SONG-63【青天の霹靂、寝耳に水。頂点から転がり落ちる瞬間】掌の中の砂

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栄光を掴む人と逃す人

「運」というもの

色々な言い方はできる。

この世には「スポットライトを浴びて活躍する人と、そうじゃない人がいる」

同じように努力して、同じような考え、センスで同じ時期を過ごしても「栄光を掴む人とつかめない人」の違いは出てくるのだ。

それは「タイミング」だったりする

誰かが渋谷の商業ビルの屋上から大量のお金を撒いたりする。例えばの話だよ。

その時、たまたま そのお金が降り注ぐ下を通りかかったら「お金を得られるかもしれない」

もちろん警察に届けるとか、そんな怪しい金は拾わない、という議論は置いといて。シンプルな話で聞いてほしい。

こういう話とか、宝くじに当たると「運がいい」と言ったりもするけれど・・

でも。

ボクは、こういうのは「運がいいとは思わない」

あまりにも他人任せの出来事だからだ。

money falls from the sky

ボクの考えは、

「運がいい」とは、自分の努力に 他人の力(外部協力や社会情勢など)のタイミングが合った時

だと思う。

自分がやってきたことと、外部の後押しが重なって「成功した時」運がいいな、とボクは思う。

努力もせず、「空からお金が降ってくる」ことを願えば、間違いなく 他人任せのストレスの多い人生になるだろう。

ところが、努力しても「間が悪ければ」運が悪いことになったりもする。

その事例を、今回のストーリーから感じ取って欲しい。

相当キツイ話だけれど、やっぱり「運がいい」ことも「運が悪い」出来事もこの世にはあると思う。

しかし「運の良し悪し」が自分の努力と外部の後押しとのタイミングと出会いだとしたら・・・

1度で栄光をつかめなくても、何度もトライするしかないと思う。傷ついた心を癒して再びトライ!

死ぬまでに チャンスは何度だって訪れる。諦めなければ。

そう、これから起こる出来事に「ショックを受ける」あの時の自分に そのことを教えたい。


具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。

ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜

ボクについては プロフィールを見てね

目次

SONG-63 掌の中の砂

今回の話は・・・

避けて通りたかった。みんなだって楽しい話を聞きたいだろ?

ボクたちは「ヤマハのコンテストでグランプリを獲った。有名なヤマハの大きなコンテストで優勝だ。だから その勢いに乗って華々しくデビュー。売れて、有名になって スターバンドになったんだよ。ロックンロール・ジーニアス は!」

それでいいじゃん。それが自然な流れだよ、そういう話だろ?

