中指、立てちゃだめよ
映画でかっこいい主人公が、画面に向かって中指を立てる。そしてクールな決めゼリフを言うんだ。それ以外にも、いろいろな場面で見るよね。ワルに向かって中指を立てた後、やっつけたり。彼女が彼氏に中指を立てて別れを告げたり・・・
リアルに使わないボクたちには何やらわからないけどカッコよくて便利なポーズに見えるから。中指立てたくなる気持ちもわかるよ。
でも、中指、立てちゃだめよ。
人や国、相手によっちゃあ大変なことになる。単に馬鹿にしたりカッコつけるだけじゃなく、相手を酷く侮辱することになる。
◉されることだってあるよ、マジで。
中指立てた瞬間、ズドンと撃たれることだってある。
怖いポーズなんよ、実は。
あー、あん時、ボク無事で良かったなぁ、と我が身の幸運を、いまだにドキドキ噛み締めることがある。今日は、そんなお話。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-57 中指 立てるべからず
メンバーチェンジ
トミノスケの様子は、もう大分前からおかしかった。
ドラム叩くって言うよりも、不満を殴りつけるような、荒れたドラムになっていたからね。
「どうした? 何か気に入らないことでもあるの?」
って聞いても
「別に。何でもないよ」
って。ただ答えるだけ。
多分、バンドの音楽性がね、最初はじめた頃と違って行ったのが理由かな。
ボクたちはロックバンドを目指しはじめ、トミノスケは もっと巷で流行っているような・・ TVに出てくる J ROCK がやりたい訳だから。
イライラは、つのる一方だったみたい。
”ヒッコリー”っていう高いスティックを使っていてさ。「スネア」っていう太鼓の フチのところ。リムにからませてショットするんだけど、
「バキーッ」
とか、スティックが折れて飛んでくる。
1曲持たないの。わざと折ってるとしか思えない。
練習が終わると、折れたスティックが束になってるんだ。
薪にしてくべたら キャンプファイアー出来るよ。
「もうスティック無いから叩けない」
なんて言われて。皆でカンパし合って、アイツのスティック買ってやったり。
くだらねぇよ、そんなこと。本人は、もう 完全にやる気を失くしちゃってるんだぜ。
トミノスケにとって、バンドなんか もうどうでもいいんだよ。
だけど、「やめる」とは言わない。今やめると、自分の活動に支障をきたすから。
ソロデビューを狙って、せっせとレコード会社に自分の曲を送ったりしてた。
練習の無い日にスタジオをのぞくと、スタジオのレコーディング機材、MTRでレコーディングしていてね。
「ヨッ」
って声を掛けると、コソコソと機材をしまったりして。
別に、堂々としてればいいじゃん。
「俺はソロになりたいから準備してるんだ」
って言えば、皆だって応援するよ。秘密でやるのが好きなんだよなぁ。アイツ。
メンバーチェンジはやりたくなかったけど、もう時間の問題だった。
山梨かなんかにイベントのオーディションに行った時。
トミノスケが、その日は都合が悪いっていうんだ。
「えーっ!? 何で?」
「もう先方と約束しちゃったじゃん。今さらスケジュール変えられないぜ」
皆で説得しても、のらりくらり。
「行きたくない」
って言葉をくり返すんだ。
今まで、こんなことはなかった。
バンドのスケジュールを最優先させるっていうのが、ボクたちのルールだったからね。
ただでさえ人数が多いんだから。1人1人が自分の都合を言い出したら、きりがない。全員がベストのスケジュールなんて、あるわけないじゃん。誰かが無理して、それでもバンドを優先させてきたから、今のジーニアスがあるんじゃないか。
そうやって活動を続けて、ファンがついて、歩行天ブームを作って、音楽的にも成長してこれた。
誇りだったんだよ。年間100ステージ、休まず LIVE してこれたのが。
でも・・バンドにほころびが出はじめた・・・
仕方がない。「いよいよ駄目か」と思って、別のドラマーを連れて行くことにしたんだ。
速弾きヒカルは反対したんだけどね、
「トミノスケが行けないんだったら、中止すべきだよ」
って。
結局、それがきっかけになって、トミノスケは去った。
人は去って、人は来る。
今のロックンロール・ジーニアスに入りたい、ってヤツはたくさんいたから 昔みたいにメンバー探しには困らないんだ。軽い面接をやって、音楽経験を聞いてスタジオでセッションしたヤツを トミノスケの代わりに連れていった。
だから次のメンバーは、その山梨のイベントで叩いてくれたヤツ。
マージ―ビートが好きなドラマー。
ビートルズみたいなバンドをやっていたんだって。
うまくはないけど明るいし、ストレートで力強いドラムスタイルは好感が持てた。
やっぱり前向きってことは大事だよ、進んでいくためにはね。
それに、作詞作曲もできたから。グループとしての武器が増えたんだよね。
新しいドラマーの作る曲は、ポップな割りに、マコトのハードロック アレンジにも、よく合った。新しいジーニアスが生まれる予感があったんだ。
まぁ、でも。このドラマーのことは詳しく説明しない。
その後いろいろ あまり楽しい思い出がない、ってのが1つの理由。
でも、もっと大きな理由はーー
この後、ボクは生涯のドラマーとも言うべきすごいヤツと出会うから。そいつがボクの親友だし、ボクが最も認める素晴らしいタイコを叩くヤツ。
Fine とか叩いてるドラマーだ。
ここではこれ以上言わないけど、そいつに比べたらプロの有名なドラマーだって霞むよ。
ドラムに関していえば、もうそいつのこと以外にはあまり興味もないし喋りたくもない。
だから、とにかく ロックンロール・ジーニアスのドラマーが トミノスケ から別のヤツに代わった。というぐらいの説明で話を先に進めるね。
1か月だったか、2か月ぐらいかな?
