SONG-86【契約という名の支配】 奴隷契約

SONG-86-main-visual-If-you-sign-that-contract,-you-become-a-slave タイトル 「SONG-86 奴隷契約」 ロープで繋がれ支配される奴隷の画像と、操り人形でコントロールされている人形の画像。たくさんの契約書のイラストが描かれている。
契約って、誰のためのもの?

答えは、「強いヤツのためのもの」だよ

弱いものを守るために契約書がある?

フフ、そうだったらいいね。

経営者を縛り付けるための契約内容があったとして。
それだって「弱い者に配慮して」作られたものじゃない。労働組合のような「強い力を持った者が圧力をかけて」経営者に そういう条件を呑ませたものだ。

あなたと会社の雇用契約も。よーく、見てみて!

会社のルールがいっぱい書いてある。労働基準法があるから 日本の社会通念に合わせてあなたの権利も守られてはいるけど。

例えば「給与」や「賞与」をもう少し上げて欲しいと言っても、なかなか そうはならない。だからといって辞められないから「その条件で」我慢する。

一方、会社からの要求、ルール、規定は山ほど呑まされる。そういうものだ、契約って。

make a contract

だから契約で有利な立場に立つためには、「強者」にならなければならない。強者になるとは、

「特許を取る」だとか「画期的なシステムを持つ」だとか「印税を得られるようになる」などの 先方があなたの持っているものが欲しい状態を作る、ということだね。

強者が有利な立場を維持する

これが契約の本質だ。

しかし一般的な社会では、そうは言っても適切に。ある程度の「人間としての節度を持った契約」が交わされる。

ところが音楽業界ときたら・・・

前時代的な「奴隷のような契約」が結ばれることは日常茶飯事だ。

売れっ子の作曲家が、その曲の版権を持っていなかった。印税もほとんど入って来ない。なんてニュースを あなたもたまに耳にするだろう。それは特殊なケースじゃない。

だからミュージシャンが力を持つ方法は「ファンをたくさん持っていて、業界の力なんてなくても曲やグッズがたくさん売れる状態を作ること」ぐらいだな。

passionate fan

そんな状態なら業界なんて必要無いじゃん。と思う?

その通り。

音楽業界で力を持ち、自分に有利な契約書を交わすミュージシャンはみんな。音楽業界の力なんか借りなくても曲を作れば多くの人が買ってくれ「自分の力でミリオンセラーにできる人」だけだ。

そんな人たちだけが、音楽業界の流通を「使ってあげて」少々儲けさせてあげる。

売れるとわかっているものに「業界は本気になってプロモートするし宣伝もする」

契約書も「ミュージシャンに敬意を表した内容で制作される」お互いの弁護士で細かくチェックしてサインが交わされる。

こういうのが「優良な契約」でしょ?

でも、ほとんどはそうじゃない。力無きものは強者に支配されるのが世の常。強きものが権利を主張する。

特に音楽業界はね・・・


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ボクについては プロフィールを見てね

slave contract
目次

SONG-86 奴隷契約

「タイアップね、夜中の番組に変わったから。x x ナイトって番組」

「えっ!?」

秋田のツアーから帰ってきた ボクたちに、弟の 耕次が言った。バンドのメンバーもスタッフも驚いて声を上げた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。x x ナイトって、それって・・ 裸の女しか出てこないエロ番組じゃねーか!」

その番組は相当いやらしい お色気番組だった訳。

Eroticな女性の画像

ボクの言葉に 速弾きヒカルも、

「うわぁ。エロ・タイアップ。こりゃあ親には言えないな」

と かなり困惑して笑った。

「なんで・・・ニュース番組じゃないの? あんなお色気番組じゃ、オレらのイメージじゃないだろ?」

ボクの言葉に 耕次は 悪びれもせず

「いや、真木さんも努力してくれたんだけどね。ニュース番組の方へは もう入りこめなかったんだ。その代わりにって・・・うん。でもこっちの方が視聴率も高いし、B・ミュージックのVIP-中島 社長も納得してくれたから・・・・」

