激しく「運命の波」が押し寄せる時がある
細い細い道。それも高層ビルの上にかかっているような道の上で。
強い風に吹き飛ばされそうになりながら、必死でバランスをとるけれど。
弥次郎兵衛のように右に揺れたり、左に揺れたり。
天国に落ち着くのか、地獄に堕ちるのか?
人は、そういう「未来が決まる運命に振り回される時がある」
ここを しっかり踏ん張って 夢を手に入れたいものだが、さてさて どうなることやら・・・というのが今回のストーリー
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-79 ついに決まった!レコード会社
鉛のように重い気持ちを引きずって、再びジミーさんのオフィスを訪れたのは翌日だっただろうか?
当然のことながらジミーさんは納得せず、突然の ボク達の心変わりに驚いた。当たり前だ。中島 社長と手を切るために出かけた ボクたちは、予想と正反対の親書を携え「かの地」より戻った。ジミーさんにしてみりゃ面食らうほどの晴天のヘキレキ。まさに ミイラ取りがミイラになった姿を見るように まじまじと ボクの顔を見ては首を傾げた。
理由をたずねられても、本当のことは言えない。
ただ、頭を下げるだけ。 ずーっと説得され続けた。ジミーさんの次の仕事の時間が迫ってきても
「いいから、車に乗れ。現場に着くまで中で話そう」
と、ジミー木場 さんに促され、高そうな外車に乗った。
TV局だったか、レコーディングスタジオかは忘れたけど そこに着くまでの間ず――っと話してね。
「やっとお前らを売り込もうって時に クソッ、何でこんな話してんだっ。大事な時なんだぞ、今が」
ジミー木場さんは、得体の知れない敵に向かって怒りをぶつけた。
家にも電話が掛かってくるようになった。
「目をさませ、カズ。中島 に何て言われたのか知らないけど、俺とやった方が成功するに決まってるだろ?」
迷惑とは思わない。そこまで追いかけてくれる ジミーさんに感謝した。真木さんは 勝ち誇ったような顔をして、
「電話番号、変えちゃえよ」
と言った。
そういう指示・・・・・従うしかない。でも、電話番号を変える前に長いファックスを送った。
ジミーさん宛ての、長い 長い文面のファックス。胸が痛んだ。
「今までお世話になりました。深く深く、感謝しています。これが最後の連絡になります・・・」
そして、ジミーさんと 完全に切れたんだ。
ところがさ、とんでもない話・・・
ニ、三日して真木さんがやってきた。
「おい。君たちヤバいよ」
「ハ?」
真木さんの言葉の裏を読もうとしていると、
「今日、ドルビー レコード に行って来たんだ。君たちのことを頼みにさ。そうしたら、ジミーの方からビデオが回ってるって言うじゃないか。ドルビーの制作スタッフ、全員 君らのこと知ってたぜ。突然、君らがジミーを裏切ったことも・・・」
ドルビー レコード、というのは勿論 仮名。日本の、誰でも知ってる超大手レコード会社だ。
「・・・で?」
だからどうしたと言うんだ。ジミーさんとビデオを作った話もしたし、ジミーさんが業界の人たちにジーニアスを紹介していることも伝えた。ジミーさんと別れれば こういう事態になることは簡単に予想できるだろ?
