SONG-64【焦りは事故と不幸を呼び寄せる】ブロークン・ギターボーイ

Broken Guitar Boy SONG-64main-visual-Broken-Guitar-Boy タイトル 「SONG-64 ブロークン・ギターボーイ」 ギターを叩きつけて壊そうとしている青年の画像。
「流れ」という法則

この世には「流れ」がある。

良い流れに乗ると どんどん状況はよくなり、悪い流れに巻き込まれると深刻な事態に陥ったりする。

ボクは釣りが好きだから この「流れ」が釣果を左右することを知っている。

「時合(じあい)」という魚が釣れるタイミング、釣れないタイミングがある。

夜明け前後や日没前なども釣れやすいが、それとは別に「潮(しお)の流れ」というものがある。

海の中には「川が流れている」という表現が近いだろうか。

まさに川の流れのように 時にはゴウゴウと激しく、またある時はサラサラと静かに。海の中を、川のように 潮(しお)が流れている。

今まで右に流れていたと思ったら、突然反対方向に向きを変えたり。あるいはピタリ、と流れを止めたり。

こういう潮の流れが海の中で起こっていて、この変化で今まで全く釣れなかったのに、突然潮が流れ出し爆釣するというのはよくあることだ。

つまり、潮の流れによって魚が「餌を食べたくなったり」「食欲がなくなったり」する。

the flow of the tide

日本地図の周りにたくさんの潮の流れが書いてある
日本の周りには、たくさんの潮が流れている。この潮が、プランクトンを育て小さな魚も大きな魚も育てている。

同じことは、我々の日々の暮らしの中でも起こる。海の中の「潮の流れ」のような「流れ」があるのだ。例えば、

良いことも悪いことも 続きやすい という「流れ」

嫌な出来事が連続して起こる。「あー、今日はツイてない日だ」と思ったり。

ラッキーなことが続いて「絶好調」と思ったこともあるだろう。

これも、流れだ。海の中を流れる「潮」と同じように、日々の出来事を左右する「人の世の流れ」である。これをうまく乗りこなすと、物事がうまくいく。

反対に、悪い流れに流されると どんどん状況は悪くなっていく。追い詰められる。

attacked by a bear

状況が悪化すると「焦り」が生まれる。焦りは事故と不幸を呼び寄せる。普段ならやりもしないようなミスをする。

この 不幸の連鎖 が怖いのだ。始まりは小さな出来事。でも、それはやがて大きな不幸へと発展していく。こういう不幸の連鎖によって、ニッチもさっちも行かなくなっている人も、多いんじゃないか?

悪い流れに乗ってると感じたら、まずは落ち着くことだ。深呼吸して、その流れを俯瞰して見つめる。慌てない。そして悪い流れを断ち切る。遠回りでも、ちょっとぐらい足踏みして時間がかかっても、「深みにハマるより よっぽどマシだ」

今回のボクらの「やらかした STORY」から、どうすれば失敗を避けられたか。もっといい方法があったんじゃないか?

を、一緒に考えて読んでみて欲しい。落ち着け、ジーニアス!


具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。

ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜

ボクについては プロフィールを見てね

the guitar was destroyed
目次

SONG-64 ブロークン・ギターボーイ

九段下に「パレスホテル」というのがあって。

ヤマハのコンテストを勝ち抜いて来た世界中のアマチュア・バンドのトップの連中、つまり「世界大会」の出場者は、全員そこと、すぐ近くのかなり古びた日本建築のホテル「九段会館」に分かれてチェックインした。

「九段会館」は、その後 3.11 の大地震の時、天井が崩れて落下した。1989年の「世界大会」当時にも、崩れそうな古い建物だったが、古いだけじゃない、どことなく威厳があるホテルだったのだ。

