃないかな。


憧れのホールで コンテストに出場、という状況が、ボクを妙なトランス状態にして。M楽器での失敗を振り切るように、ボクは歌った。

メンバーもかなり気合いの入った演奏をした。


しかし。

運が続いたのも ここまでだった。

地区大会ーー

そこは激戦の地で、うまくて個性的な奴らがごちゃまんと出場していたんだ。
当たり前だよ。みんな店大会の優勝者だもん。ハンパな奴はいない。

まだどこかで 「もしかすると」と、淡い期待を持っていたメンバーの願いは、当然のごとく打ち砕かれ、ボクたちのコンテストはその、エピキュラスで終わった。反対にM楽器のスタッフバンドは この大会でも勝ち残り、中野サンプラザの関東甲信越大会への出場を手にした。

glory and failure

栄光と挫折。
明暗分かれた形で、M楽器の代表バンドは おのおのエピキュラスを後にした・・・

「クソー、このままじゃ駄目なんだな。これ以上 上に行こうと思ったら、ハッタリは通じない。パフォーマンスだけじゃ、バンドとして評価されない。音の充実を目指さなければ」

Frustration explosion

はっきりと、目の前に突きつけられた現実。

音楽やるなら、「音楽で人を納得させなきゃね。暴れてるだけじゃダメだよ」って声が聞こえた。神様の声? ボクの心の中の声?

再び壁に突き当たって、考えた末に ボクは「ギタースクール」に通いはじめた。

音を追求するには、楽器をやるのが近道って聞いたし。メンバーに教えてもらうのはイヤだったから、スクールに通ったの。

やってみて驚いた。
いかに何も知らずに音楽家気取りでいたことか。

「1・2・3・4、 1・2・3・4」

小節感も無いまま 歌っていたんだ。

断言するけど、ボーカリストも楽器をやらなけりゃダメ。

「カラオケがうまいから、歌手になります?」

笑わせんじゃないよ。日本語書けるから、皆 小説家になれるのか?っていう話じゃない?

note and measure

音楽の三要素っていうのがあって。

「リズム・メロディ・ハーモニー」

特にバンドマンに一番必要なのは、リズム。リズム感だよ。

音程が多少はずれても、リズムがしっかりしてれば パンクみたいでカッコいいけど、リズムが悪いと通用しない。現代音楽では。

いわゆる「ダッセー」って言われちゃうんだ。

リズム&ブルースなんかは、一小節を16に細かく分けて考えているんだから、ちょっとズレたって、独特のグルーブがこわれちゃうからね。さらに16の裏をカウントするには 32 で細かく細かくカウントするとか。

ノリなのよ、ノリ。センスがいいかどうかの根幹にリズムがある。

カラオケとプロのミュージシャンの差は、こうやって音符を細かくコントロールする、ってとこから違うんだ。ドラムのカウントが始まったら、音楽が終わるまで。時間を支配しなきゃいけない。

人を振り向かせる音楽っていうのは、「その場の時間を支配する」ってことなんだよ。時間は命。そこにいる人の命を預かるんだ。何分間という音楽をプレイしている間ね。人を熱狂させるって、そういうこと。

だからバンドマン全員が、リズムの鬼になって、一人一人が「ドラマー」だぜって思ってプレイする。ギターもベースも、ドラムを叩くつもりで弾く。それが「キレのいいプレイ」だ。

ロックキーボーディストなんか、文字通り ケンバンをドラミングして、叩いて弾いたりするでしょう?

ギター、ベース、キーボード、ボーカル・・・それ以外の楽器も全て。全員が「メロディのあるドラム」を叩いているんだよ。そういう意識、大事だね。

Drummer

そうやって楽器をはじめたら、だんだん「音楽的」な話ができるようになってきた。

スタジオに入って練習してる時にも、「1・2・3・4」って小節を感じながらリズムをとって、

「あのさ、そこのアレンジ シンコペーションして」

とか、

「もっと くずして フェイク気味にさ・・・・」

なんて言うと、マコト・クレイジーも 速弾きヒカルも

「アレ?どうしちゃったの?」

なんて。

キョトンとした顔で、お互い顔を見合わせちゃってるんだ。

Rock'n Roll Show
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