全て了承済みの話じゃないか。全てを知った上で、俺に任せろと言っただろ? 真木さん、あんたがジミーさんと手を切れ、って言ったんだよ! なのに・・今さら 驚く方がおかしい。焦った顔の真木 さんは早口で、
「連中は ジミーの顔を立てて、ジーニアスとは契約しないそうだ。あの様子じゃ、いろんな所に回ってるだろうから、どこのレコード会社回っても 同じだ。君たち ホサれるよ。この業界から」
でた! いつもの「業界 大どんでん返し」約束破りを平然とする。
「そんな・・・もうジミーさんとは、手を切っちゃったんですよ。真木さんがレコード会社を決めてくれなければ、オレたち行く所がなくなっちゃうじゃないですか」
ボクの猛烈な抗議も他人事のように、真木さんは
「いやあ 困ったな。そういう話だと、こっちも動きようが無い」
「無責任じゃないですか? 真木さん! ジミーさんと手を切れば、他のレコード会社を決めてくる、って約束したのに」
「いやいや・・とに角、俺はこの件からは手を引くよ。これ以上は俺の手に余る」
嘘つき。こういう「本物の嘘つき」初めて見た。小説や漫画に出てくる悪いヤツ。現実にいるんだな。
そそくさと逃げに回りはじめた男の姿が目の前にある。
心のどこかで最悪の結末も予測していたとはいえ、真木さんのあまりの変わり身の早さに呆れてしまった。まるで コントを見ているようで、不覚にも笑いがこみ上げてくる。
この世界は 何が飛び出すか解らない。
ウソもごまかしも日常茶飯事だ。タフじゃなければ、生き残れないだろう。
真木さんたちのやり方を 傍目で見ていたケーシーさんの行動は早かった。
「カズ、安心シナサイ。アノ ビデオ、今 ボクガ 付キアッテイル レコード会社ノ 社長に ミセタカラネ。面白イッテ 言ッテクレタ。明日 コージィト イッショニ 会イニ行ッテクルヨ」
ボクの弟の耕次とケーシーさんが、「B・ミュージック(仮名)」という会社を訪れて。具体的にボク達をプレゼンした。
一週間後に結論をくれるってことで、その運命の日に ボクたちは広尾にある耕次のオフィスで返事を待ったんだ。
「もうすぐ電話がかかってくる頃だから。ソファに腰掛けて、コーヒーでも飲んで待ってて」
弟の 耕次は仕事の電話を左耳にあて、メモを取りながらボクたちに座るように手で促した。
くつろいでくれって言われても、メンバー全員は デスクの上の電話を見つめるだけで。
プルルル・・・
約束の時間を少し過ぎた頃、驚ろかすように コールの音が響いた。
既に別の電話を終えていた弟がゆっくりと受話器を上げ、話しはじめる。
「ええ・・・ええ。ハイ。 ・・・ わかりました・・・・・・ ハイ。それでは」
意地悪なぐらいに無表情な弟の応対からは、結果を予測する事は不可能だ。
電話を切った後も、彼は さらに長い間を持って じらしている。
ボク達はおあずけをくらった 犬だ。
「とりあえず・・・・シングルのCDを一枚 発売してみようって 言ってくれたよ」
「ヤッタ――――――!」
その部屋にいた人間たちの喜びが爆発した。弟が、ケーシーさんから聞いた「業界の裏事情」を説明し始めた。
「B・ミュージック。この会社は、ちょっと特殊だから、ジミーさんの手が及んでいないみたいだね」
「B・ミュージックって、あの Bとか、C とかがいる会社でしょう?」
レイ・ギャングの声は、興奮して大きくなっている。
「Z とか O もいる」
トミノスケの声も弾んでいた。
ヤスコ・クイーンも、音量のコントロールが壊れた声で叫んだ。
「すごい! 皆 超有名じゃん、そういう大きな所なら安心だ。もう 中島 社長の所みたいに、いいかげんなことはしないよね!」
「いや・・それがさ。B・ミュージックの社長もさ、 中島 社長っていうんだよ」
「え?!」
弟の言葉に、皆が声を失った。
皆で幸せのブラックコーヒーを飲んでいる時に、「不安のミルク」を流し込んだようなものだ。一気に笑いが消えた。
なんという偶然か。いかがわしい事務所の 中島 社長と、これからお世話になる 超ビッグ音楽メーカーの社長が 同じ名前なんて・・・
「・・・・・・」
「・・・でもさ、同じ 中島 でも、モノが違うよ、モノが。B・ミュージックの社長は、 中島 じゃなくて VIP- 中島 さんって呼ぼう」
