SONG-81【プロのスタジオで、レコード制作が始まる】 レコーディングの魔法

SONG-81-main-visual-the-magic-of-recording タイトル 「SONG-81 レコーディングの魔法」 プロのレコーディングスタジオ風景の画像。
レコーディング技術の変遷

「レコーディング」と言うと特殊な世界に聞こえるが

現代では手軽にできる作業になった。

音楽制作、音声収録 と言うと「特殊な世界」つまり 音楽産業、ラジオ、テレビ、ドラマの現場、アニメの吹き替えなど。一般には縁遠い プロの現場作業に聞こえる。

実際、そんな時代はあったし 30年ぐらい前までは「レコーディングは特殊な世界の作業」であった。

今や気軽に「誰でもレコーディングできる時代」

Mac を買ったり、i Phone や i Pad を購入すれば「Garage Band」という レコーディング・アプリが無料で標準装備されている。

このアプリを使えば どこにいても驚くほど簡単に音楽を演奏、録音したり「自分の声を使ったナレーション」を録音することで プライベートな動画でもクオリティ高く仕上げることが可能になった。

こういうことが簡単に出来るから 音楽や映像、写真やアート関係の人間は Apple の製品を使っていたし、ボクも 熱心な Apple ユーザーであった。

しかし今や、Windows を使う人にも、こういった「Recording アプリ」は簡単に使えるようになったので、もはや「レコーディングなんて誰でも 気軽に行える時代になった」

HomeRecording

とはいえ、

プロとアマチュアのレコーディング作業には いまだに 雲泥の差がある

ブースター、ディレイやリバーブ、位相やパンの振り方など 一昔前までは エフェクター、コンソール、録音機材の質や性能が 曲を完成させる大きな要素だった。素人が自宅録音で 5万、十万 のミキシング卓を揃えても、プロの数億円のコンソールから生み出されるサウンドにかなうわけがない。

宅録じゃなくても、アマチュアが使える「街のレコーディング・スタジオ」とプロの現場では、おもちゃと本物ぐらいクオリティに差がついたものだ。

ところが、アナログの録音機材が デジタルの ミディ主体の「コンピューター録音」に切り替わることで「一般人の耳には」同じぐらいの作品に仕上げることが出来ている。

プロが現場で使う「プロツールス」などのレコーディングソフトも、アマチュアがちょっと頑張れば手が届くぐらいの価格帯に下がった。オプションのエフェクター類も手頃で良いものが出回っているから「機材的には」プロの現場と遜色ないレベルまで来ている。

とはいえ、機材の質が上がっても、それを使いこなす「センス」「技術」は やはり プロとアマチュアで大きな差となって現れる。

現代レコーディングの基礎を作ったのは ビートルズ

ビートルズの銅像が街の中にある

そんな画像。

それまで レコーディング と言えば シンガーと楽器演奏者を1つのスタジオに押し込め、「イッセーの、せ!」で演奏して録音していた。これを1発録り、という。

1960年代初頭に デビューした ビートルズも 最初は 2トラックの 1発録りをしていたが、ジョージマーティン という音楽性に優れたプロデューサーに出会ったことで、「マルチトラック・レコーディング」「逆回転」など、さまざまな録音の実験をし、それが今のレコーディング方法の基礎になっている。

今回は、そんなレコーディングの現場で作業する ボクらのお話。


具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。

ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜

ボクについては プロフィールを見てね

gramophone
目次

SONG-81 レコーディングの魔法

まぁ、いろいろあったけど・・・
そういう経緯で、B・ミュージックの所属アーティストとなった ボクたち「ジーニアス」

早速、六本木にある、B・ミュージックのレコーディングスタジオで制作が始まった。

ついに ついに、念願の「プロとしての」レコーディングが始まったんだ。

大きなプロのスタジオ。設備も機材もスタッフも、アマチュアの時とは違う。プロが、本気で演奏して 何億円もの大金を生み出す作品を作るんだ。そういう「本気度」が伝わってくる空間なんだよ。