なんて、結果オーライな言い方をする。

頂上に旗を立て、意味のない自慢をする男に、「自慢してんじゃねーよ」と鋭いツッコミをする外野の画像。

「そんな。真木さん達が嘘ついたから、こんなことになってんだからさぁ。もっとまともな番組のエンディング曲でも取ってきてよ!」

食いついて離さない犬になったボクをなだめるように 耕次は、

「時間があればそうしたいよ。でも、10月のデビューに間に合わせるには時間がない。これでも強引に番組にねじ込んでもらったんだから。今回はこれで我慢してよ」

と イタズラが見つかった子供のような顔をして言う。

「・・・まいったな」

stunned people

どんどん 話が変わっていく。これはもう、覚悟しておいた方が良さそうだ。

「不安だよ。本当にデビュー出来るの? もう信用できない」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

ボクの心配は スタッフやメンバーにも伝染したようで、みんな無言で重たい空気の中にいた。

そんな みんな の様子を見て。うーん、とうなった 耕次は ハタと思いつき、

「そんなに言うならさ、VIP-中島 社長から、契約書貰ってくるよ。B・ミュージックとの契約があれば、信じてくれるよね」

そう言うと、耕次は本当に契約書をもらってきた。

「甲は乙に・・・レコードを出すために・・・・どうのこうの」最後に B・ミュージックの社判とVIP-中島 社長のハンコがペタンと押してある。弟のサインと社判、実印も。

A man showing off a contract

耕次は 大きな仕事をやり遂げた雰囲気で満足げに

「本来なら 日本レコードと交わすべきだけれど、もし日本レコードが駄目になるようなことがあっても、B・ミュージックのレーベルからは出るからね。保険のようなものだよ」

と言った。自信満々なその態度に どんな契約書を交わしてきたのかと ボクは、

「見せて」

と、耕次から契約書を受け取って目を通した。

「こ、これは・・・ これが契約書? こんなひどい契約 見たことない」

メンバーやスタッフが一斉に集まってきて ボクが持っている契約書を覗き込み、誰かがひったくるようにそれを持っていくと、ぞろぞろみんなが契約書を持って行ったやつを追いかけて行った。

People gather to look at documents they are interested in

契約は、何度か交わしたことがある。

確か 最初の契約はアマチュアのオーディションで いいところまで勝ち進んだ時。

結局その時は「特別賞」しか取れなかったんだけど、その時に契約書を渡された。

そのオーディションに応募した曲の版権を「オーディション主催者」に管理させてほしい、という趣旨のものだった。そうすれば、その主催者の会社が責任を持って その楽曲をプロモートし、業界のメーカーに売り込んでくれ、デビューに漕ぎ着けられるようサポートする。とか書いてあった。

こういう契約書出されたら警戒した方がいいよ。これが自分たちのため、バンドのために作成された契約だと思ったら とんでもない!

デビューに漕ぎ着けられるようサポートする? 大嘘だ!! 

この契約の意味はね。

「楽曲の権利 譲渡」と言われるもので、この楽曲の権利は 当社が持つ。という権利主張のための契約。この契約があれば、他社が手出し出来ない。もし売れたら、独占的に「楽曲の権利」を主張できる。ただそれだけのためのもの。

claim the right

ところがさーー

契約書を交わし、

放置。

それっきり、何もしない。
え? なんで? 意味わからん、でしょ?