・・・でも、神様が書いたシナリオは 全く別の 複雑な展開だった。

シンプルな成功物語を、先の見えない「長編ドラマ」にしたんだ。

attacked by a bear

運というもの

始まりは、こうだよ。

銀座のヤマハ東京支部で打ち合わせをしたあと。食事と酒をおごって貰った。

「もうすぐオレは成功する、ヤマハのコンテスト優勝者としてデビューするんだ」

ボクは幸せの絶頂にいた。ヤマハの人たちも本気で期待してくれて。

「外人バンドに勝てる スケールのデカさを持ってるのは、ジーニアスしかいない。日本人では、まだ世界大会の優勝者はないから、是非ともガンバって欲しい」

「そう! 次は、武道館だよ。世界中の国を代表するバンドが出てくるんだ。どう? 自信ある?」

ヤマハのスタッフたちが ボクの顔を覗き込むように言った。

「もう 矢でも鉄砲でも持って来いですよ。次は 世界一を目指せばいいんでしょう?」

そうさ、世界一になってやる。

アマチュアで武道館を踏めるバンドは・・・そうそうはいないだろう。

ヤマハの人たちがついでくれる酒をあおりながら、ボクは 未来の扉が開く音を 確かに聞いた。

The door to the future opens

さて。
世の中には「運」というもののつかみ方を解説してる本は数多くあるけど、運を手にした時、どうするか?これについては誰も語らない。

しかし、それは とても重要なことなんだよ。  ・・今、確信していることがある。

人は大きなチャンスがくると、なかなか両手を広げてその運を迎えようとはしないものだ。躊躇(ちゅうちょ)して しまう。

「アレー?自分ばっかりがこんないい思いしていいのかな?」

って少し引いてしまうというか・・・・遠慮するんだよ、心にブレーキがかかるんだ。

他の人に悪いなって思ってしまうんだ。幸せを独り占めしちゃうのはよくない。もっと他の人にもおすそわけを・・・・と。

実はこれが落とし穴。

とにかく目の前にラッキーチャンスが来たら、全力で抱きつくんだ。全ての幸運を自分の中に取り入れられるように。遠慮しちゃ駄目なんだよ。

Hug me without hesitation

ちょっとでも遠慮すると、運はスルッと、逃げる。

「あ、いらないの?じゃあね」

って。そりゃあサッパリしたもんだぜ。そして、一度逃げた運はどんなに追いかけても二度とつかめない。次にめぐってくるまでは。これ、本当に大事なことだから覚えといて。

幸運が巡ってきたら「自分だけいい思いしてごめん」なんて一切考えるな。抱きついて全部独り占めにすること。遠慮したら、そこで全てが終わる。超有料情報だから、深く胸に刻んどいて。多少、強引でもつかめ! 人へのお裾分けは、成功した後にだってできるんだから。つかめなけりゃ誰も幸せになれない。わかった? これが運を掴む秘訣だ。でもね、


 

この大事な運を・・ ボクも躊躇した―――

ゆえにこれから起こることは自分の蒔いた種。自分の弱さが引きつけた、マイナスエネルギーのような気がしてならない・・・

falling man

昭和が終わる

夕方。

ギターを弾きながら、作曲をしていた。
サビのコードが決まらず アレコレ悩んでいた時に、部屋の電話が鳴ったんだ。

ガチャ!

「もしもし・・・・」

出ると、ヤマハの和田さんの声。心なしか沈んでいる。でも こっちはハッピーな気分だったから、C調に

「そういえば この間頂いたグランプリの賞状、ジーニアスの名前のところがマジックで手書きしてありましたねぇ。もっと筆かなんかで、キレイに書いてあると有り難みも増すんスけど・・・友達に見せたら、“これ、自分で書いたんじゃないの? ほんとうに優勝したのかよ”って疑われちゃいましたよ。ハハハハハ」

「・・・・・・・」

「ハハ・・和田さん?」

乗ってこない。わずかに不安を知らせる勘が働いて、

「・・・どうかしました?」

質問はしたものの、和田さんの返事が聞きたくない。
よくない事態が起こりつつあるのは、受話器の向こうの空気でわかる。

I have a bad feeling

ヤマハの和田さんは、しばし無言だったが やがて ゆっくりと話し始めた。

「陛下が御病気なのは、知ってるだろ?」

「陛下? ・・ああ。最近、マスコミが騒いでますよね」

「ことの外、ご容体が思わしくないらしいんだ」

「・・・・・・・」

そりゃあ、ボクだって日本の象徴が病に伏せってるのは心配だが・・
そのことと、自分たちとのつながりは 何だろう?
抜けたジグゾーパズルをはめこもうとした。

「武道館っていうのは、皇室関係の持ち物だよ」

「あっ!」

ヤマハの和田さんのヒントに、全ての謎が解けた。もうそれ以上は聞きたくない。

でも和田さんは続ける。

嵐の海で木の葉のように揺れる船
嵐の中をゆく船のようだ・・危うい。

「ポツリ、ポツリとね、いろんなイベントが自粛ムードになってきてる。業界の中でも中止になったイベントは多いよ」

「それって まさか・・・武道館での世界大会が中止・・・って意味じゃないですよね?」

「・・・・・・・」

来るはずのない 前向きな答えを待った。長い「間」に ごくりとつばを飲みこむ。

「中止かどうかは・・・・まだ微妙な所だ。そうならないように 全力で努力してみるが、一応・・・覚悟はしておいてくれ」

何分かしゃべった。詳しくは覚えていない。

「ガチャリ」

old phone

受話器を置くと、未来の扉が閉まる音がして。

差し込んでいた 希望の光が消え、闇に包まれた。 わずか2ヶ月ほどの輝く日々が終わった・・

                 ★

Budokan tournament canceled

武道館にかかる橋の遠景イラスト。雪が降っている。

テキストメッセージで、
「武道館大会 中止」

「お前らみたいに ツイてないバンド、見たことねぇよ。何万分の一の確率で 這い上がって来たのに、何百万分の一の不幸に見舞われ チャンスを失なう。 運がない奴は この世界、難しいかも知れないぞ」

少しトゲがある ヤマハの、若いスタッフの言葉が胸を突き刺す。

「運、ですか・・・・」

Band members who were told they were out of luck

時代の変わり目に、ボクは立ち会った。

突然。
そう、あまりにも突然、昭和が終わりを告げようとしている。 新しい時代が始まるらしい。

これ、すごい危険なことだ。

時代が変われば、すべてが変わる。

「時間」というエネルギーの恐ろしさをボクは この時、肌で感じていた。

「時代が合う、合わない」「もう少し早く生まれていたら。あるいは、生まれてくるのが早すぎたね」と言ったりする。

この意味を、ボクはリアルに感じとっていた。

うーん・・あの時をどう表現すればいいのだろう?

