「運」というもの
色々な言い方はできる。
この世には「スポットライトを浴びて活躍する人と、そうじゃない人がいる」
同じように努力して、同じような考え、センスで同じ時期を過ごしても「栄光を掴む人とつかめない人」の違いは出てくるのだ。
それは「タイミング」だったりする
誰かが渋谷の商業ビルの屋上から大量のお金を撒いたりする。例えばの話だよ。
その時、たまたま そのお金が降り注ぐ下を通りかかったら「お金を得られるかもしれない」
もちろん警察に届けるとか、そんな怪しい金は拾わない、という議論は置いといて。シンプルな話で聞いてほしい。
こういう話とか、宝くじに当たると「運がいい」と言ったりもするけれど・・
でも。
ボクは、こういうのは「運がいいとは思わない」
あまりにも他人任せの出来事だからだ。
ボクの考えは、
「運がいい」とは、自分の努力に 他人の力(外部協力や社会情勢など)のタイミングが合った時
だと思う。
自分がやってきたことと、外部の後押しが重なって「成功した時」運がいいな、とボクは思う。
努力もせず、「空からお金が降ってくる」ことを願えば、間違いなく 他人任せのストレスの多い人生になるだろう。
ところが、努力しても「間が悪ければ」運が悪いことになったりもする。
その事例を、今回のストーリーから感じ取って欲しい。
相当キツイ話だけれど、やっぱり「運がいい」ことも「運が悪い」出来事もこの世にはあると思う。
しかし「運の良し悪し」が自分の努力と外部の後押しとのタイミングと出会いだとしたら・・・
1度で栄光をつかめなくても、何度もトライするしかないと思う。傷ついた心を癒して再びトライ!
死ぬまでに チャンスは何度だって訪れる。諦めなければ。
そう、これから起こる出来事に「ショックを受ける」あの時の自分に そのことを教えたい。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-63 掌の中の砂
今回の話は・・・
避けて通りたかった。みんなだって楽しい話を聞きたいだろ?
ボクたちは「ヤマハのコンテストでグランプリを獲った。有名なヤマハの大きなコンテストで優勝だ。だから その勢いに乗って華々しくデビュー。売れて、有名になって スターバンドになったんだよ。ロックンロール・ジーニアス は!」
それでいいじゃん。それが自然な流れだよ、そういう話だろ?
・・・でも、神様が書いたシナリオは 全く別の 複雑な展開だった。
シンプルな成功物語を、先の見えない「長編ドラマ」にしたんだ。
運というもの
始まりは、こうだよ。
銀座のヤマハ東京支部で打ち合わせをしたあと。食事と酒をおごって貰った。
「もうすぐオレは成功する、ヤマハのコンテスト優勝者としてデビューするんだ」
ボクは幸せの絶頂にいた。ヤマハの人たちも本気で期待してくれて。
「外人バンドに勝てる スケールのデカさを持ってるのは、ジーニアスしかいない。日本人では、まだ世界大会の優勝者はないから、是非ともガンバって欲しい」
「そう! 次は、武道館だよ。世界中の国を代表するバンドが出てくるんだ。どう? 自信ある?」
ヤマハのスタッフたちが ボクの顔を覗き込むように言った。
「もう 矢でも鉄砲でも持って来いですよ。次は 世界一を目指せばいいんでしょう?」
そうさ、世界一になってやる。
アマチュアで武道館を踏めるバンドは・・・そうそうはいないだろう。
ヤマハの人たちがついでくれる酒をあおりながら、ボクは 未来の扉が開く音を 確かに聞いた。
さて。
世の中には「運」というもののつかみ方を解説してる本は数多くあるけど、運を手にした時、どうするか?これについては誰も語らない。
しかし、それは とても重要なことなんだよ。 ・・今、確信していることがある。
人は大きなチャンスがくると、なかなか両手を広げてその運を迎えようとはしないものだ。躊躇(ちゅうちょ)して しまう。
「アレー?自分ばっかりがこんないい思いしていいのかな?」
って少し引いてしまうというか・・・・遠慮するんだよ、心にブレーキがかかるんだ。
他の人に悪いなって思ってしまうんだ。幸せを独り占めしちゃうのはよくない。もっと他の人にもおすそわけを・・・・と。
実はこれが落とし穴。
とにかく目の前にラッキーチャンスが来たら、全力で抱きつくんだ。全ての幸運を自分の中に取り入れられるように。遠慮しちゃ駄目なんだよ。
ちょっとでも遠慮すると、運はスルッと、逃げる。
「あ、いらないの?じゃあね」
って。そりゃあサッパリしたもんだぜ。そして、一度逃げた運はどんなに追いかけても二度とつかめない。次にめぐってくるまでは。これ、本当に大事なことだから覚えといて。
幸運が巡ってきたら「自分だけいい思いしてごめん」なんて一切考えるな。抱きついて全部独り占めにすること。遠慮したら、そこで全てが終わる。超有料情報だから、深く胸に刻んどいて。多少、強引でもつかめ! 人へのお裾分けは、成功した後にだってできるんだから。つかめなけりゃ誰も幸せになれない。わかった? これが運を掴む秘訣だ。でもね、
この大事な運を・・ ボクも躊躇した―――
ゆえにこれから起こることは自分の蒔いた種。自分の弱さが引きつけた、マイナスエネルギーのような気がしてならない・・・
昭和が終わる
夕方。
ギターを弾きながら、作曲をしていた。
サビのコードが決まらず アレコレ悩んでいた時に、部屋の電話が鳴ったんだ。
ガチャ!