A piano fell from the ceiling

ヤマハのスタッフからは、どっちに泊まってもいいよ、と言われていた。

「え?オレ、高円寺に住んでるけど ホテル泊まっていいんですか?」

「ああ・・別に自宅から来たけりゃそれでもいいけど。ただな、リハーサルも本番のコンテストも、会場まで専用バスで送り迎えするから・・ホテルにいた方が便利だと思うよ」

「あー、それならメンバー全員、ホテル泊まります」

宿泊費を出すのはヤマハだから、「九段会館」に泊るのも面白そうだったけど、結局 ボク達は「九段会館」のすぐそばの、近代的な「パレスホテル」を選んだ。

「カッコいい。憧れてたんだよ。こういう暮らし。ライブツアーに来てるみたい。ホテルに泊まって、ライブのことだけ考えて集中する。」

マコト・クレイジーが、ホテルの部屋に入って荷物を解きながら言った。

「カズさん、マコトさんが言うように、外タレが武道館にコンサートに来てるみたいっスね。」

ブランデーグラスにウイスキーを入れ、その気になって気取ってるボクに、ジーニアスのスタッフが言った。

「フフ。記者諸君、インタビューは手短かに。もうすぐリハに行かなきゃなんないんで」

芝居がかった言い方で演じると、ジーニアス・スタッフ は

「おー、なんか それっぽい」

と感動した。

窓からのぞくと、東京の空が見える。どこから見上げても、灰色だ。

The sky in Tokyo is gray

今日サウンドチェックをして、明日が本番。移動は全てミュージシャン専用の大型観光バスで行なわれ、宿泊代以外にも食事券というのがヤマハから支給されていた。金額にすると かなりの額になる「食事券」金券だ。

その金券を ボクが照明にかざしながら、

「すげぇ! ステーキでも食えるな。それともスシにでもするか? おい記者諸君、今日はオレの奢りで」

とボクが言うと、マコト・クレイジーは

「ちがう、違う。ヤマハの奢りだ。ハッハハハ・・・」

と爆笑した。

豪華な食事を取り、フジTVに向かう。

コンテスト会場では大勢のスタッフが働いていた。

「あっ、スイマセン。右のギター、返り悪いんですけど・・・・ チェック、 アー アー」

メンバー1人1人に ヤマハ専属の音響スタッフがついて、インカムで細かいチェックを伝えながら動き回っている。もはやプロの扱いをされてるんだ。ボクたち。

Music Staff

リハーサルは進行していく。

「マコト。もう少し音下げないと、バランス取れないよ」

相変わらずの マコト・クレイジーの爆音を注意すると、彼は 渋々 ボリュームをしぼった。ところが、今度は

「ピー」というハウリングのような雑音が止まらない。原因不明の雑音。

マーシャルは突然 不機嫌になることがある。いいアンプなんだけど、気まぐれなんだ。人間みたいにね。

いろいろやってみるんだけど、直らなくて。そのうち、ヤマハのスタッフが焦り出してきた。

「スミマセン。次のバンドもいるんで・・・・こっちで原因調べときますから、とりあえず今日はこれで・・・・いいですか?」

ヤマハ音響スタッフの言葉に驚いて、ボクは動揺した。

え? いいですかって・・・こんな中途半端なチェックで終わるの? まじ? 怖いんですけど。サウンドチェックでトラぶっただけで、1音も出してない。ボクたちリハ、やらせてもらえないのかよ・・・

マコト・クレイジーを見た。

「俺のせいじゃないから。カズ、そんな目で見ないでよ」

マコト・クレイジーが迷惑そうな顔をした。

「あ、いや。そういう積もりじゃないんだけど」

こういう時、ボク がメンバーを怒ったりするから、マコト・クレイジーとも 気まずい関係になっていたのかな。だとしたら、もう少し大らかに、人に優しくならなきゃだな。それにしても・・・原因不明の雑音なんて。

不安を残しながら、大したサウンドチェックもせず、アンプの修理でリハーサルは終わってしまったんだ。

「何か歯車が噛み合わない」

本能が知らせる不安を打ち消すように、酒を飲んで寝る。

Feeling anxious, drinking alcohol and going to bed

当日、原因不明のハウリングは直っていたけど、理由はついに発見できなかったらしい。突然直ってたんだって・・・・余計に不安だ。

司会は、ナントカっていう あの頃 よくテレビに出ていた ハーフのタレント。「女を口説くのが得意で、常に彼女が2〜3人いる」みたいなチャラいキャラが売りの男だった。

なんと あの海辺のーー「ヤラセ」のコンテストでも司会をしていたんだ。バイリンガルで、英語ペラペラってのが売りらしいけど、世界中から集まったミュージシャンを前にしたら

「最初に言っておきますが、ぼくの英語はかなりいいかげんなもので・・」

なんて、ハーフのタレント司会者は 妙に言い訳して、おどおどしてたなあ・・

コメントの打ち合わせがあって、彼のところに行った。

「どうも、覚えてますか?」

って ボクが言うと、

「オーウ。ジーニアスでしょう? 又、会いましたネ」

いろいろ打ち合わせをして、最後に

「でも、あのコンテスト・・・・ヤラセでしょう?」

疑問を口にした。そうしたら 彼、すごくおどけて

「ワッカーリマーシターア?」

って大声を出して、照れ笑いをした。
笑ってるんだけど、目は笑ってない。攻撃的なの。「これ以上 何も言わせねぇぞ」って身構えてる感じ。ま、そういう世界なんでしょ。芸能界・・・

