輸入から 製造 総代理 へ
一年ほど順調に見えた「松葉杖 事業」
しかし落とし穴が待ち受けていたーー
クレームが相次ぐようになってきたのだ。クレームだけならまだしも、返品も無視できない数になってきた。
原因は、製造時の「品質管理が出来ていない」こと。
スマート・クラッチは、松葉杖のプラスチックやアルミで出来た部分に、デザイン・シールを貼ることでおしゃれになっている。そのシールが 剥がれていたり、ずれて貼ってあったり、気泡が入っていたり。というクレームから始まった。
気泡というのは、スマホに衝撃よけのフィルムを貼る時に、雑にやると「空気の泡」がたくさん入ってしまう、アレだ。
スマート・クラッチの場合、あの気泡の入り方が多すぎる。モノによっては、空気の塊になって 膨らんだ状態になっている。要するに「貼り方が雑」なんだよ。
気泡の問題ばかりではない。プラスチック部分に「バリ」があって、日本に着いた時に1つづつ「バリ取り」をしないと鋭く尖ったプラスチックのバリで手や身体を切ってしまう。プラスチック製造時に、バリの出にくい製造コントロールをして、出来上がった商品を1つづつ磨いてバリのないようにして出荷する気遣いに欠けていた。
そもそも、完成品の出荷前チェックをしているんだろうか?
チェックしているなら、なぜ「あんなに沢山のプラスチックのパーツのひび割れがあるんだろう?」
本国メーカーに問い合わせると、「不良品の証拠写真と不良数を教えてくれれば、次回その分商品補充して帳尻を合わせる」と言うのだ。不良品と言ったって、日本人の感覚で言えば、ほとんど不良品だろう。何かしらの不具合を、こっちで修正して販売店に出荷しているのだ。
しかし、見えない部分の不良もあって、こっちで修正しきれなく見落としてしまったものから クレームが発生していた。杖を入れている「化粧箱の破れや傷」についても文句を言ったが、
「箱は、杖を保護するために入れているモノだから 中身が大丈夫なら 箱の汚れや破損は ノープロブレム!
なんて明るい返事が返ってきて驚いた。日本人が細かすぎるんだろうか? でも、日本人のお客さんに破れた箱で送ったら、やっぱり「クレーム」になるよな。
直しても、直しても 次々に現れる不都合な問題。何度も本国に「修正依頼」を出しても一向に改善されない。
そのうちポロリと「実はクレームは日本からだけではなく、フランスからもドイツからもアメリカからも出ている」と本音を吐露した。
世界中からクレーム来てんじゃないかよ、と腹が立った。
海外の製品は画期的で、デザインもよく、「自由な発想に満ち溢れている」
そういう点では とても評価できるんだけど「製造品質、丁寧なモノづくり」に欠けるものが多い。ジャパン品質がいかに優れているか、輸入してみてよくわかった。
向こうの品質改善を待っていても埒が開かないので、こっちで「箱を作り」「新しいシールも作って丁寧に貼り、バリも磨いて」出荷するようにした。予定外のお金がかかって儲けは薄くなるし、仕事が終わってから夜中にせっせと修正作業をやるから 睡眠時間も減り、虚しくなったが我慢した。
そうこう するうち、南アフリカの「スマート・クラッチ工場」が閉鎖された。
日々の品質改善のための残業や、仕事の仕方への指導に 不満を持った労働者たちが 現場で暴動を起こし、死者まで出る騒ぎとなり、工場の停止に追い込まれたのである。
これには驚いた。せっかく修正して、なんとか出荷していたのに「商品そのものが入って来なくなる。今ある在庫は、3ヶ月持つかどうか・・
工場再開の見込みは立たない。焦った。
これで「松葉杖事業を断念するべきか」悩んだ。「総代理契約書」を作ってくれた 貿易の専門家と相談した結果、
いっそのこと「ものづくり」の優秀な日本で製造したらどうか? 設計図から引き直して、改善した日本品質。
スマートクラッチ・ジャパン製
を作り上げる。
それは、とても誇らしくドキドキ胸が高まるモノだったが、今のボクだったら 全力で引き止めるね。
なぜなら、深い深い森の中。ジャングル奥深くへ分け入っていくことだから。危険なんだよ。
製造メーカーになるなんて、お金を持った大企業がやること。個人が踏み込む領域じゃないんだ。勇気があるのはいい。ただ、時にボクの勇気は蛮勇となり、ものすごい苦労を引き寄せる。
何度か 引き返す 機会はあった。
しかし その都度、貿易スクールの仲間に励まされ、杖の製造 工場が見つかり、良い職人が見つかり。「ここを乗り切ればなんとかなる」という希望の光が見え(しかし、これらは 森の奥深くへ誘う怪しい光だ。足元がふわふわしていて、なんだか自分の足で踏みしめている実感がない。何か 恐ろしいものに誘導されて奥深く誘われ、二階に登らされて、振り向くと 梯子が外されている状態。あの頃を表現すると、そんな感じだ)