地下に大きな駐車場があったり、見上げるような天井だったり。

防音の施された分厚い扉を いちいち開けて各部屋を移動する。

プ ロデューサーは、もちろんケーシー・ランキン。
相変わらず 的確なアドバイスで、手際よく作業は進んでいく。

Recording begins in a professional music studio
Recording scene

たくさんのギターがスタジオ内にセットされている画像。

B・ミュージックの超有名売れっ子アーティストである「Z」(仮名)のヴォーカルが、丁度その頃 そのスタジオで歌入れをやっていたんだけれど。彼女の声の調子が悪い、ってことで。

じゃあ「新人のジーニアスにレコーディングさせてやるか」って、ボクたちに順番が回って来たわけ。

って言うより、「Z」の合い間をぬって、ジーニアスのレコーディングをさせてもらった、って言い方の方が合ってるね。ホラ、向こうはメイン。こっちは片すみで お邪魔してる立場だから。スミマセンね、って感じ。「Z 様々」って感謝しながらやってた。

この Z のボーカルはね、声が不安定なんだ。音程がふらついたり声量が弱い。だから、1曲録音するのに莫大なトラック数を使う。パンチ・イン って言うんだけど。

「愛してるー」

って歌うとするじゃない? でも、音がふらついて音痴に聞こえる。どうするか?

「愛」「して」「ルー」って チョコチョコ切って、うまく歌えたところを貼り付けて 切り貼りするの。

Singer without volume

デジタル録音が主流の今なら簡単にできる手法だけど「弁当箱」と呼ばれた2インチの巨大なレコーディング・テープの時代だった当時も、切り取り録音はあった。実際のテープを切り貼りしたりする「職人技」が必要だったりもするんだけど。

だから極端な話、

「あー」
「いー」
「シー」
「テー」
「ルー」

みたいな切り貼りのためにトラックを分けて何十回、何百回も歌う。

その中で音程が安定して、声も太くて聞き取れる テイクを使うんだ。1曲歌い切るのに、気が遠くなる時間とこれでもか、ってぐらいのトラック数を使う。だから疲れて、声が出なくなって休憩したり。今回のように喉を痛めてレコーディング中断にもなるわけさ。裏を返せば贅沢なレコーディングだぜ、まったく。

こちとら、新人にはそんなことは許されない。

「イッセーの、せ!」

で、ライブと同じように演奏。それを同時収録して、あ、ここミスったねー。とか、ここに別のフレーズを入れたいなー、なんていうことに少しトラックを使って、さっさとレコーディングを進めていく。逆に言えば技術がないとできない芸当よ。そこら辺は、ちょっと威張って言わせてもらうけど。

perform well in one go

歌だって、何回も歌わしてはもらえんのよ。だから魂込めてささっとやってくわけ。

そうやって楽しくレコーディングしている所に、タケ がやって来たんだ。

ギターのソロのテイクをみんなで聴いてチェックしてる時だった。

Scenery of recording guitar

「カズ、ドウ思ウ?」

ケーシー・ランキンさんの言葉にボクは、

「うーん。フレーズはいいんだけど、厚みがたりませんねぇ」

と言うと ケーシー・ランキン さんは、

「ダロ? ジャアサ・・コウシヨウ」

Impressed by the producer's innovative ideas

と 楽しいアイデアを提供してくれる。さすが レコーディングの魔術師 ケーシーさんだ。
いくつも引き出しがある。ドラえもんのポケットのように、魅力的なアイデアがどんどん出てきて感動する。

そういう作業を「あーでもない、こーでもない」と やっていると、

「kaz さんのお知り合いだ、っていう方がお見えになってますが」

とスタジオの女性スタッフが呼びに来た。

「?」

A man turns to a woman's voice

なんだろう? と思ってエントランスに出ると タケなの。

ボクが生涯最高のドラマーだと認めている イサ。

そのイサの高校時代の同級生で、よくイサのライブを聴きに来てたのが タケ。タケもミュージシャン志望だったからね。イサのライブが終わった後 打ち上げの席でよく見かけてたから、ボクも知り合いになったんだ。