今まで感じていた世間からの好意が、変わったんだ。風向きが変わった感覚。

「もう、おまえらの時代じゃないよ」

って、時代に言われてる気分。

実際、周りの反応がみるみる変わっていった。

新しい時代が今までの価値観を吹き飛ばそうとしている。それまで ぴょんぴょん飛び跳ねていた「縦ノリ」お子様バンドが幅を利かせてきた。ボクたちのようなリズムは、時代に合わなくなってきたのがわかる。恐ろしい。

ska
ジャマイカ生まれの音楽
2ビートを基調とした速い裏打ちリズムが特徴。

「陛下、どうかご無事で。昭和の時代が末永く続きますように」と、心から願った。

しかし、時代は容赦なく流れ。年が明けて間もなく 皇居・吹上御所で「日本国 天皇陛下」は崩御された。

空気が薄くなり、世の中がが薄暗くなったのを覚えている。1つの時代が、終わったーー

「天皇陛下 崩御により、世界大会中止」

このニュースは、たちまち各国の「バンド エクスプロージョン」関係者にも伝わり、一大ブーイングが巻き起こった。裁判ざたの話まで出たらしい。そりゃそうだ。海外の連中は、日本人にとっての陛下の存在意義や影響力を理解しちゃいない。それよりは自分たちの未来をどうしてくれる、ってことだろう。

激戦を勝ち抜き、すごい思いをして勝ち上がって 日本へやってくるんだ。やっと勝ち抜いて来たのに。日本側の都合だけで、簡単に中止にされてたまるか、という雰囲気。一悶着もふた悶着もあったことは容易に想像がつく。

とはいえーー

悩んだ末にヤマハ側が出した結論は、少し延期して 天皇崩御による 世の中のショックが収まり、イベントをやることに対して風当たりが弱まった頃を見計らって。それでも、あまり公にせずに「ひっそりと」大会をとり行うというものだった。

会場はフジテレビの「夜のヒットスタジオ」が収録されていたという広いスタジオを使って、収録をするらしい。しかし、観客は一切入れない。今のコロナ騒ぎと一緒だね。無観客試合ならぬ、無観客コンテスト。

盛り上がるわきゃあない。特に観客を巻き込んで熱狂させるスタイルのステージが得意なボクたちにとって。不利だよ、完全に!

ボクたちのファンのチケットは既に100枚以上完売していたのに・・

A band that performs well

明らかに盛り上がりに欠けた内容。失速したイベント熱。ファンも、ドン引き・・・

だけど、それ以上は望むべくもない。

「よし、頑張ろう。どんな状況になっても グランプリを取ればいいんだ」

お互いを再びふるい起たせる。だけどなんだか流れが、吹いていた風が・・・変わった。

それでも、ヤマハのスタッフは、ジーニアスを主役にしようと考えてくれてて。
コンテスト終了後に、世界中のアマチュアが1つになってビートルズを歌うという企画で。その演奏をジーニアスに依頼した。

「カズ、エンディングでステージの真ん中に立って 皆をリードしていってくれ」

ヤマハの和田さんに肩を叩かれ任されたんだ。

構想では、ボクたちがグランプリを取って、世界中のミュージシャンと「ゲットバック」を歌う。


音楽という「言葉」で、世界は1つになり でかいトロフィーを抱えて喜ぶボクの顔がアップになり―――――


というのを表現したかったんだと思うよ。多分。

でも この時、風向きが変わって ロックンロール・ジーニアスの強烈な輝きに 陰(かげ)りが見えたことにはヤマハのスタッフも まだ気づかなかったんだ。

ボクにはわかるんだよ。強烈な警告音が心の中で鳴っている。ヤバイ、頂点から転落していく自分が見えるんだ。

I hear a warning sound from inside my heart

手のひらから こぼれていく砂―――
どんなに強く握りしめても いや、強く握りしめればしめるほど こぼれていくんだな、砂が・・未来が。

Sand spilling from my palm

九段下に「パレスホテル」というのがあって。 出場者は、全員そこと、すぐ近くのかなり古びた日本建築のホテル「九段会館」に分かれてチェックインした。

「九段会館」は、その後 3.11 の大地震の時、天井が崩れて落下したよね。崩落した瓦礫の下敷きになって、確か人が亡くなったでしょ。あのニュースの時、あの頃の記憶も蘇って本当に悲しかった。ボクにとっちゃあ そういう記憶の場所なんだけどね。

とにかく「世界大会」

ボクたちのバンドは 九段下の「パレスホテル」に泊まって、世界大会への準備、リハーサルをしていたんだ。

loneliness
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