「もしもし・・・・」
出ると、ヤマハの和田さんの声。心なしか沈んでいる。でも こっちはハッピーな気分だったから、C調に
「そういえば この間頂いたグランプリの賞状、ジーニアスの名前のところがマジックで手書きしてありましたねぇ。もっと筆かなんかで、キレイに書いてあると有り難みも増すんスけど・・・友達に見せたら、“これ、自分で書いたんじゃないの? ほんとうに優勝したのかよ”って疑われちゃいましたよ。ハハハハハ」
「・・・・・・・」
「ハハ・・和田さん?」
乗ってこない。わずかに不安を知らせる勘が働いて、
「・・・どうかしました?」
質問はしたものの、和田さんの返事が聞きたくない。
よくない事態が起こりつつあるのは、受話器の向こうの空気でわかる。
ヤマハの和田さんは、しばし無言だったが やがて ゆっくりと話し始めた。
「陛下が御病気なのは、知ってるだろ?」
「陛下? ・・ああ。最近、マスコミが騒いでますよね」
「ことの外、ご容体が思わしくないらしいんだ」
「・・・・・・・」
そりゃあ、ボクだって日本の象徴が病に伏せってるのは心配だが・・
そのことと、自分たちとのつながりは 何だろう?
抜けたジグゾーパズルをはめこもうとした。
「武道館っていうのは、皇室関係の持ち物だよ」
「あっ!」
ヤマハの和田さんのヒントに、全ての謎が解けた。もうそれ以上は聞きたくない。
でも和田さんは続ける。
「ポツリ、ポツリとね、いろんなイベントが自粛ムードになってきてる。業界の中でも中止になったイベントは多いよ」
「それって まさか・・・武道館での世界大会が中止・・・って意味じゃないですよね?」
「・・・・・・・」
来るはずのない 前向きな答えを待った。長い「間」に ごくりとつばを飲みこむ。
「中止かどうかは・・・・まだ微妙な所だ。そうならないように 全力で努力してみるが、一応・・・覚悟はしておいてくれ」
何分かしゃべった。詳しくは覚えていない。
「ガチャリ」
受話器を置くと、未来の扉が閉まる音がして。
差し込んでいた 希望の光が消え、闇に包まれた。 わずか2ヶ月ほどの輝く日々が終わった・・
★
「お前らみたいに ツイてないバンド、見たことねぇよ。何万分の一の確率で 這い上がって来たのに、何百万分の一の不幸に見舞われ チャンスを失なう。 運がない奴は この世界、難しいかも知れないぞ」
少しトゲがある ヤマハの、若いスタッフの言葉が胸を突き刺す。
「運、ですか・・・・」
時代の変わり目に、ボクは立ち会った。
突然。
そう、あまりにも突然、昭和が終わりを告げようとしている。 新しい時代が始まるらしい。
これ、すごい危険なことだ。
時代が変われば、すべてが変わる。
「時間」というエネルギーの恐ろしさをボクは この時、肌で感じていた。
「時代が合う、合わない」「もう少し早く生まれていたら。あるいは、生まれてくるのが早すぎたね」と言ったりする。
この意味を、ボクはリアルに感じとっていた。
うーん・・あの時をどう表現すればいいのだろう?