酒を飲んで夢を語り、どのミュージシャンはダメだ、とか。あのバンドは才能ある、とか。音楽仲間って、そういう話をつまみに朝まで飲んだりするよ。あの頃、飲んだよなぁ・・・

で、そのタケが 突然現れたから びっくりした。

I met up with a friend I hadn't seen in a long time

知り合いだったけど、イサを通じて付き合ってるワケだから 「友達未満、知り合い以上」って間柄で。突然 なに? って面食らったんだけど エントランスでニコニコ笑いながら タケが、

「いや。レコーディング 見学しようと思って」

っていうからさ。あー、そう。じゃ入りなよ。って ミキシングルームに案内した。そこにいたケーシーさんを紹介してさ。あ、どうもどうも。って。

「おお、こちらが あの有名な ケーシー・ランキンさん? タケですよろしく」

天才的な溶け込み方をする タケに ケーシーさんも、

「アア、カズ ノ 友達? キミ モ 音楽ヤルノ?」

はいー、どうのこうの・・・って。タケのやつ。フフ・・

その日ずーっといたね。もうジーニアスのメンバーか、スタッフの一員になったみたいにさ。

A friend who is not shy

「ソウイエバ・・・コノ近クニ オイシイ ハンバーガーショップ デキタデショウ?」

スタジオ・スタッフと話題の店の話になって。ケーシーさんのおごりで出前をとった。

大量のハンバーガー。ポテト ケチャップ。マスタード・・ みんなでパクついて タケもしっかり奢ってもらってたから もうその場に馴染んでるんだ。

こういうとこ凄いな、と思った。物怖じせずに興味がある場所に どんどん突撃していく。結果、ケーシーさんに奢ってもらえるぐらいになるんだから、うまくすりゃ タケのレコーディングだってできるようになるかもしれない。ボクの人脈を使ってショートカットで大物プロデューサー ケーシー・ランキン に会う。

海外のミュージシャンがチャンスを掴んだ話に、そういうのがよく出てくる。
人見知りのボクには出来ない芸当だけど、臆せず突撃してチャンスの扉をこじ開けようとする姿勢は凄いな、素晴らしいな、と素直に思った。タケ、元気にしてるかな?

A large amount of delicious hamburgers
A large amount of delicious hamburgers

でね、ケーシー・ランキン さんと言うのは本当に才能あふれる人だ。アメリカにいた頃は キャロル・キングなんかともレコーディングしてた、って言ってたから、伝説の中のミュージシャンの一人だと思う。

レコーディングしながら、こんなすごい人と、なんで ボク 今 一緒にいるんだろう? 夢かな? って何度も思ったよ。レコーディングして、ボクたちの CD を一緒に作ろうとしてる・・・なんて、幸せなんだ。

で、この頃 アルバム制作の話がいつ来てもいいように、って 「新曲」ができると しょっちゅうケーシーさんの家に行ってたんだ。そう、例の「自由が丘のケーシー・ランキン 邸」へね。

そのケーシー邸の地下にある、プライベート・スタジオで 新曲のデモテープ制作を行なっていた。

このプライベート・スタジオで録音した曲は Rock’n Roll GENIUS 時代を含めて50曲以上に及ぶ。たいていは、ここでラフなデモを録音して、採用されたものを豪華な設備の プロ用レコーディング・スタジオで本録音する、という流れだった。

ノマドって曲も、本格的なレコーディングをしたかった。けど残念ながらプロの録音スタジオまでたどり着かなかった楽曲だ。個人的にはとても好きで、特にプロデューサーとの思い出が詰まっていて、この曲を聴くと Casey Rankin さんを思い出す。