押し黙るみんなをレイ・ギャングが鼓舞すると、トミノスケも
「そうだね、VIP-中島さんだ VIP-中島 社長 さん」
強引にでも いい方向へ持って行こうとする皆の思いを、ヤスコ・クイーン が間抜けに打ち砕いた。
「姓名学でいうとどうなの? 中島 って いい加減な人が多いなんてことはないよね?」
ボートに水が入って沈みそうなのを、必死で皆が掻き出してる時に。ヤスコ・クイーン だけは呑気に船底に開いた穴に指を入れて広げようとしている。これは大いに 皆の顰蹙(ひんしゅく)をかった。
「何言ってんの。中島って名字の人がいい加減な人ばかりなんてこと言ったら、日本中の 中島 さんを敵に回すことになるよ」
怒るように誰かが叫んだ。ボクも、皆の不安を少しでも解消しようとして
「オレ、中学の時に好きだった子が 中島って言うんだ。電気屋の娘。あの子、いい子だったもん、可愛かったし」
強引な思い出話をぶちこんだものの。弟が、
「そういうことじゃなくてさ・・・」
と哀れな目をして言った。
翌週、六本木の B・ミュージック を訪ねた。
六本木のロアビルの並び。
大きな B・ミュージック のビルの会議室に、関係者が揃った。
ケーシーさん、弟の耕次、ボク達、B・ミュージックの VIP-中島 社長。
もう「あのいかがわしい事務所の 中島」たちは、関係ない。真木さんが B・ミュージックと何か問題を起こしてるみたいで、 あっちの事務所とは一切 手を切る、というのが B・ミュージック サイドの条件になったからね。
ボクとしては望む所って感じ。
「ただ・・・・もうタイアップは取っちゃったんで、そっちの方は生かしたいんですけどね」
弟が言うと、VIP-中島 社長は
「タイアップなんか、いらないんだけどな。アレ、もともと うちがやり出したシステムなんだよ。タイアップつけて売り出すっていうのは」
「へー、そうなんですか?」
と ボクが答えた。
「うん、今じゃ どこも真似しちゃって、タイアップなきゃデビュー出来ない みたいになってるけど、タイアップにもいろいろある」
VIP-中島 社長は、BのCDを机に置いて説明した。
「この連中も、このアルバムの曲のほとんどにタイアップがついてるだろ?」
「本当だ。大手のコマーシャルや有名な番組ばっかり」
ボクが驚くと、VIP-中島 社長 は満足そうな顔をして、
「な? そこだよ。中途半端なタイアップなら、ついたって関係ないんだよ。まして、こんなニュースのエンディングじゃあ・・・・・」
「んー・・・・・・」
その しょうもないタイアップに大金を払った弟は、苦笑いして黙っていた。
「ま、そうは言ってもさ、もう決まっちゃったんなら 無理に捨てることもないからね。いつから流れるの?」
VIP-中島 社長 の質問に弟は、
「七月から 1クールです」
と答えた。
「そうか、九月いっぱいまでだな。じゃあ、こうしよう。曲が流れて、世の中に浸透する 八月二十日をCD発売にしようじゃないか。レコード会社は、うちの内部のレーベルをつかってもいいけど、とりあえず 一枚出して様子を見るだけだから・・・今回は、日本レコードからのデビューになるな。それでいいかい?」
VIP-N 社長の歯切れのいい言葉に、その場の人間たちは 喜びを押し殺して見つめ合い、ガッツポーズをした。
日本レコード――― この社名も本当の名前が出せないということを解ってくれ。ま、誰もが知ってる、日本の代表的なレコード会社なので「日本レコード」ってことでいいじゃないか。フッ、フフ。
「日本レコードがオレたちのレコード会社だったのか。長い道のりで たどり着いた場所」
その日から、日本レコードは ボクにとって 特別な会社になったんだ。
上野とか歩いていて、小さなレコード店があって。演歌のポスターには「日本レコード」の文字。
「おっ、オレのレコード会社! 先輩ですか?ヨロシク」
なーんて 貼ってある 演歌歌手のポスターの写真に向かってアイサツしたりとか。フフ。
無防備だよ、世間を知らないというか・・よく言えばピュアでストレートな性格。でもね、用心した方がいい。そんな奴が無傷で渡れる世の中ではないよ。
とくにこの 音楽業界というのは・・・・・
Copyright(c)2024. Rock’N Roll Kaz. all right reserved.
コメント