せっかく契約したのなら その曲が 陽の目を見れるようにプロモートしなきゃ、と思うかも知れないけど。そんな金と時間の無駄なこと、業界人は絶対にやらんよ。

parents indifferent to children

何度も言うけど、契約するのはバンドやアーティストの助けになる為じゃない。そんなこと、これっぽっちも思っていない。契約書が保管されるだけ。

業界はね。

アマチュアのバンドが売れるなんて、これっぽっちも信じちゃいないってこと。

何万、何百万の若者が 音楽での成功を夢見て、でも実際に栄光を掴むのは そのうち ほんの 一人か二人。それが現実。

才能だけじゃ無い、いろんな出会いとタイミングがうまくいって 奇跡というスパイスも加わった時にスターが誕生する。ヒット曲が生まれる。

あるいは、業界自体が仕掛けて 莫大な金を使って「作り出される」スター。

こういうのは、何かのアイドル・オーディションで優勝したり、大物芸能人二世がたどる道ーー

つまり、天然素材で生まれてくるスターなんて、ほとんど無いってことだよ。

業界は、そのことをよく知ってる。だから無駄な「売り出し」なんかしてくれない。金がかかることなんかしない。放置する。

子供を無視する親の画像に

「indifference」の文字。

でもね、ほとんど無いけど 0じゃ無い。

0.1% ぐらいの奇跡が起こる。無名な新人の 無名な楽曲が大ヒットすることがたまーに、ある。

みにくいアヒルの子が、奇跡的に白鳥になることがあるんだ。

これは誰にもわからない社会のバグだね。

でも 業界人なら、こういうバグが生まれるーー 奇跡が起こることを知ってる。そういう 経験を何度もしてるから。知ってるんだ。誰も予期しない、ヒットが生まれることを!

絶対売れない、と思っていたバンドが売れる。小馬鹿にしていた楽曲が大ヒットする。

それは起こりうる奇跡だ。滅多に起こらないけど、奇跡は起こるんだ。

だから業界人は、否定はせず ちょっとでも「可能性を感じたものにはとりあえずツバをつけとく」んだ。

「念のために」

そういう世界なんだ、業界って。

一番まともだった契約は、ケーシー・ランキン さんと交わした「委任状契約」

これはすごくまともな契約書だったな。ボクたちの楽曲制作をしてくれて、音楽メーカーに売り込むという内容。1日何十万もするプロ用のスタジオで、何十曲もレコーディングさせてくれた。素晴らしい人だ、ケーシーさんは。

それに引き換え、今回の B・ミュージックの作った契約書。

ひどいものだった。

ボク達の楽曲の権利も印税率も B・ミュージックが一方的に有利になるように書いてある。売れたとしても、4年間はまともな印税も受け取れない。

そのくせ B・ミュージックが ボク達を売るためのサポートは「単なる努力目標」で、全く拘束力がない。・・怖い

create a hit song

その契約書、多分 まだ、うちにあるよ。ボクが持ってる。引越しで何処かにしまっちゃったけど、探せば出てくるな・・

「これじゃあデビューの話が飛んでも 契約違反にならないんじゃないの? 一方 オレたちはがんじがらめに縛られて身動き取れない」

ボクの言葉に レイ・ギャングも

「確かに・・・」

と浮かない表情をした。

Uneasy expression

奴隷契約と言ってもいい。みんな黙って考えこんでる。なのに弟は、

 「これで気がすんだでしょう? ホラ、安心してツアー回ってきてよ」

なんて脳天気に言う。本当にそう思ってんのか、ヤバイ状況を取り繕ってんのかはわからない。でも・・こんな契約書で安心できるわけがない。

「ホラ、ホラ、デビュー前に、バンバン宣伝してきて。うちの親とかも田舎で楽しみに待ってるみたいだし」

強引に。背中を押すように耕次が言ったから、渋々納得するしかなかった。

A young man who is pushed outside

それからの日々ーー
それでも活動は激しかったな。動いてないと不安でたまらないんだ。

「デビューします」「応援してください」っていろんなとこ回って。ラジオ出てテレビ出て。有線放送で頭下げまくって、ステージでシャウトして。サインして・・・ 心の中の雨雲を追い払うように行動していた。

来週からは、ボクが生まれた鹿児島。 九州のツアーが始まる。

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ロックンロール・ジーニアス
デビュー前 プロモーション用写真
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