企業の宣伝の下に位置付けされた音楽
今にして思えば、あの頃の音楽は「企業のイメージアップ」や「商品の宣伝」ドラマや映画の「盛り上げ役」として存在していた。
音楽の独立性は取り上げられ、脇役的存在
テレビを頂点とするマスコミの奴隷に近かった。
人の心を動かして、幸せにしたり疑問を投げかけたり「音楽の刺激から何かが生まれる」という時代から、音楽がエンターテインメントの「要素に過ぎない」格下げされた時代があの頃だった。あえて ボクはそういう言い方をしたい。
それは決して「誇張」した言い方ではなく事実だ。
アイドルとロックの垣根が曖昧になり、「本物のミュージシャンが偽物のフロントマンをバックでサポート」するようになり、権力に牙をむいていたアーティストたちが、こぞって金やテレビ出演のために尻尾を振り、屈服し、土下座をしていた時代。
本物の音楽リスナーたちは その異変に気づき
急速に音楽離れが進み、音楽番組が激減した。ほとんど無くなった。
その代わりとして台頭してきたのがお笑い番組
本当はお笑いだって「権力やマスコミに支配されていたが」表現方法が「強いものを揶揄する笑い」だったから、一見 ロックが失ったものを持っている と勘違いされ、一気に国民の関心はそっちに移っていった。以来お笑いブームが長期間続いていくことになった。
音楽番組は消え、いやーー
「音楽番組」という名のお笑い番組がどんどん作られ
本当の 音楽番組は ほとんど消えた。芸人にミュージシャンが叩かれ笑いが起こった。ボクはテレビを消した。もう見なくなった。
こんな時代に、音楽で成功したいと願ったボクは 馬鹿 としか言いようがない。
本当に悲しいことだけれど、時代が求めていたのは音楽ではなく お笑いだった。
その中で、ヒットした名曲もあるけれど。音楽にまだ情熱を捧げた業界人が少しはいたけれど・・
それはレア・ケース。こんな時代に名曲を送り出したアーティストや関係スタッフには心から拍手を送りたいが、そんなものは少なかった。ほとんどの音楽は「タイアップ」という企業宣伝がつかなければ世にでることが出来なかった。
そのことは、当時 内部にいて苦しんだボクが告発できる。
あの時代、何が行われていたかをこれから話そう。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-75 怪しいタイアップ
ここは詐欺事務所?
ジミーさんには定期的に会いに行くようになっていた。
芝公園にあった事務所は、その後すぐに六本木に移転して。テレ朝通りを少し入ったあたりのビルをまるごと借りるという羽振りの良さでも、仕事の順調さがうかがえる。
ボクたちは、さすがに坊主にはならなかったけど、全員 当時としてはど派手な金髪や茶髪にし、道を歩いても振り向かれるようになった。
「兄き、デビュー決まったから。安心して」
突然弟が言い出したんだ。
「え? どういうこと? レコード会社、決まったの?」
「いやいや、レコード会社はまだなんだけどね、それより凄いこと。タイアップが決まったんだよ」
「・・・・・!?」
「あー、やっぱり知らないんだァ。少し勉強した方がいいよ。今じゃ タイアップがないと、デビュー出来ないんだ。だから 中島氏がね、兄キたちのタイアップを見つけて来てくれたんだ。ニュース番組の エンディング テーマ」
最近、やたらと「タイアップ」という言葉が使われるようになった。「この曲は、有名ドラマの主題歌として人気が出た」「あの車メーカーのCM曲、売れてるねー」「このアルバム曲、全部 メーカーのタイアップがついてるじゃん。だったら大ヒットするね」
曲の良し悪しじゃない。楽曲の素晴らしさじゃない。そんなことよりも大きなスポンサーがつくことが売れるための条件。タイアップをつけられるか、つけられないか。ヒットの条件が営業力、政治力になってきた。
テレビと電通、音楽業界がタッグを組んで「ヒット曲を作り出す」
「ブームは俺たちが作るんだ」
マスコミ業界に就職した知り合いがふんぞり返ってそう言った。もう「音楽を創る側」じゃなくて「売る側」中間業者が偉くなっていた。ブームの仕掛け人に多くの国民が踊らされるから、現場でモノを創る人間が奴隷のように扱われた。そういう時代だよ。「タイアップ至上主義社会」って。
「中島氏がね、兄キたちのタイアップを見つけて来てくれたんだ。ニュース番組の エンディング テーマ」
「それって・・・エンディング テーマにオレたちの曲が掛かるってこと?」
「そうだよ。ワンクールだから、3ヵ月間 兄キたちの曲がニュースの終わりに流れる。そういう契約」
「契約?」
「うん、もう中島社長とサインを交わして、金も払ってきちゃった」
「金って・・・・金がかかるの? タイアップに」
びっくりした。
「当たり前じゃん」
「いくら? いくら払ったんだよ」
「いいから。いいから」
「良くないよ。いくら払ったわけ?」
再度問いつめると、弟は重い口を開いた。
「350万だよ」
「!」
「TVのニュース番組のエンディング テーマが350万? ヤバイよ、それ」
うさん臭い話になってきた。どう考えてもおかしい。中島社長、怪しいヤツに決定だ!!