そうだ、この話をしようか。

got a new car

 
この時期、ボクは車を買った。楽器を載せたりしたかったからね。

スズキのエスクード という、ジープに似たRV 車だ。正式名を「エスクード Nomad」と言った。ノマドとは遊牧民、ジプシーのように定住先を持たない民を言う。最近の事務所を持たない「ノマド ワーカー」なども、語源はこの遊牧民だ。

さて、新車を手に入れ はしゃいでいた ボクは、嬉しくなって記念の曲を作った。それが

Nomad ~彼方からの訪問者~

って曲だ。

定期的に Casey Rankin の家に行き、レコーディングをくりかえしていた ボクは、この曲のデモを Casey さんに聴かせた。いつもはバンドのメンバーのギターかキーボードあたりが同席して生で弾いて聴かせるんだけど、この日は ボク1人だった。

I let my produser listen to my new song

仕方がないから へたくそなギターを弾いて歌ってコードを教えると、いきなりプロデューサーがピアノを弾き始めた。

そして次にギター、ベースと音を重ね始めたんだ。

Casey Rankin はマルチ・プレイヤーですべての楽器が弾ける。天才だ。この日も、わずか30分ほどで1人で多重録音をし、この曲のベーシックなオケが出来上がった。ここら辺の制作風景は アメリカ映画の「ラブソングができるまで」って映画の中に、そっくりな ワンシーンが出てくるから 観てみるとイメージできると思うな。

ドラムは超適当な打ち込み。
リズムボックスのパッドを手で打ち込んでんの。パッドが小さいから変なところを叩いて一部リズムがヨレたりするんだけど気にせずーー

で、コーラスを入れるから一緒に歌えと言う。いつも、そうやってラフにレコーディングが始まる。歌い直しとかは一切ナシ。一発録りのぶっつけ本番だ。この曲も、そうやって収録されたラフ音源だ。


 
コーラスを入れながら Casey Rankin はピアノを弾いた。
そして「歌え」と目配せするので、ボクも必死で歌う。

ケーシーが Hey, Hey と歌うので、ボクも真似した。だんだん楽しくなってノってきた。

でも、途中から Casey は演歌調の演奏を始めて、自らも演歌調なコーラスを歌い始めた。困惑する ボク。なんで?

Confused band man

 

いきなりレコーディングを中断され、釈然としない気分でプロデューサーを見ると、彼は笑いながら。

「kaz 、ワザト ヤッテンノ?」

と尋ねる。え? と思っていると

「ヘイヘイヘイヘイ、マデ ハ イイケド。ホーホー マデ入レタラ 与作 デショ」


 
言われて、ハッと気がついた。ヘイヘイ、Woo.. と歌うつもりだったけど、思わずゴロが悪く、歌ノリが良くないから、Woo.. を ホーホー と歌った。でも、それって・・ 与作だ!

lumberjack cuts a tree

まったく、そんな気はなかったから唖然。「うーむ、オレの日本人の遺伝子の中には演歌のスイッチがあって、思わず与作が出るのか?」

ロックに染まってると自覚していた ボク にはかなり大きな衝撃だった。

「ロック ノ 与作 ダネ」

Casey Rankin に言われて、ボツにした曲だけど、曲そのものは悪くないと思う。

与作は名曲だけど、ロックじゃないから言われた時は顔が真っ赤になった。でも、もしあの時 ボク が「ヘイヘイヘイヘイ、ホーホー」と歌わなかったら、曲は続いていた。プロの録音スタジオまでたどり着けたんだろうか? 今となってはもう、わからない。

この時の録音はそのまま残してとっておいた。で、この間作ったボクのアルバムに入れたんだ。マスタリングの時に、Casey がふざけて弾いた「演歌調の後半部分」はカットしたけど。

今日は特別に、カットした演歌部分も隠さずに フルで聴かせるね。お蔵入りしていた曲。その場で、即興で録音した音源だよ。

(音源 Nomad〜彼方への放浪者〜)

Copyright(c)2024. Rock’N Roll Kaz. all right reserved.

Recognize the Japanese temperament that lies within me
Recognize the Japanese temperament that lies within me
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次