ボクの好きな映画
「ショーシャンクの空に」の中に、刑務所長と主人公が話すシーンがある。
主人公が牢屋の中で 聖書を読んでいるのに感心して
「好きな言葉はなんだ?」
と尋ねると
「目を覚ましていなさい。いつ主人が戻るかわからないから」
と答える。
すると、刑務所長はすぐに、
「マルコ伝 13章35節だな」
と笑って言った。
結果的に「無実の罪で長期服役していた主人公」は脱獄し、自由を手に入れる。
再審請求を棄却され、絶望的な状況の中でも決して諦めず、「目を覚ましてチャンスを窺い」その時を待ったからだ。
油断大敵、気を抜くな!
ショーシャンク刑務所の主人公とは正反対にーー
あの頃の ボクの弟は、完全に警戒心を緩め、業界人の言うことを間に受けて・・
続きは本編でどうぞ。
具体的なストーリーで考えるヒントをつかもう。
ドキュメンタル STORY で人生をリセット!
〜机上の空論じゃ現状を変えられない。実例からヒントを得よう〜
ボクについては プロフィールを見てね
SONG-84 ゴルフ
そうこうするうちに月日は流れていった――――
「最近 耕次、音沙汰ないけど、どうしてる?」
西日暮里で電車を待ってる時、何気なくレイ・ギャングに聞いたんだ。
「それが・・・つかまりにくいんですよねぇ。今日はゴルフに行くって言ってましたけど」
「また、ゴルフかよ。最近 ゴルフばっかりじゃねぇか」
日本はバブルがはじけて、そろそろ深刻になりはじめていた。
しかし、弟の事業の本拠地である香港は、返還前のブームに沸いて、相変わらず景気が良かったんだ。
「でも、香港が中国に返還されたら、どうなっちゃうんでしょうねぇ。耕次さんのお店、日本に作ったのはどれもあまり流行ってないみたいですよ」
レイ・ギャングは、少し不安そうな顔をした。
香港返還を念頭に置いて、広尾と四谷にシルク専門店を開くなど、それなりの準備というか対策は立てていた弟。
でもハタから見ていても、あまり危機感がなく、のんびりと連日ゴルフに興じる弟の姿に、ボクも 一抹の不安を憶える。
「そういえば タイアップの話、どうなったんだろう?」
「さぁ?」
ボクの問いに レイギャンは首をかしげる。
「なにせ、あの いかがわしい事務所絡みの話だぜ。真木サンが決めてきたんだろう? タイアップ」
「そう言ってましたね」
「あの人、やり手だけど・・ どうも信用ならない。デビューの8月まで、もう3ヶ月切ってんだし。そろそろ話を詰めとかないと、ヤバいんじゃねぇのか?」
「そうですよねぇ。たしかに 真木サンは いかがわしい」
「・・・・・・」
レイ・ギャングもボクも不安な顔でお互いを見た。
「耕次に会ってみるよ。連絡とってみてくれ」
レイ・ギャングが電話をして、3人で会った。
耕次は、会えばいつも ごちそうをしてくれた。
松坂牛や松茸を無造作に焼く、高級ろばた焼。イタリアやフランスのレストラン。焼肉にスシ。金に糸目をつけないというスタイルで ボク達を驚かせたけど、なぜかバブリーな、浮かれた雰囲気に居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
この日も、そういう店で会ったんだ。開口一番、耕次は
「ハハハ。僕にまかしとけば大丈夫だよ。心配症だなあ、兄キは」
豪快な笑いで ボクの懸念を一笑に付す。
「でもさ。なんせ あの 中島社長、真木サン がらみの話じゃん。開けてみたら何も決まっていなくて、タイアップがお流れなんてことになったら・・・・」
「ならないって。僕は中島社長の さらに上の。上司と友達なんだよ。もし、僕をだますような事があったら、上が黙っちゃいないよ」
「そりゃ、そうだろうけど・・・でも、日本レコードの手前もあるしさ、一応もう一度確認しといてよ」
「わかった、わかった」
耕次 はうんざりした表情で答えた。