ここは詐欺事務所なんじゃないのか?
弟も弟だ。いくら自由になる金が多いからって・・簡単に大金を出しすぎだよ。まいったな。
いくら当時、そういう風潮があったとはいえ。軽佻浮薄で権力者の思い通りに操られる人が多い時代とはいえ・・
悲しかった。ボクたちの音楽をなんて軽く見ているんだろう。楽曲そのものの パワーを無視した、商売人のやり口。何でもかんでもタイアップ。しかも、そのタイアップ 怪しすぎる! 中島社長に、金ズルにみられてんじゃないの?
だからボクはイラついて弟に叫んだんだ。
「待て待て待て待て。いくら何でもそんな話、なんで信じるかなぁ。いいか、オレは耕次よりもこの音楽業界のこと知ってるぜ。でも、そんな話 聞いたこと・・」
「とにかく! もう払っちゃったし、僕に任せて」
断定的に弟が話を切ったので、それ以上 ボクは何も言えない。
この舟はどこへ進むのか? 海を知らない弟が船長である限り、航海は多難であることは まちがいなさそうだ。
★
魑魅魍魎-ちみもうりょう
実際、そこはヤバいプロダクションだった。
いい加減さや、ウソがまかり通る世界だ。
「じゃあ、木曜日の13時に事務所でお逢いしましょう」
ゆで卵の中島に言われて。メンバー全員、わざわざバイトを休んで出掛けていくと、約束の時間に本人はいない。
三時間も四時間もただ待つだけ。昼の一時頃から待って、来るのは夜の十時過ぎだよ。メンバー もう待ちくたびれちゃって、灰みたいになってる。
「いやー、すみません。テレビ局のディレクターと打ち合わせやらなんやら。遅くなっちゃって」
中島社長は悪びれもせず、赤い顔して酒臭い息を吐きながら言った。
そんなことが一回や二回じゃないんだ。
頭に来てね。
「こんなプロダクション、やめてやる!」
と言ってたら、あるプロミュージシャンに引き止められた。
「今はガマンするしかないよ。デビューして、売れて見返してやればいい。売れれば、立場は逆転する からね。今は・・・・まだ君たち 金にもなってないし、プロになる前の踏み絵だと思って、耐えてみろよ」
ヒデマルさん、っていうミュージシャンだった。
いいかげんな業界人に振り回されて、悩んだりへこんだりしていたボクらのグチをよく聞いてくれた。
当時練習していたスタジオが水道橋にあって。ヒデマルさんはそこのオーナーだったの。
キレイな使いやすいスタジオだったな。
この人はスタジオ経営のほかにプロのドラマーでもあった。
後で知ったんだけど———
なんとボクたちがグランプリをとった中野サンプラザの大会にゲストとして出演していたみたいよ。審査員が協議をしてる間、LIVEで盛り上げてくれていたメジャーバンドのドラマーがヒデマルさんだったんだって。
ボクたちは写真撮影とかがあったから、ヒデマルさんたちのライブはみてないんだけど。
ほら、前に「JAPS」ってバンドをやってた時、モンチっていうパワフルな女ドラマーがメンバーだったじゃない?