今まで感じていた世間からの好意が、変わったんだ。風向きが変わった感覚。
「もう、おまえらの時代じゃないよ」
って、時代に言われてる気分。
実際、周りの反応がみるみる変わっていった。
新しい時代が今までの価値観を吹き飛ばそうとしている。それまで ぴょんぴょん飛び跳ねていた「縦ノリ」お子様バンドが幅を利かせてきた。ボクたちのようなリズムは、時代に合わなくなってきたのがわかる。恐ろしい。
「陛下、どうかご無事で。昭和の時代が末永く続きますように」と、心から願った。
しかし、時代は容赦なく流れ。年が明けて間もなく 皇居・吹上御所で「日本国 天皇陛下」は崩御された。
空気が薄くなり、世の中がが薄暗くなったのを覚えている。1つの時代が、終わったーー
「天皇陛下 崩御により、世界大会中止」
このニュースは、たちまち各国の「バンド エクスプロージョン」関係者にも伝わり、一大ブーイングが巻き起こった。裁判ざたの話まで出たらしい。そりゃそうだ。海外の連中は、日本人にとっての陛下の存在意義や影響力を理解しちゃいない。それよりは自分たちの未来をどうしてくれる、ってことだろう。
激戦を勝ち抜き、すごい思いをして勝ち上がって 日本へやってくるんだ。やっと勝ち抜いて来たのに。日本側の都合だけで、簡単に中止にされてたまるか、という雰囲気。一悶着もふた悶着もあったことは容易に想像がつく。
とはいえーー
悩んだ末にヤマハ側が出した結論は、少し延期して 天皇崩御による 世の中のショックが収まり、イベントをやることに対して風当たりが弱まった頃を見計らって。それでも、あまり公にせずに「ひっそりと」大会をとり行うというものだった。
会場はフジテレビの「夜のヒットスタジオ」が収録されていたという広いスタジオを使って、収録をするらしい。しかし、観客は一切入れない。今のコロナ騒ぎと一緒だね。無観客試合ならぬ、無観客コンテスト。
盛り上がるわきゃあない。特に観客を巻き込んで熱狂させるスタイルのステージが得意なボクたちにとって。不利だよ、完全に!
ボクたちのファンのチケットは既に100枚以上完売していたのに・・
明らかに盛り上がりに欠けた内容。失速したイベント熱。ファンも、ドン引き・・・
だけど、それ以上は望むべくもない。
「よし、頑張ろう。どんな状況になっても グランプリを取ればいいんだ」
お互いを再びふるい起たせる。だけどなんだか流れが、吹いていた風が・・・変わった。
それでも、ヤマハのスタッフは、ジーニアスを主役にしようと考えてくれてて。
コンテスト終了後に、世界中のアマチュアが1つになってビートルズを歌うという企画で。その演奏をジーニアスに依頼した。
「カズ、エンディングでステージの真ん中に立って 皆をリードしていってくれ」
ヤマハの和田さんに肩を叩かれ任されたんだ。
構想では、ボクたちがグランプリを取って、世界中のミュージシャンと「ゲットバック」を歌う。
音楽という「言葉」で、世界は1つになり でかいトロフィーを抱えて喜ぶボクの顔がアップになり―――――
というのを表現したかったんだと思うよ。多分。
でも この時、風向きが変わって ロックンロール・ジーニアスの強烈な輝きに 陰(かげ)りが見えたことにはヤマハのスタッフも まだ気づかなかったんだ。
ボクにはわかるんだよ。強烈な警告音が心の中で鳴っている。ヤバイ、頂点から転落していく自分が見えるんだ。
手のひらから こぼれていく砂―――
どんなに強く握りしめても いや、強く握りしめればしめるほど こぼれていくんだな、砂が・・未来が。
九段下に「パレスホテル」というのがあって。 出場者は、全員そこと、すぐ近くのかなり古びた日本建築のホテル「九段会館」に分かれてチェックインした。
「九段会館」は、その後 3.11 の大地震の時、天井が崩れて落下したよね。崩落した瓦礫の下敷きになって、確か人が亡くなったでしょ。あのニュースの時、あの頃の記憶も蘇って本当に悲しかった。ボクにとっちゃあ そういう記憶の場所なんだけどね。
とにかく「世界大会」
ボクたちのバンドは 九段下の「パレスホテル」に泊まって、世界大会への準備、リハーサルをしていたんだ。
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