ストリートを休んで。新しいドラマーに 徹底的に、ボクらのオリジナルを覚えこませた。
それからロックのカバーをたくさんやって、ライブメニューに組み込んだんだ。
グランド ファンク、ステッペン ウルフ、エアロスミス、リック デリンジャーなんかをね。
ここらへんから バンドにも、ボク自身にも・・ロックのルーツが作られていくんだよ。
中指 立てるべからず
この頃、ちょっとした事件があった。
外国人のファンを、ボクが怒らせちゃったんだな。あまりこの話はしたくなかったけど、ボクと同じ間違いを起こす人がないように打ち明けるね。
あるステージで、ボクは 白人女性に 中指を立てた。
それは「軽い気持ち」
ロックのステージでは「外国でも日本でも」中指立てることがよくある。
だから「深い意味はなく、ロックのカッコつけのポーズ」のつもりだったんだけど。指立てられた相手の女性は殊の外憤慨して叫んだ。まさに激怒ってこう言うことだ。
「ノーーーーーーーーーーウ!」
金髪の美女は立ち上がり、こぶしを握り締めて ボクに叫んだ。
「NO! ・・・NO! NO! ノーウ!!」
白い肌はピンク色に上気し、怒りで噛み締めた唇が小刻みに震えている。
ボクはステージ上で初めて 怒りの対象となったーー
ステージに向けられる表情は、たいていの場合 好意的な笑顔だ。楽しい笑いや興奮、叫び声で溢れている。ステージはエキサイティングだし、気に入らなければ去ればいい。ステージ上の人間は圧倒的な熱量で大勢の客に対峙している。
そんな存在に喧嘩を売るなんて 普通は怖くてできないものだ。大抵の場合、オーディエンスはステージ上の人間の味方だからね。
なのにボク。今、客席の1人から憎悪の目で睨まれている。滅多にできない体験をしているというべきか。
ヤバイな。
そう思ったけど、もう後には引けない。ステージ上では、観客に白旗は振れない。謝るにしても、ステージを降りてからだ。
気弱になったヤツのパフォーマンスなど、誰が見たいものか。演じ続けるしかない。
だからボクは、もう1度 彼女に向けて 中指を立てた。
中指を立てる。
これは英語圏の、特定の地域の人たちにとっては 非常に失礼な表現。行為だ。
若者よ、ロックやってたりパンクやってる諸君、ラッパー達も。
憧れのスターがやってたら真似してみたいよな。
映画でかっこいい主人公が、画面に向かって中指を立てる。そしてクールな決めゼリフを言うんだ。それ以外にも、いろいろな場面で見るよね。ワルに向かって中指を立てた後、やっつけたり。彼女が彼氏に中指を立てて別れを告げたり・・・ リアルに使わないボクたちには何やらわからないけどカッコよくて便利なポーズに見えるから。
中指立てたくなる気持ちもわかるよ。
でも、中指、立てちゃだめよ。
人や国、相手によっちゃあ大変なことになる。単に馬鹿にしたりカッコつけるだけじゃなく、相手を酷く侮辱することになる。
殺されることだってあるよ、マジで。中指立てた瞬間、ズドンと撃たれることだってある。
怖いポーズなんよ、実は。
あー、あん時、ボク無事で良かったなぁ、と我が身の幸運を、いまだにドキドキ噛み締めることがある。
そのぐらい、異常に怒っていたからね、あの金髪白人女性。
最初、ニコニコ笑ってたんだ。原宿ホコ天での、ボクたちのライブ・ステージ。
外国人もいっぱい見てたし、青い目のファンも何人もいたから 金髪美女が見てたって珍しいことじゃない。すごく喜んで、手を叩いたり笑ったり。何曲も楽しんで見てくれてた。
それなのにさ、ボク 曲の途中でカッコよく決めようと思って「どうだ、オレたち。かっこいいだろ?」
と言う気分で 金髪の彼女に向かって 中指を立てたの。悪気があったわけじゃない。軽い気持ちでポーズを決めただけ。前にどっかで見た、映画か音楽のポスターの真似をしてね。
そしたら彼女、あんなに怒るなんて。
中指立てた途端にサッと顔がかわり、茫然とした表情になった。
それからゆっくりと首を振り、大きく激しく首を振った。
そこでやめときゃいいのに、ボク。「あれ?」と思ってもう一度彼女に 同じポーズしたら。
怒って立ち上がり、ノーーーウ!
「NO! ・・・NO! NO! ノーウ!!」
と大声で叫び始めたんだ。爆音の演奏中だったんで、彼女の声はかき消されて誰の耳にも届かなかったけど、地団駄踏んで顔を真っ赤にし大声で叫ぶ彼女は注目の的になった。
やがて連れの仲間が 彼女をなだめながら連れ去ったけど。今も覚えてるもんね、鬼のようになった彼女の顔。夢に出てくる。
まじで。日本じゃなかったら怖いことになってたかもね。彼女の怒りに共感した屈強な男たちにボコボコにされたかもしれないし。マジでズドン、と撃たれたかもしれない。
そういう空気にしちゃったんだ。ボク。
ボクの行為で彼女は傷ついたし、あの場にいた人も 途中で楽しみが飛んだ。
そのことが、とっても悲しい。申し訳ない。人を楽しく、苦しみから開放するためにバンドをやってるのに、反対の空気を作り出してしまった ボクはダメだな。
だから、中指 立てるべからず。
人を楽しませたい人に、ボクから贈る言葉だね。
危険なんだよ、あのポーズは。ホントに。
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