stupid laugh

そんな 1989年の春、

世の中の悲しみが まだおさまりきらない頃、「世界大会」が開かれた。

でも、世間的には まったく注目されないイベントに成り下がっていたんだ。

いよいよ本番ーー

出番の前、フト悪い予感がした。

「マコト、今日はあまり派手なアクションにこだわらず、とに角 音を合わせて自然なグルーブを作りだそうぜ。音に集中して、ガツンと行こう! な 」

と言うと、マコト・クレイジーは

「OK。わかった」

と右手を挙げてステージに出て行った。

Back-Stage

そうして演奏がはじまったんだけど・・

「あれ? どうしたんだよ、みんな」

浮き足立ってる。
一人一人が、前へ前へ。やっつけ仕事みたいに、とにかく この場をしのいで 早く終わらせようと焦ってるみたいなんだ。悪い時のジーニアスが出た!

こういう所がアマチュアなんだ。いい時と悪い時のムラがありすぎる。

楽しんでない。
演奏を楽しむはずが、嫌な仕事をさっさと切り上げるような 雑なプレイ。
ボクたちの前に行なわれた各国のミュージシャンの演奏のレベルが高いことをみんな感じているんだろうか?

本当にうまいんだよ、世界のトップレベルの アマチュア・ミュージシャン達は。本物のすごい連中、大集合! もちろんボク達だってスゴイけど、今はズッコケちゃってるね。

凄いプレッシャーが皆のプレイを乱している。

「そういえば この所、メンバーと満足に話し合っていなかったな」

サウンドが、お互いのノリが つかみきれない。

「グッド ジョブ!」

外人のプレイヤーに声をかけられたけど、お世辞にしか聞こえない。

そのとき。

「ギャーン!」

凄い音がして、ギターのネックが折れ、ボディが転がった。

image of something destroyed

曲のエンディングで、マコトがギターを天井に向かって放り投げたんだ。

スコーピオンズのルドルフ シェンカーを真似たんだと思うよ。
「一発派手に決めて、ヒーローになろう」としたんじゃない? 高く真上に放り投げた。
キャッチするつもりが、落として。

エンディングだから。音的な問題はないんだけど ギターが派手に破壊されて飛び散った・・・・その折れたネックをマコトは誇らし気に振り上げたから・・・・

ヤマハのスタッフが、血相を変えて集団でどこかへ走っていく。楽屋に戻る途中、オレたちを送り出した渋谷店のスタッフがやってきて、

「マズイ、まずいよ アレ。今、上の方で大問題になってるよ」

「やっぱり・・・・」

proudly holding up the broken guitar

せっかくモニターに貰ったヤマハのロゴが入ったギターを叩きつけて、粉々にしてしまった。

故意でないとしても、「うわぁ。ある意味で宣伝になったね」なんて、好意的にとってくれるスタッフがいるだろうか?

いないだろうな。
この時は、まだ気づいてないけど・・ボクは、この後 死ぬほどヤマハから嫌われることになるんだ。バンドの責任者、リーダーだからね。

ヤマハの社長とかも見に来てたみたいで、すごく怒ってるらしい。あとでTV放映を見たら、その破壊シーンは全てカットされていた。見事なまでに・・

「ブロークン ギターボーイ!」 

「パンク」

他の国のバンドマンたちから はやし立てられ、マコトはいい気分になっていたけど、

「こいつ、本当にクレイジーだ」

と思って。ボクの気持ちは混乱し、迷走し、最終的に 寂しさに辿り着いた。

マコト・クレイジーの名誉のために言えば、あの「ノリが悪くなったボクらの演奏を、なんとかして挽回しようともがいた結果」だとも言える。

誰も悪くない。必死だったんだ、みんな。ただ・・

「焦りは事故と不幸を呼び寄せる」

The man who threw his guitar high into the air

そして、授賞式。

各バンドが名前を呼ばれ、賞を授与されていく。
日本からは、北海道の代表バンドが 特別賞かなんかを与えられた。

四位、三位、二位、期待を込めたグランプリも・・・・

ついにボクたちの名がコールされることは無かった。

Disqualified from the contest

当たり前と言えば当たり前だ。
パッパラー河合がTVでボクたちのことをコメントしていて、

「ああいうバンドは、入賞させません。面白いけどね・・・・ダメです」

きっぱりと言われた。

マコトのせいばかりじゃない。世界の実力は 凄いよ。もうレコード会社が決まった連中ばかりで。専属のマネージャーを引きつれて、やってきていた。
大人と子供ぐらいのクオリティーの差がある。外タレのレコードの音が、そのまんまプレイに出てる。

よく知らないけど、あの時のバンドマンの中には、デビューして 世界的に有名になった奴もいるんだってね。

ボクたちは、何も得られず。ヤマハの怒りを買っただけの イベントが終わった。

Band members who made adults angry
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