詳しくは こちら ヒデマルさんはモンチのドラムをすごく認めていたから。彼女を通じて知り合いになったんだ、ヒデマルさんと。
マチエちゃんっていうボーカリストがスタジオの受付けのアルバイトをやってた。このマチエちゃんはドラマーのモンチと知り合いだったの。ボクがモンチと「JAPS」を結成するより前、モンチとマチエちゃんは一緒にレディースバンドをやってた。
そういう繋がりが ぐるぐるまわってる。
この世界って狭いなぁ、そういう話けっこうあるよ。 深く話してみるとどこかでつながってる、っ ていうのはね。
余談だけど、ヒデマルさんに頼まれてデモテープづくりを手伝ったことがある。英語の歌を歌った。この時、マチエちゃんがコーラスを入れたんだよ。・・ブッとんだ!! 凄ぇウマいの。
ピッチが正確だし、レンスが広いから聴いてて気持ちいい。プロのコーラスだぜ。
音大かなんか出て声楽をかじってるようなことを言ってたからね、迫力あるよ。ヒデマルさんも
「うめぇなぁ・・」
なんてうなってる。ボクの歌はそっちのけで・・ハハハ
こういう、ね。自分の自信を根こそぎ引っこ抜いてくれるような・・後ろからガーンと殴られるような衝撃を与えてくれる才能に出逢うと嬉しくなる。多分、そういうショックに出会いたくてボク、生きてるんだ。 そして、そういう感動は必ずボクを成長させてくれるからね。丁寧に、きちんと歌うことの大事さ。この時知りました。
おっと、ちょっと話がそれちゃったね。元に戻そう。
「今はガマンするしかないよ。売れて立場が逆転するまで・・ガマンしてプロになった方がいいよ」
ヒデマルさんに、そう言われて。踏みとどまった。
でもねぇ・・
ジミーさんの所へ行く時にも、待ち合わせ場所にマネージャーが遅れてくる。
マネージャーだよ。普通アーティストの管理をする役目じゃない?
「お前らなァ、そんな根性じゃ この世界で成功なんかしないぞ。俺を待たせるとは、いい度胸してるじゃないか」
ジミーさんにえらく怒られてね。
「スミマセン」
「スミマセン」
「スミマセン」
メンバー全員で 頭を下げてんのに、肝心のマネージャーはシラッとしてんの。
次の時も。またマネージャーが遅刻した。あれほど言われたのに。
そういう奴らなんだよ。弱小のいいかげんなプロダクション。
「今度遅刻したら、ジミーさんに何言われるかわかんないよ。先行こう」
ボクたちだけで、時間通り ジミーさんの事務所を訪ねたんだ。
ビデオを見たりして、いろいろ打ち合わせをしているところへ、マネージャーがやって来た。鼻白んだ表情で、ぶすっとしてんの。ドスン、と雑に椅子に腰掛けて貧乏ゆすりしてる。
やがてジミーさんの電話が鳴った。
「はい。おう、・・・・・うん。何? ・・・・・やってねぇよ・・・・うん。わかった・・・・・ わかったって言ってんだろう? ・・・・・・うん。 うん。そうするよ・・・・・じゃあな」
電話を切ったジミーさんは、ゆっくりとマネージャーを見た。
瞳の底には、かすかな怒りが浮かんでいる。
「お前んとこの・・・・中島からの電話だ。カズたちを勝手に連れ出して会うなってさ」
すでに電話で打ち合わせてでも来たのだろう。マネージャーは すかさず切り返した。
「飛び越えは、ルール違反ですよ。彼らと会う時は必ず、うちの事務所 通してください」
「別に・・・・・連中が勝手に来たんだろうが。俺が指示したわけじゃねぇぞ」
「そうです。オレ達が遅刻しないようにって、先に来ただけですよ」
ボクの言葉にマネージャーは、
「でも、うちの紹介でジミーさんに会わせた訳だし・・・・・」
と言った。
「わかった わかった。そんなに言うんなら、もう連れて帰ってくれ」
苦々しい顔で マネージャーに吐きすて、ジミー木場 さんは立ち上がった。
それから、おろおろしているボク達に向かって、
「お前らも・・・・・折角来たけど、今日の所は帰れ。帰って 中島と話し合って、今度は事務所 通して来いよ。俺も好意でやってることが、イヤなとられかたしちゃ 迷惑なんでな」
「あ、はい。あの・・・・・・・申し訳ありませんでした。こんな事になっちゃって」
ボクは、ジミーさんに 頭を下げた。
何もしない事務所ではあったけど、自己主張というか 自分の権利はハッキリさせる所だけ、 業界っぽいな。
それから中島と話して。作品を作り上げるまでは、ボク達とジミーさんだけでも 会っていいてこと になった。結局 あいつら、アーティストの作品作りには 興味なんかないんだ。あるのは、作り上がった作品に対する 自分達の取り分のことだけでね。
だから もう無視した。連中は関係ない。ジミーさんと作品を形にすることだけを考えよう。
まず、100曲近くある オリジナルの中から、使えそうな物をピックアップする。
「こりゃ駄目だ・・・・・これは残し・・・・・・こんなの使えない・・・・お、これはいいじゃないか」
ゴミ箱行きと 手を掛ける曲の選別が終わった時、あ然とした。
せっかく ファンクン・ロールをきわめようとしていたのに、ジミーさんのチョイスした曲は、どれも昔のポップな歌謡ロックばかり・・・
コレが 業界のやり方かよ。
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