売っても、売っても 資産が残らない
「輸入総代理」契約から「製造総代理」つまりメーカー になったボク。
もう、製品の品質面で悩まされることは無くなった。海外の画期的アイデアとデザインに、最高品質の「日本製の技術を組み合わせた杖だから」自信を持って紹介すると 多くの人が欲しがって連絡をくれる。
誇りを持って作ってよかった。ダメな部分を徹底的に洗い出し、ユーザーの意見も多く取り入れ、設計図から引き直したからね。日本の技術力は高い。モノ作りは日本が非常に優れている。
雑誌、新聞、テレビの取材も増えてくる。
これで大成功した、と思うでしょ?
でも、品質面で悩まされなくなった分、別の面で 頭を抱えた。
お金だ。
Smart Crutch には パーツがいくつもある。
17のパーツに分かれているんだ。それを統合させて組み立て、製品にして仕入れていた。
しかし「完全製品」として仕入れると ロット、つまり仕入数が大量になる。一回に1千万円前後の仕入れ資金がかかる。小さな会社に、その支払いは ハードルが高かった。また、各部品が壊れたとき、修理に時間がかかる。それならば、ボクが修理した方が簡単で早い。製品の特質や組み合わせかたは熟知してるのでね。
そう考えて、「完全製品」での仕入れを諦め、パーツの工場に「バラで納品」してくれるように頼んだ。
が、これが間違い。地獄突入へのスイッチを押してしまった。
どういうことかというと。各 工場の「仕入れのスパン」が狂うと品切れになる。
例えば、ネジの発注タイミングが遅れて納品されなかったら、松葉杖が組み立てられない。たった「ネジ1本」でも、無ければ製品が仕上がらないのである。
だから「表を作り、細心の注意を払って 発注のタイミングを完璧に管理」しても 工場側で納期が遅れることがある。繁忙期だったり、大手のところの製品発注が大量に入ったりすると、弱小のボクの会社は後回しにされる。
先方は、「後回しにしたから遅れた」とは言わない。機械の故障で動かせなくて・・ とかいろいろ。
でも雰囲気でわかるわな。弱小は 大手とは扱いが違う。
予定した納期に部品が入ってこないと製品にならないから 欠品だ。「あと、あの部品さえ揃えば出荷できるのに」と言っても始まらない。
欠品すると、例えば「アマゾン」での松葉杖部門のランキングが下がる。今まで1位だったのに、3位とか5位とか10位・・ 長期間欠品することになれば、圏外、ランク外になって「オススメ」商品からも消える。
すると 思いっきり 売り上げが下がる。
メインでお勧めされていたスマート・クラッチ が、Amazonから消えること1ヶ月。納品されてきた商品を 慌てて商品登録しても、しばらくはランキングが悪いままだ。
こうなると資金繰りが悪くなり、仕入れも計画通り進まなくなる。支払いが悪くなると、今まで「納品後2ヶ月とか3ヶ月あとに払えば良かったものが、なるべく早く払って」と言われるようになる。警戒されるんだ。
「負のスパイラル」
そう。まさに、こういう「負のスパイラル」に入ると 自転車操業を余儀なくされるね。せっかく儲かったお金は次の仕入れ資金に消えるから常に 手元に お金がない。
こういうのを、黒字倒産 と言うんじゃないの?
流れが悪くなると、仕入れと資金繰りのことばかり考えて。心の安寧が無くなった。
何のためにやってんだろう、とね。奥さんとの喧嘩も多くなるし。疲れる。
世の中に良い商品を流通させて、みんなが楽しくなる社会を作りたい。それで儲けたお金で、自分の音楽を発表するための スポンサーに、自分自身がなるんだ。あと少しで、そうなれたのに。計画がずれていくーー
歯を食いしばって耐えた。
本国、南アフリカのメーカー CEO に HELP もしてみた。
答えは、「日本製の スマート・クラッチ は高いから 仕入れられない。海外での販売は厳しい」というモノだった。「製品的にはすごくいいけど」ってね。
ボクが HELP を出してしばらくすると、台湾人から連絡があった。台湾や中国で「日本製のスマート・クラッチ」を参考に「台湾製のスマート・クラッチ」を作ってみた。価格は日本製の十分の一。どうだ、すごいだろう。
というもの。
勝手にボクが改良したものを「中国製に変えた」んだよね。本国メーカーの許可はとってある、と聞いて。ショックだった。その台湾人が言うには、
「日本のモノ作りは、もはや世界競争力には勝てない。金型だって、中国なら 100 万円ぐらいで作れる。日本製の十分の一だ。他のパーツも 全部 中国製なら 十分の一だ、と」
言われて悔しかった。日本のモノは高すぎる、と。日本のメーカーが海外へ拠点を移す時代。それでいいのか?