まず襲ってきたのは、お金の問題。プラスチックを量産する際に使う金型。これが1つ 1千万円近くする。2つ必要なので 軽く2千万。
さらに 量産態勢に入るため 多額の製造資金が必要になる。
順調に販売していた売り上げがあったとはいえ、全然足りない。
方々 金をかき集め、それでも足りない。
仕方ないので、クラウドファンディングに挑戦。とりあえず500万円集める予定だったが、最終的に 1,400万円を超える資金が集まった。達成前に、渋谷の空を見上げたら 流れ星が 一筋。綺麗に流れたので、奇跡が起きるかも、と思ったら 案の定うまくいった。
これ、作り話じゃなく 本当の話だよ。ボクは いくつか「越えられないと思っていた壁」を超えたことがあるけど、奇跡が起きる前に「あれ?」と思うような体験をすることは 割とあるんだ。いつもじゃないけどね。
東京都の「製造業者のための補助金」にも応募した。担当者がついて。
「松葉杖のような事業は、ほぼほぼ 補助金がつくから、大丈夫」
と言われたんだけど・・
期待して待ってたら 落ちた。補助金が降りたものを見ても「えっ、こんなものに何千万も出るの?」どうなってんだ、と思うようなもので。担当も、ボクが落ちたことが信じられないと首を捻っていたけれど・・
補助金などには、いろいろテクニックやつながりが あるようで。とにかく!
こうして「日本製」高機能松葉杖 製造のプロジェクトは、スタートしたわけだ。
でも、今 振り返ってみると ボクは全然 経営者には向いてなかったなぁ、と思う。
コスト管理が ぜんぜん出来ていない。シビアに「予算で仕切れない」のよ。もっと、こうやれば 良いものができる。こうやれば更に良くなるのに、なんでここで止める?
と、まるで レコーディング・スタジオで 曲作りをしていた あの頃のままの感覚なのよ。
ミュージシャンなら。現場でものづくりするなら、それで良いんだよ。作品の仕上がりに徹底的にこだわる。
しかし経営者なら「予算にこだわる。今回はここまで」とバッサリやる。音楽の現場でもあったよ、制作サイドがシビアで ボクたちバンドマンに「完全に納得のいくまで」はやらしてくれない。
なんで? と思ってたけど、自分が経営者になってわかった。予算があるから。引き締めなきゃ「こだわってばかりじゃ」破産しちゃう。
わかってるつもりだったんだけど。バンドマンが経営者になって。やっぱり甘々だったよね。そうだと思う。
例えば足先のポール。普通に 黒でいいよね。
なのにボクは、「せっかく日本で作るんだから 桜の花びらを散らそう。花吹雪、これぞ日本製だ!」とやっちゃう。面白いけど、バンドマンの発想。黒一色ならコストが抑えられるから、普通の経営者ならやらない。
こうして プロトタイプの 試作品が出来上がり、チェックが終わった後、量産体制に入ろうとしたら、なんと「クラウドファンド」の担当者から
「製品が出来上がるまで、お金は出せない」
と言われて驚いた。
「我々は、お客さんから預かったお金が正しく使われるか見張って管理する役目がある。詐欺のような例もあるので 商品が完成するまで お金は動かせません」
という理屈に納得がいかなかった。資金がないからクラウドファンディング に挑戦したのに、成功してもお金が出ないってなんだよ。その金で投資でもするつもりか?
そこの「クラウドファンディング プラットフォーム」で 高額資金を集めることに成功した人たちにも連絡してみると
「うちも なかなかお金が降りなくて 本当に困ったんだよね」
と言っていた。ヤバイところで資金集めしちゃったか? と青くなった。何度 本部に交渉してもダメなので、資金を提供してくれた人たちに現状を説明すると 彼らもせっかく支援した自分たちのお金がボクに届いていないことに驚き、中には烈火の如く怒り出す人もいて。
本部に苦情の電話がいくつも入り「早く金を出してやれ!」と催促してくれた。
それでもお金が降りるまでに半年ぐらいかかって、「早く出す分、手数料も多く」取られた。
全ての「クラウドファンディング プラットフォーム」が こうではないと思うが、挑戦する前に、そこで資金集めに成功した人たちに話を聞いてみることをお勧めする。
この件で、ボクは何百万円ものお金を失った。
なぜならば、大量ロットで仕入れる際、部品やらなんやらの支払いを「先払いでやれば安くなる」しかし お金が出るまで待って、と言えば向こうも不安になって 割引率は悪くなる。大量仕入れをする際の鉄則だ。
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-「究極の自転車操業」で苦しむ理由-
ビジネスでうまくいく方法と「これをやったら失敗する」ということ
を 実戦で学んだ ボクを見て「反面教師」として参考にして欲しい。
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