「耕次さんは まともな世界で成功した人だから、解らないと思うけど、この世界は ズルい人が多いんですよ。あたしたち、さんざん だまされてきたから。カズさん 必要以上に心配していると思うんです」
レイギャングも口をはさんだ。
「あのね、僕 確かに この業界は素人だけど、これでも一応経営のプロだよ。どんな世界にだって悪い奴はいるし、事実 僕もだまされたりして何億も借金を背負い込んだことだってあったさ。そういう修羅場をくぐり抜けて、会社を成功させたから 今がある。大丈夫だって。大舟に乗った気持ちで、僕に任せてよ」
そこまで言われたら、もう何も言えなかった。とにかく まかせよう。
⭐︎
それから1ヵ月が経ち、それは発覚した。
ボクの家にケーシーさんから 電話がかかって来たのが夕方。
かなりあわてている様子で、
「コージィ、今 ドコニ イルカ ワカルゥ?」
ケーシー・ランキン さんの言葉に、ボクは一瞬「ゴルフじゃないかな?」と ピーンときたけど、それは答えず、緊急の連絡先を教えたんだ。
デビューが延期されたのを知ったのは、その日の夜。
誰から聞いたのかは、もう忘れた。
「タイアップが、やっぱりウソだったらしいよ」
「!」
うちの スタッフの言葉に 苦い唾が口の中で踊った。
「日本レコードの担当者と真木さんが、仲がいいらしくてさ。話をしていて、ジーニアスのことが出たんだって。8月20日にデビューさせる。タイアップは、ニュース番組の・・・・って。それを聞いた真木さん、青くなっちゃった」
「・・・・・」
「自分がからんだ話が、意外な展開を見せて進んでいたからね。その場で真木さん、日本レコードの担当者に言ったんだって。『そのタイアップは、まだ本決まりじゃない。そういう話が出てるだけだ』ってね」
「何だって!? そんなことを真木さんが? ・・・・だって・・・・だって! 金は? 金はどこへ消えたんだよ?」
スタッフの言葉が あまりにも理不尽で。混乱し、敵を見失った。うろたえたボクは スタッフに敵意をむき出しにしてしまった。
「真木さんは、金なんか受け取ってないって言ってるらしいね。金の流れがどうなってるかは、解らないけど、番組プロデューサーがかなり受取ってるのか、中島社長が使い込んじゃったか。あるいは、真木さんが貰ってるのにウソついてるのか、今の所 藪の中だな」
「そんな・・・いや、やっぱり。怪しいと思っていたんだよ。だから耕次にちゃんと詰めるように言ったのに・・クソッ!」
「B・ミュージックの VIP-中島 社長は、日本レコードから その話を聞いて。面食らっちゃったらしいよ。寝耳に水って感じで」
「そりゃあ そうだろ。せめて こっちサイドからタイアップが流れた話が行けば、対策も立てられたけど、日本レコードからじゃ・・・・顔をつぶされたようなもんだろ。で? デビュー、まさか影響してないよな? 中止なんてことになったら・・・」
「・・・中止とは言ってないらしいけど、とり合えず 延期なんだって」
軽い目まいを覚えた。
「8月20日は、とり合えず延期。10月になるって言ってたよ」
「延期か・・・・・」
スタッフの言葉に がっかりしながらも ボクは、最悪の事態が回避出来たことに、多少安堵した。いや、それは嘘だ! 怒りと失望と不信感で体の震えが止まらない。叫び出したい、怒りをぶつけたいけど、誰にぶつければいいかも曖昧だ。
もちろん、嘘つき真木が一番悪いけど、それを放置してのんびりゴルフしていた弟にも大きな落ち度がある。あれほど大丈夫か? って聞いたのに。何の対処もしていなかったってことか?
タイアップなんて関係ない、と言っていたVIP-中島 社長も、やはり …タイアップなしでもデビューさせてやる、とは言ってくれない。結局、馬鹿にしてたタイアップが必要なんじゃないか!
みんな、言ってることとやってることが違いすぎるよ。
「それにしても・・・・」
どこまで走れば、たどり着くんだろう・・・・
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