その、台湾製、というか「中国工場で作った スマート・クラッチ」を見せてもらった。
似て 非なるもの。
足の長さを調整する部分を伸ばしたり、縮めたり。スライドしてみると ギギギ、と音がして摩擦がすごい。アルミが日本のように真っ直ぐじゃない。表面にでこぼこもある。プラスチック部分も重たい。作りが、雑だ。
でも、価格は 全然安い。本国メーカーが出した答えは「これからは 中国製で行く。日本製は、これでおしまい」と言うもの。今までの苦労と誇りがズーンとのしかかってきて、疲れた。
しばらくは「台湾製」を仕入れて販売もしてみたけれど。面白くない。誇りが持てない。なんか、やる気が失われていく。
それでも、今までの製造費を回収し、資金を提供してくれた人たちに還元して行かなけりゃならないから、頑張るしかない。
また、クレームが入るようになった。南アフリカ製ほどじゃないけど、台湾製も 日本製に比べれば「ここ、クレーム来るかもな」と思う場所が、案の定 苦情になって・・
それでも、頑張るんだ、と思って 経営を続けた。
会社経営を始めて七年が経って 疲れ果てた頃、コロナ騒動が起こり。
自転車操業で、なんとか回していた経営に打撃が直撃。持ち堪えられず、あっさり倒産した。
すべてを失い、自己破産した。
貿易を学び「輸入総代理 権」を獲得し、最終的には「製造 総代理」として製造メーカにもなった。日本製の良い商品を作ることができた。
しかし、コスト面では 全く太刀打ちできない「日本製造」の現実。
理想を追い求め、お金に打ち砕かれた ボクの問題点が どこにあったのか? どうすれば良かったのか?
自分への戒めと、皆さんへの参考になるように以下にまとめてみた。
昔、ホリエモンが 成功するビジネスの 4原則 として、
- 小資金で始められる
- 在庫を持たない
- 利益率が高い
- 定期的な収入が見込める
と言っていた。ボクがやったことは ことごとく この法則から外れたものだったな、と今にして思う。ボクのような失敗をしないためにも 以下 反面教師として 参考にしてもらうべく 共有する。
- 最初こそ、小資金で仕入れていたが、日本製の製造メーカーになり多額の資金が必要になった
- 大量の杖をストックしておくため、大きな倉庫を借り、毎月の固定費が高かった
- パーツの多い、複雑な商品を扱わない。シンプルなものがベスト
- 製品品質にこだわり、初期投資が多く 利益回収まで長い年月を要した
- 松葉杖は、骨折など「短期2〜3ヶ月」で使用する人のニーズが高く 常に新規顧客へのアプローチがメイン。長期使用の「固定客」は少なかった(しかし人気の杖だったため、愛用者は常に現れた)
こうして ボクの ビジネスは 一旦終わりを告げたが、「失敗のまま 終了するわけには行かない」
会社は有限責任なので「倒産すれば 金融機関など 一定機関への支払い義務は免れる」
しかし、知り合いに迷惑をかけたまま 幕引きするわけには行かない。経営者の自殺で多いのは「知り合いに迷惑をかけて申し訳ないから」という理由が大きい。よくわかるよ。だから ボクも諦めるわけには行かない。
小資本、ノー在庫、高利益、定期収入のビジネスを組み立て、挑戦し 知り合いへの 誠意を見せなければ。解決するまでボクのチャレンジは終わらないのだ。そういう十字架を背負っているからこそ、ボクはリタイアなんか考えず RE-BORN 計画を立て、今も走っている。
人生、破産する時もあるさ。でも、うまくいく時だってある。
成功も失敗も、たくさん経験した。
「また 成功する時が、必ずやってくる」
まだ道の途中だ。同じ失敗は繰り返さない。次は 必ず うまくやり抜いてみせるさ。
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